VTuberを支える バ美肉技術者(ねぎぽよし×izm×あしやまひろこ/女装と思想 Vol.9)
筆者紹介
ねぎぽよし
SHOWROOM xRLabでVRアプリを開発するかたわら、趣味でWebサービスのFavClipperやVTuber配信システムLuppetの企画・開発・営業といった全般を行うなど活動は多岐にわたる。
かわいいキャラクターが日常にいっぱいいる世界を目指してアプリを開発する日々。
Twitter: @CST_negi
izm
賽の河原でコミットを積むバーチャル美少女ユニティエンジニア。コンシューマVRゲーム開発やロケーションVR案件を手掛ける傍ら、幾つかのVTuber案件のお手伝いをしていた所、ねぎぽよしに誘われVTuberおたくの集まるSHOWROOM xR Labに入社。
花奏かのん(@_kanade_kanon) さんのVTuberベース演奏プロジェクトのお手伝いや、リオネル陛下(@Lionel_Chienia)の開発手伝いなどを趣味で行っている。
VTuber配信システムLuppetでは顔認識エンジン周りを主に担当。『VRコンテンツ開発ガイド2017 』(エムディエヌコーポレーションから出版)を共著で書いたりしている。最近は人型ホビーロボットのプリメイドAIのハックに熱中。UnitySDKをオープンソースで公開中 (https://github.com/neon-izm/PremaindAI_TechVerification)
Twitter: @izm
あしやまひろこ
1990年神奈川県生まれ。会社員兼個人事業主。2018年4月から、放送大学大学院人文学プログラム(文化人類学)に在学。筑波大学 人文学類 哲学主専攻 宗教学コース卒業。表現、パフォーマンス、地域振興などの研究と実践がライフワーク。代表作品として「ゆかり温泉」、「女子大生10号」、「Color Girl」、「バ美肉フレグランス」、研究業績としては足利市や沼津市におけるコンテンツを用いた地域振興の実地調査に基づく動向研究(本名の五十嵐大悟名義)など。
Web: http://www.hirokotb.com Twitter: @hiroko_TB
E-mail: hirokoas@ジーメール(ジーメールをGmail.comに置換してください)
リード文
(『女装と思想』Vol.9 pp.4-15 より一部修正の上転載)
2016にバーチャルYouTuberの元祖であるキズナアイがデビューした。翌年末にはのじゃおじ(バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん)がデビューし、バーチャルな女装が流行し始め、2018年には「バ美肉(バーチャル美少女(セルフ)受肉)」という言葉も出現した。配信の形式としても、3Dのモデルによるものだけでなく、2018年2月には「にじさんじ」公式ライバーによるLive2D技術を利用した配信が開始されるなど、その幅は広がっている。本特集ではVTuberの稼働システムを支え、自らもバ美肉をする2人のエンジニアを招聘して話を伺った。
『Luppet』とは
WebカメラとLeap Motionで完結する、バストショット特化の3D VTuber向けトラッキングシステム。モデルはVRMに対応。VTuberによる配信などをスコープとし、トラッキング対象を頭・目パチ・手・指に絞ることで、専門的な知識がなくとも動作が可能で、かつ簡易な機材での構成を可能としている。また、機材を有線接続のもにに絞ることで磁気、無線や赤外線などの混線を回避している。そのため、数多くの個人VTuberや、法人などにより幅広い活用がなされている。
バーチャルとの出会い
あしやま 今日は、VTuberに広く使われているソフトウェア「Luppet」の開発者であり、ご自身もニアちゃんとしてバ美肉(注:バーチャル美少女(セルフ)受肉の略。主にバーチャルの文脈で、男性が美少女アバターを用いて美少女として振る舞うこと)おじさん(の魂)であるねぎぽよしさんと、そのねぎぽよしさんの同僚でもあり、これまたizmちゃんとしてバ美肉おじさん(の魂)であるizmさんにお越しいただき、VTuberやバ美肉おじさんを支える技術や思想についてお話しいただきたいと思います。私とねぎぽよしさんは大学の同期で同窓生なのですが、二〇一三年頃に一緒に体験した「Mikulus」(注:GOROman氏制作のOculus Rift DK1向けのアプリケーション。空間内に存在する初音ミクに対峙するもの。日本におけるOculus普及のきっかけの一つとなった)からの影響は大きかったのでしょうか。
ねぎぽよし はい。あしやまさんの師匠にあたる先生から「ヤバいものあるよ」と聞いてわざわざ文系棟まで遊びに行きました。それが、当時は理系の研究棟にもなかったOculusのDK1だったんですね(笑)。Mikulusを体験して、そこに初音ミクが「いる」というのが、めっちゃすごいなと思って。Unityとか初心者なのに貯金を崩してすぐにDK1を購入しました。もともと初音ミクがずっと好きで、ずっと昔から近いところに行きたいと思って、ニコニコ技術部の召喚動画もよく見ていましたし、家にアミッドスクリーン(注:アミッドPが考案した透過型スクリーン)を作ったりもしました。DK1が届いてからは、ずっと開発に打ち込んでいました。それが当時二一歳くらいの夏、二〇一三年の七月八月のあたりです。その年内に、初音ミクと添い寝ができるソフト「MikuMikuSoine」(注:ねぎぽよしが制作した初音ミク関係のアプリケーションの概要は次の再生リストにて公開されている https://www.nicovideo.jp/mylist/35681438)を完成させて、ニコニコ動画にアップロードしたところすごくバズって、とんでもないことになりました。ちょっとした有名人になってしまい調子に乗ってしまったという感じです(笑)。二〇一四年のニコニコ超会議内の第六回ニコニコ学会βシンポジウムという企画にて、ベッドを持ち込んで出展したところ、多くのマスコミにも報道されました。まとめサイトなどで大学の研究と勘違いされ国費を何に使っているのかなどと言われたりしてちょっとションボリもしましたが、ぜんぶ自腹ですからね(苦笑)。今は大学でも真面目に研究をしている人も増えてきましたが、ある意味で五年前でもそういうことをやっていたよ、とも思います。
「初音ミクと添い寝できるアプリを作ってみた」
(https://www.nicovideo.jp/watch/sm21860264)
「初音ミクになって仮想空間を満喫できるアプリ作ってみた」
(https://www.nicovideo.jp/watch/sm28424103)
あしやま その頃に、私も含めてですが、様々な人とのつながりが生まれたとも伺いました。ねぎぽよしさんとも、最初に出会ったときから考えると遠いところに来てしまったな、という感じがします。
ねぎぽよし そんなことないですよ(笑)。とはいえ、名前が売れたことはとても大きな意味があり、オフ会の場でも「添い寝の人ですよね」と既に認知されていて、自己紹介がいらなかったです。こういうときはHIKAKINさんの例を出すのですが、彼がおにぎりを食べるだけの動画でも一五〇万再生されたりしますよね。俺が食べたとしても一再生くらいでしょう。でも、この人は面白いことをする人かも?と期待してもらえれば、その期待には答えやすくなるものです。自分もそのレールに乗ったんだと思います。二〇一四年に「初音ミクとカップルストローできるアプリ」、二〇一五年に「初音ミクといつでも一緒にいられるアプリ」そして、二〇一六年の修士論文では初音ミクなどのバーチャルキャラクタになって会議をするシステムである、「初音ミクになって仮想空間を満喫できるアプリ」を作りました。狭い界隈とはいえ、自分自身がバブルのような状態でした。
izm HIKAKINさんのたとえは確かに正しいですね。一度そういうムーブに乗るということは大事だと思います。
バーチャルを仕事にして夢を叶える
あしやま Mikulusとの出会いからVRの世界に入り、それが、趣味そして仕事になっているのがとても良いですね。
ねぎぽよし 振り返ってみると結構感動します。いつか仕事になったら良いと思っていましたが、そうなったんですよね。僕が大学在学中に、まだ分社化する前のSHOWROOMでインターンをしていたのですが、今で言うところのVTuberのようなものの研究に関わっていました。その後、新卒で入社した先でも社内でVRの勉強会などを開くなどしていましたが、海外の展示会で知り合った方にVRでの新しい企画に誘われ、ジョインすることとなりました。しばらくそこで一人エンジニアをやっていたのですが、SHOWROOMの佐々木CTOに、インターンのご縁で焼肉に誘われて盛り上がり、転職して今に至るという感じです。この時期は人をたくさん集めていたので、僕自身が人事などもしていました(笑)。
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