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もしも自分が作ったキャラクターの名前が思い出の作品と被っちゃったら? みたいな話をします。

(今回の記事には、すでに募集を締め切っているお題を使用しております。締め切っていることは分かっていますが、もう単純に使いたかったので使います。関係あるか!!)

 現在、二十歳の時に執筆し、二十二歳の学祭に出そうとして駄々滑りした脚本を書き直しているのだが、その脚本「漏電パレヰド。」のヒロインの名前が、既存の舞台作品の登場人物と重複してしまった。
 全くまる被りではないが「サトシ」と「サトコ」みたいに、男性名を女性名に変えたぐらいの違いしかない。
 このような場合、セオリーからすれば、もっと言えば、その「『既存の舞台作品』に対する経緯」があるのなら、名前を別の物に変更すべきだろう。
 しかし、その舞台作品に対する敬意と、様々な偶然から、私は敢えてヒロインの名前を変更しない方が良いんじゃないかな、などと身勝手なことを考えている。

 その舞台作品は今から九年前の夏、高校二年生だった私が東京の劇場で観たものであった。そして、何を隠そう、私が初めて自分で「観たい」と言ったお芝居であった。むしろ、この舞台をきっかけにお芝居に興味を持ったと言っても過言ではないだろう。
 私の両親はどちらも演劇への造詣は深くなかったのだが、学校の授業などでお芝居を観ることはあったし、小学生の頃に祖父におねだりをして、吉本新喜劇を見に連れて行ってもらったこともあった。
 しかし、そのような機会に観に行くような大きな劇場ではなく、キャパシティはおよそ百三十席ほどであった。なぜ、舞台を見たこともない私がそんな小さな劇場でやっているお芝居に興味を示したかというと、主人公を演じたのが、当時から私が好きだったあるお笑い芸人さんだったからである。

 このお芝居を見る前日に大阪から東京に移動したまでは良いものの、この旅行中に色々なトラブルが起こり、このまま無事に帰れるのか、私はとても不安になっていた。
 その劇場にはホワイトボードが置かれており、観客はそれを使って出演者に質問をできるようになっていた。質問をしておくと、開演前に出演者が回答を書いてくれるようになっていたのだ。
 ただし、出演者ひとりにつき、質問をできるのはひとりだけという決まりになっていた。このホワイトボードを見た私は、主演を務める「彼」への質問が無かったことを確認してから、質問を書き込んだ。
「遠方から来たのですが、トラブルが起こってしまい、笑顔で帰れるかどうか分かりません。助けて下さい」
 正確な文章は覚えていないが、こんな感じのことを書いたのを覚えている。そしてトラブルのことが気にかかったまま、私は舞台を見た。

 舞台は最高に面白かった。何処かシュールな世界観でありながら、ハートウォーミングな物語でもあった。それまでテレビや配信などでしか見たことがなかったお笑い芸人さんたちが目の前で繰り広げる演技に圧倒された。本当に、格好良かった。
 終演後、私は一緒に舞台を見ていた母と姉に許可を取って、こっそりあのホワイトボードを覗きに行った。そこに書かれた「帰れます」という答えを見て、私はとても勇気づけられた。
 もちろん、「良い思い出で帰ってもらいたい」というのは誰にでもある感情だし、飽く迄もこの質問コーナーは舞台とは全く関係の無いものではあったが、それでも、十七歳の私は「舞台って素敵!」と思ったのは確かだ。

 これをきっかけとして舞台に憧れを持った私は大学に進学後、演劇部に入部し、稽古やスタッフ作業の合間に様々な舞台を見るようになった。
 中学時代から小説を書いていた私はその延長線上で脚本も書くようになっていたが、二十歳の頃に書いた脚本のヒロインである演出家の設定として、彼女の誕生日をこの主人公を演じた「彼」と同じ日にした。
 結局この脚本は一度も上演されるきっかけが無いまま、私は演劇部の黒歴史と化してしまったが、いつかあの作品を読み合わせてみたい、という思いが湧きあがった。しかし、そのまま公開するわけにもいかず、仕方なく設定を変えることにした。


 登場人物の名前を新しく付け直すにあたって、ヒロインの名前を会社の近くにある橋と、学生時代の友人の名前から取った。
 その結果、何処かで聞いた名前になってしまった。それを思い出したところ、まさにあの舞台の主人公によく似たものだったのである。
 本来、作品に対する敬意があるなら変えるべきなのだろうが、私に演劇の楽しさを教えてくれた舞台の主人公の名前と似ているのなら、むしろこの名前を使うことが作品への経緯であるように思えてならないのだ。
やっぱりこのまま考え直した名前を変えない方が良いのかな。つづく。

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