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医師のキャリアと医療IoTビッグデータ活用の可能性

TechDoctor広報担当です。7月は当社で働く医療職にインタビューし、HealthTechベンチャーでの医療職の専門性の発揮と、臨床的現場から見るIoTビッグデータ活用の可能性について聞いていきます。今回は、共同創業者、取締役 代表医師の泉に話を聞きました。

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内科医・産業医・研究者としての経験が礎になっている

ーこれまでの経歴を教えて下さい。
慶應のリウマチ・膠原病内科医局に入ったのがキャリアの始まりです。医学部生時代は自主学習という研究室配属のプログラムでリウマチ・膠原病内科の先生のところでお世話になった際、リウマチの生物学的製剤という画期的治療薬ができたばかりの頃で、新しい治療法が発展していくパラダイムシフトが今まさに起きているのを肌で感じ、初期臨床研修後にリウマチ・膠原病内科に入局しました。また、慶應は歴史的に医学部において産業保健分野の活動も盛んで、入局して早々に産業医も務めるようになりました。さらに、入局して以降は臨床の傍ら関節炎疾患等の研究にも携わっていました。最近ではデータサイエンティストと協力して人工知能を用いた関節リウマチの画像評価の研究や、スマートフォンやウェアラブルデバイス等を用いた関節炎疾患やストレス・WellbeingについてのDigital Phenotypingに関する研究にも取り組んでいます。これまでの研究の延長線上に大学時代の同級生である代表の湊と再会し、TechDoctorを創業するに至ります。

ーTechDoctorを創業する経緯について教えて下さい。
学部は違いますが同級生である湊とは社会人になったあとも定期的にお互いの近況を話していて、湊がまだ世の中になかった位置情報広告サービスの事業をゼロから立ち上げた話を聞いていました。国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)からあるグラントが公募された際に、位置情報と医療情報(personal health record:PHR)を掛け合わせる構想で盛り上がり、以前からPHRの研究および社会実装を行っているシステム医学の洪先生を代表にJSTに提案すると採択され、湊には企業と大学を繋ぐ役として入ってもらって研究を進めていました。そんな折、慶應メディカルAIセンターの会合の際に、現TechDoctor顧問医師の岸本先生のプロジェクトに誘われました。岸本先生は精神科医として、定量化しにくい精神疾患をテクノロジーを活用して客観的な診断や病勢評価を行う研究を行っており、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)からの新たなグラントへの提案を計画しているところでした。そこでは、企業の従業員の方々を対象に健康経営オフィスを実現するため、ウェアラブルデバイスやPCカメラで得たフィジカルデータと音声データによるストレスや幸福(Wellbeing)の程度を可視化する研究を提案すると採択され、湊は企業側のプロマネとして、私はAcademia側のプロマネとして参画しました。その研究をきっかけに、湊とともにTechDoctorを創業して今に至ります。私は、研究のための研究で終わらせたくない、社会で使われてこそ価値があると考えていました。小さな一歩でもいいから何か動き出さなくてはいけないという思いから創業することを決めました。

ーTechDoctorで今どのような業務をされていますか?
医療現場導入に向けた事業開発を中心に取り組んでいます。その他、研究機関や製薬企業で使ってもらう際に、研究者として使う側への助言をしたり、クライアントのネットワーキングや顧客開発をしたりしています。また、自分自身でも使って、産業医現場等で事例を作る試みをしています。

ー仕事上の課題や強みに感じることはありますか?
難しいと感じたのは、プロダクト開発の携わり方です。エンジニアさんの手戻りにならないように気を付けようと意識しています。考え切ってから伝えるようにしないといけないけれど、考えるのに時間がかかっても開発が遅れるので、自分の中でジレンマが生まれます。深く早く考えるよう心掛けています。また、多職種の方々と一緒に仕事をする上で、コミュニケーションの大切さも実感しています。医療現場では目の前の患者さんの困っていることを改善することが目標であり、多種の医療者間での目標共有は比較的しやすいですが、スタートアップにおいては、究極的な目標はユーザーにとっての課題の解決ではあり医療現場でも同様であるものの、短期~中期的な目標設定とメンバー間での目標の共有に難しさを感じました。コロナ禍でもあり対面する時間が少なくなる中でいかに各人とお互い意思疎通をし合うかということが結果に直結します。一方、強みは、臨床・研究・産業保健の場に身を置いていてユーザー目線に近いため、マーケットインで考えられることだと思います。特に、従業員や企業との中立性を保って臨む産業医の経験や、臨床や研究における現場での経験が生きていると感じます。

IoTビッグデータ活用がこれからの医療発展に重要

ー医師としてビッグデータ活用の可能性についてどう考えますか?
これまでの診療は受診時の情報が点で存在していました。日常生活での状態を医師が問診で推察することで、その点と点を繋いできたと言えます。現在、ウェアラブルデバイスやスマホなどのIoT機器の性能が向上し普及したことで、これらを活用して継続的にフィジカルデータ等が記録され、医師と共有できるようになり、医師は患者さんの状態を”線”で知ることが可能となりました。患者さんの状態の把握が短時間でそして高精度になることも期待されます。例えば、初診で不整脈の訴えが合ったとしても、実際に不整脈が受診時に起きていないと、不整脈なのかどうかその場で判断できません。ウェアラブルデバイスによって医療機関にいなくても脈拍が乱れている最中に心電図がとれて、記録されたデータを患者さんが持っていることによって、診断・治療が迅速になると思います。さらに、データを経時的に蓄積することによって異常が出現する予兆を捉えるということもできるようになるでしょう。実際、急性腎障害を約70万人分の電子カルテの時系列データを学習することで発症前に予測したという英国DeepMind社の研究(Tomasev et al. Nature 2019)や、約1.4万人の経時的な腕時計型ウェアラブルデバイスのデータから糖尿病、高脂血症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群を予測したというサンフランシスコのスタートアップCardiogram社の研究(Brandon et al. 32nd AAAI Conference on Artificial Intelligence)もあります。今後、オンライン診療の広がりと高齢化社会のなかで、遠隔診療やセルフマネジメントの精度向上にデータ活用は寄与するものと考えています。

ーどんなことが医療分野でのIoTビッグデータ活用の障壁になるでしょうか?
膨大なIoTデータを扱うのは誰でもできるわけではなく、医師や研究者だけのチームでは難しいと思います。まず、分析以前に取り扱いができることが重要です。セキュリティや個人情報、倫理的な観点やIoT機器の技術的な点等が取り扱いの際の障壁になり、また得られた膨大なデータを解析する人材の少なさという点もボトルネックになります。その点、TechDoctorのチームは広告業界でビッグデータを取り扱っていたエンジニアやデータサイエンティストが多く、取り扱いや分析のノウハウがありますね。実際に製薬企業や研究機関の方々からお声をかけて頂くことが増えています。


医療×テクノロジーはトレンドになる

ー泉さんは医師でありつつTechDoctorで広く携わっておられますが、医師がHealthTech企業で働くことが強みになると思われますか?
現在、医療・医学は学際的にボーダーレス化していると思います。いろんなジャンルの領域と交わり合って医療分野は発展しています。研究分野では、エンジニア・データサイエンティストの方々と一緒に研究することが非常に多くなっています。臨床医しかしていなかったとしても、医療機器としてアプリやウェアラブルデバイスが認められ、保険適用になるものもあり、デジタルテクノロジーの話は避けて通れない時代が来ていると感じます。自分の体調をこういった機器を使って管理するのがもっと当たり前になってくるでしょう。医師を含め医療者は患者さんなど困っている人のそばにいる職種です。困っている人が必要としているものが何であるかを日々感じている医師がHealthTech企業で働くことで、医療とテクノロジーの掛け算によって困っている人に役立つソリューションを生み出せるのではないかと思っています。そのソリューションを医療現場に還元して、さらにブラッシュアップしていくことができるのもHealthTech企業で働く医療者の強みだと思います。

ーどんな方に合っていると思われますか?
臨床をやっていると、患者さんをよくするということが全てで、ある意味シンプルです。一方、スタートアップだとそもそも短期・中長期のゴールをどこに置くかということを考えるし、ゴールに向けた登り方も前例のない中ゼロから考えることも多々あり、また結果がすぐ出ないことも多いです。0→1を楽しめる人は向いているのではと思います。医療現場で働きながら、医療を提供する側、される側の日々のアンメットニーズを感じていて、それを解決したいという思いがある方ですね。ひとりでは解決しにくいかもしれないけれど、いろんな職種の方々と協力して、日々少しずつでもお互いに成長することを見出しながらやりがいを感じ、問題解決に取り組んでいける方が向いているのではないかと思います。


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