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タイタン

書名:タイタン
著者:野崎 まど
出版社:講談社
発行日:2020年4月22日
読了日:2020年7月26日
ページ数:386ページ
7月 :4冊目
年累計:21冊目

なんかすごい小説を見つけてしまった!!

AI(人工知能)を扱った小説は過去にも
何冊か読んでいるけれども、これまた衝撃的な1冊でした。

ちょっとネタバレもしたいので
ネタバレなし、ありに分けて書きます。

人工知能だけでなく、哲学、心理学
そうした事に興味ある方にもぜひおすすめです!!
”仕事”という概念が人間からなくなった未来。
どんな事が起きるでしょうか?
では、未来においての仕事とは何でしょうか?

読んでいてワクワクしますし
ラストにかけて、なぜ?が一つずつ解き明かされて
私の”仕事”に対する考え方がまた一つ変わった気がしました。

そんな本です、読んで損はないです!!

①ネタバレなし

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。(本の裏表紙より)

物語はこちらにあるように
AIがいわゆるシンギュラリティを超えた2205年のお話である。
今が2020年だから約180年後のお話なので
実際ありえるんじゃないか?って思えるほどです。

そしてこの時代は現代でいう”仕事”を含めた全てを
AIのタイタンがやってくる世界であり

・仕事、職場の風景
・臨床
・売買


こうしたものも過去のものとなっていた。
何でも手に入り、人は働かず
全ての行動は趣味以外の何ものでもなくなっている
そんな世界…。すごい!

さて、そんなタイタンとは何なのか?

【タイタン】本書021

人間の代わりに仕事を行うもの。
人間の暮らしをサポートするもの。
それらを自律的に行うもの。
産業機械、建築機械、輸送機械、掃除機械
センサー、ネットワークで繋がるもの、統合処理AI
それら個々の呼称であると同時に、それら全ての総称。

そんなスーパーAIがなんでもやってくれる世の中。

そんなAIが機能不全に陥ってしまう。
人々はAIのタイタンに依存する生活をおくっている。
まさに水道・電気・ガス・通信と同じか
それ以上のインフラとなっているタイタンに
異常が起きてしまった。

まさかのAIがうつ病なのか?!

それをなんとかしてほしいと依頼されたのが
主人公である「内匠成果」

これ以上になると、ネタバレになるので
まだ読んでない方はここまでにしてください!!

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②ネタバレあり

タイタンは世界に12拠点存在していて
各拠点にタイタンAIの本体が収められている。

そして1拠点のAIが約10億人の生活をカバーしている。
つまり、2205年には約125億人が生活している。
現実的には2064年頃には97億人近く人口は増えるが
21世紀末(2100年頃)には110億人になる推計も発表されているので
あながちありえなくはない。

さて、そんなAIは2種類に別れる。

・最初期(汎用AI)
・後期(専門より)

設立された時期によってAIの役割もより
スペシャリスト型になっていく。
なんかこういう設定もすごく面白い。
実はこれは後半の伏線だったりもします。

そして、タイタンにはニックネームがつけられていて
ギリシャ神話のタイタンの名前が順番についていて
機能不全に陥ったタイタンは「コイオス(知恵の神)」

色々なAIがいるが、その設計思想は全て同じであり

「人間知能を基底とするもの」

である。

さて、”内匠成果”に与えられた仕事とは何なのか?

それはAIであるコイオスと”対話”して
機能低下の原因を直接”聞き取る”という事である。

人工知能と会話して本人になぜ
機能低下したのかをヒアリングする。

実際、AIと会話してAI自身がどこに不具合があるのか?
不調の原因は何なのか?
こんな事はいずれ近いうちに実現できるのかなって思いました。

AIがAIをカウンセリングするのではなくて
AIを人間がカウンセリングする。

なんか今の時点だと考えられないけど
すごく斬新な発想だと思う!!

なぜそこまでしないといけないのか?

全てをAIに頼り切った未来は
そのAIが狂ってしまうと人間は全くの無力で
何もできなくなってしまう。

ある意味、AIの進化と反比例して
人々は退化してしまったのかなと思った。

現代においてもパソコンが普及する事で
漢字がわからなくても、自動で変換してくれる。
わからない事があってもGoogleで調べれば
何でも教えてくれる。

きっと近い将来に自動車免許も不要になり
交通ルールや標識の知識がなくても
誰でも車を操れるようになるだろうし
そのうち、語学に関しても何不自由なく
世界中の人々と会話ができるだろう。

そう考えると人々は努力もしなくなるし
その分、自由に使える時間は増えるけれども
退化してしまう?なんて事を思いました。

さて、少し脱線しましたが本書に戻ります。

そして、後半には別のAIが出てきます。
それは

「フェーベ」

自身の力で人格形成もできるタイタン。
フェーベはより高度なAIであり、コイオスの先を行く存在。

このフェーベはコイオスのカウンセラー。
つまりタイタン・AIのカウンセラー。

なんか人工知能が人工知能をカウンセリングするのも
すこしというか、かなり奇妙な感じがする。

ネットワークを介して、お互いやりとりしているのに
やはり対面でないといけない事がある。

なんか、コロナ禍の今の世界においても
少し共通するものを感じた。
やはり電話だけで済むものとそうでないものがある。
それはカウンセリングでもAIでも同じ事なのかな。

そして、コイオスはフェーベに会うために旅路に出る。

この物語の基軸になるのは”AI”と”仕事”。

コイオスのカウンセラーとして26才で初めて
仕事をする”内匠成果”がコイオスとの会話を通して
臨床心理・カウンセラーとしてのやりがいを見出していくところに
この物語の面白さがあると思った。

途中(297頁)で
「いつから私は、こんなにも仕事が好きになってしまったのだろうか。」
こんな一文があるが、それはコイオスとの時間に
意味を見出していたのかなと思う。

そして、ラストにかけて
仕事の意味を内匠成果とコイオスは理解する事になる。

「仕事とは」

<<影響すること>>
<<影響を知ること>>
仕事をするだけじゃダメなのだ。
仕事をした、と思いたいのだ。

353頁〜356頁にかけて
図の説明があるのだけれども
これがとってもわかりやすい。

・何か力をかけたのに動かない(影響しない)
・何も力をかけてないのに動く
これらは仕事とは言わない。

そして、仕事と結果は見合っていなければならない!!

これはすごく自分にはしっくりきました・・・。

なんら努力もしてないのに結果が得られたり
退屈にしてるだけなのに報酬がもらえたり
…。それはその時はラッキーと思うかもしれないけれども
そこには”やり甲斐”はない。

私なりに解釈すると

「仕事とは何か入力(インプット)があって、その入力に対しての
適切な出力(アウトプット)がきちっとある事」

かな。

この適切なっていうのと入出力があるというのが
ポイントかなと思います。

ここで判明することは
コイオスが機能不全に陥っていた理由は

「”人間の世話”という過重労働で病んでいた」のではなくて
「”仕事が簡単すぎて”心を病んでいた」のである…。

物語の起点にもなっていたコイオスの機能不全の謎と
仕事についてがここで結びついて明らかになる。

私はきっとAIが過負荷で動かされてそれに疲れてしまって
きっと機能不全になったのだなと思っていたので
まんまとその逆だったと知ってすごく驚いたとともに
野崎まどさんはストーリーテラーだなぁって感嘆した。

仕事が簡単すぎる
やり甲斐がない

これは現在の世界でもよくありうる事で
徐々に無気力になって、時に精神的に病んでしまう事もある。
こういう場合は転職して次のフィールドにいく人が
ほとんどだろうけど・・・。

子供が天才(ギフテッド)過ぎて
周囲と同じ環境で勉強していると、物足りなくなる
そんな事と似ている気がする。

まさか、AIが人知を超えて信じられない領域に到達して
さらに人格を持ち始めると、こんな事が起きるのかもしれない。

私の好きな分野の人工知能、心理学、哲学
さらにスケールの大きい物語としても読み応えもあり
とにかく面白かったです!!!

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