見出し画像

書評『人口で語る世界史』

人口で語る世界史
ポール・モーランド(著) / 渡会圭子(訳)

無題

コレから日本は政治的にも経済的にも技術的にも文化的にも二流以下の国になり、国際的な発言力どころか存在感も無い国になって行く訳だが、まあ僕らが、日本会議の会合に毎年素敵なビデオメッセージを送っているような人物が総理大臣である事をベストの選択と思っていた様な状況では致し方ない事だ。
未来の年表とかいう本を読んでも、著者は移民など受け入れずに誇り高くシュリンクしようとしか書けない訳で、もう僕らは、変化しない為にはどんなリスクを犯しどんなコストを掛けても、どんな事でもする或いは決して何もしないのだなあ、と思わざるを得ない。
しかし、南京大虐殺もインパール作戦も従軍慰安婦も特攻隊も間違いだったと言えない人間達が政治家ヅラしてる事を、みんな恐ろしいと思わんのかな?

ソレは良いとして、日本がそんなになっちゃう頃、世界はどんな形をしているのかを読み解くのに、人口の変動状況から考えるというシンプルで説得力の有る切り口で書かれた本。今までも有りそうで、きっと有ったんだろうけど、こんなに面白くエキサイティングに書かれたものは初めてなんじゃないかと浅学ながら思う次第です。
何より人口変動って統計だから確度の高い予想が立てやすい。過去の歴史も人口変動ベースで考えると、たとえば何故、19世紀以降の世界史はヨーロッパ(とアメリカ)がリードしているのか、説得力の有る説明が可能だ。今、世界中で英語が話されているのは、世界で初めて人口爆発を経験したのがイギリスで、そこから物凄い数の人々が世界中に拡散し、コミュニティを作っていったからなのだ。イギリスは19世紀の100年だけで、世界中に大量の移民をばら撒きながらも国内人口は4倍に増加している。
ドイツはヒットラーが人工中絶を死刑にしたり多産な母親には金メダルをあげたりして頑張ったけど、出生率はちょっとしか上がらなかった。まあ政治家が愛国を称揚するのは大抵その排他的な機能を利用する時で、そんなもんマイノリティを迫害する時には最大限の効果を発揮するってだけのファンタジーに過ぎない。そこはドイツの皆さんもよく分かっていてクールに自分の都合を優先した様デス。そりゃ誰でも趣味より生活が大事ですよね。

ヨーロッパの人口変動が2つの世界大戦を準備した様に、人口変動はその一国だけではなく国際社会にも大きな影響を及ぼす。何故イスラエルはガザ地区とヨルダン川西岸地区を併合出来ないのか、アフリカが前世紀にヨーロッパから独立できたのは何故なのか、アラブの春は何故起きたのか。シリアの人口はフランスから独立して60年で6倍以上に増加している。出生率があがれば若年人口が増え、若者の人口が極端に多いと暴動が起きやすい。パレスチナ人の年齢中央値が上がればインティファーダは起こらなくなるだろう。
他にも、「特に出生率が低い国は、女性が教育を受け仕事を持つことが奨励される一方、婚外子が好まれない国である。職場が女性の受け入れに前向きで、男女問わず仕事と子育てが両立できる対策が取られている国の方が出生率ははるかに高い。」とか、高齢化社会はエネルギーと創造力に欠けるが犯罪は減少し治安は良くなる、など示唆に富む。確かに日本も、同調圧力が強くて他罰的な社会すぎてイマイチ体感治安が上がらないが、実は治安は年々良くなっている。定年の年齢も年金の給付年齢もどんどん上がっていくのだろう。

日本の話だと、江戸時代に人口増加が抑制された原因の一端が、全出産の10%〜20%を占めたとも言われる親による子殺しだった、とか結構ショッキングな話も紹介されている。そんな日本は非ヨーロッパ人国家以外で初めて近代化に伴う人口爆発を経験した国なわけだが、現在はヨーロッパ人国家を追い越し、世界に先駆けてどこよりも急速に高齢化が進んでいる。昨今の政治状況を見ると、僕らにはこの少子高齢化を本気で解決しようという意志がないのは明らかに思われる。僕らは今後も、移民を受け入れず、婚外子どころか夫婦別姓も認めず、女性が子どもを持ちながら働く事を保障しようとしない政権を選び続けるだろうから、当分の間、日本は人口動態的には世界の先駆者として注目を集め続けるだろう。その結果、老人が何カ月も前に孤独死した状態で発見されても、その部屋が事故物件と呼ばれることはなくなるだろう。ありきたりな現象はもはや事故ではないのだから。多分僕らは既に年を取りすぎて、日本の未来を真面目に考えることが出来なくなっているのだ。

さて、サハラ以南のアフリカは1950年以降1億8000万人から10億人近くと約5倍になり、2100年には更に4倍になると言われている。特に驚くべきはナイジェリアで、現在の1億8000万人から、なんと8億人になると予想されている。ナイジェリアがこのまま分裂したり不幸なトラブルが起きたりしなければ、中国やインドの様な地域大国になることはほぼ確実だ。また大規模な人口流出が起きる可能性も高いのではないだろうか。
都市も郊外も空き家、空きビルだらけ、商店街なんてものは無くなり学校の数も大幅減、地方では自治体がいくつも消滅し、豊かな自然の中に老朽化してどうしようもなくなった原発が横たわっている。そんな日本が彼らにとってのワイルド・イーストにならないと誰が言えるだろう?そして僕らの子ども達が、海の向こうから僕らの街に引越して来た、若くてテンションが高く野心に満ちた人々と一緒に、どんな文化を育んで行くのか、考えるととてもワクワクする。もしかしたら、100年後は、日本のエンペラーは、アフロヘア、さらに言えば、その詠む歌、頭韻では無く脚韻、踏んでいるかも知れない。その頃のジャズはどんな音楽になっているのか、全く想像がつかない。でも絶対に楽しいに決まっているのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?