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匂いと巡る思い出(後)


実家に帰った日から2ヶ月後
僕は地元で1番大きなイベントホールの中に
セミカジュアルな格好をして
同窓会へと参加していた


あの時は、行く予定なんて微塵も無かったけれど
気が付いたら
出席に丸をして
封筒を送り返していた


久し振りに会う友人や
見かけた事のある顔とすれ違う度に
心が浮き足立って
この場から逃げたしたい気持ちでいっぱいになっていた


そんな僕の気持ちと裏腹に会は盛り上がり
僕は仲の良かった友人と酒を交わして
ただ、時が過ぎるのをおとなしく待ち続ける

そして開始から2時間が経ち
いよいよお開きになりそうな雰囲気が出始めてきた
僕は友人に別れを告げ
みんなより一足先に
会場を後にしようとした時

ふと、懐かしい匂いがして立ち止まった
それは、好きだった人の匂いでも
実家のタンスの匂いでも無く

ただ、ただ懐かしい匂いだった

今思えばこれはきっと全ての思い出の匂いだったのだろう


(久し振りだね)

僕がはっと振り向くと
あの頃と変わらない面影をしている彼女がいた
少し大人びて
また綺麗になったのだろう
変わらないなんて少し失礼だったな
僕は

(久し振り 元気にしてた?)

だなんて、なんの捻りもない返しをした

僕はあの夏の日の事を何度も後悔しては
気にしない様にと2つの思いを天秤に掛けてきた

きっと今日こそ、その結果を自分で出す時なんだろう
そう、心では決心しながらも彼女とたわいも無い話で
会話が弾んだ

30分ほど経ったのだろうか、ぼちぼち周りの人間も
会場を後にする人が増えてきて

最後1杯飲んで帰ろうかなんて話した後に
君がグラスを取ろうと伸ばす手の薬指に
キレイに光るモノを目にした


あの夏の日はきっと彼女が彼女でいる最後の日で
最後のわがままだったのかも知れない

こんな事ただの妄想で
彼女が僕の事を気にかけていたなんて
真実はどこにも無いけれど


昔の思い出と一緒に流れてくる
あの匂いはきっと
僕の中で巡り続けていくのかも知れない


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