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朝露

目の前にある現実、への未練が、叶うはずのない空想、の価値を下回ってしまったとき、ひとはどんな行動に出るのだろうか。

現実がままならないものであるほど空想の世界に逃げる時間が多くなってしまうわたしにとって、それは無視できない疑問であった。

もしも――万にひとつ、それ未満の可能性の話で――わたしがままならない現実を放りだしてしまうことがあったとして、そんな状況に陥ってもなお、おそらくわたしは空想の世界に救いを求めるだろう――いや、そんな状況に陥ってしまったからこそ。

けれども現実を放棄し、逃げた先で空想が現実になる可能性はゼロに等しい。
だからわたしはどれだけ現実がままならなくとも、本当の意味で現実から逃避することなどはできないのだ。

そんなことにも気がつけず、ただうっとりと空想に耽っていられた幼いわたしを、心底羨ましく思う。
今となっては空想は一瞬の極楽に過ぎず、幼い頃のように「いつかこれが現実になったら・・・・・・」なんてめでたい考えは、1秒たりとも脳裏をよぎることはないのだから。

空想の世界に身を置いていても、視界の隅に現実がちらついている。
長い、湿ったため息が喉の奥の方から漏れ出て、その湿り気にうんざりしながら少しずつ空が明るくなるのを眺めているわたしは、この世でいちばん無力だった。

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