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セルフケア:チームよりも対話よりも前に大切なこと

「チームわが家を創るためにはまず、対話が必要です!」
「わかってる!けど、家族の対話ってのが一番難しいしハードル高い!!!」

かくいうわが家もお互いに調子がいい時は比較的話ができますが、喧嘩中は「話しかけた方が負け」ってな感じで徹底抗戦。
対話どころか目も見ないし挨拶もしない、そんな日々もありました。(今もたまにあります)

でも、何事においてもチームとしてやっていく限り、チームメンバーとのコミュニケーションは不可欠。業務連絡だけではなく、お互いの考えを共有したり、意見を伝え合ったり、議論、相談、調整、報告などなどさまざまな種類のコミュニケーションが必要です。

中でも、家族として大切にしたいことや自分の軸となる価値観を共有する対話はチーム創りのベースとなったり、判断の基準になったりする大切なもの。難しい!けれど、避けては通れません。

では、対話が難しい家族は、どんなに苦しくても喧嘩しても向き合って対話するしかないのか?それとも誰かが我慢をしてワンオペで頑張り、チームになることを諦めるしかないのか。

その問いのヒントを前回ご紹介した家族レジリエンスに発見!対話は避けては通れないけれど、ガチガチに凝り固まった肩の力が抜けそうなヒントが見つかりました。

チームレジリエンスのプロセス

家族レジリエンスは、困難なことが起きた時にそれを乗り越える力またはそれにより個人や家族が対応力を獲得し成長する過程を指します。

チームレジリエンスの過程を表したのが以下の4つのステップです。チームわが家構築のプロセスも言葉は多少違いますが、ほとんど同じです。

参考:https://www.cultibase.jp/articles/10125

まずは見えている景色の共有です。同じ出来事を見ていても、一方は「大した問題ではない」と捉え、他方は「大問題!」と捉えていたら、そこにある困難や課題が見えません。対話を通してお互いにどう見えているかを共有し、景色のすり合わせをします。

景色が共有できたら、次は課題の定義です。例えば、課題が一時的なことなのか、継続的に取り組まないといけないことなのかによっても対処の方法が変わってきます。対話を通して課題が何なのかの目線を合わせます。

その後、対処の実行、対応力の獲得となるわけですが、最初の二つのステップがうまくいかないと、進むことができません。

やっぱり対話じゃん!困難なやつじゃん!
諦めるしかないじゃん!
そうなんですが、なんと!チームレジリエンスのプロセスはこの前段階があったのでした。

チームわが家1.0に抜け落ちていた「セルフケア」

チームレジリエンスの前にあるのがセルフレジリエンスです。そして、その一番最初にあるのが「セルフケア」。対話をするためにはまず最初に家族の一人ひとりがコンディションを整える必要があるのです。

参考:https://www.cultibase.jp/articles/10125

対話には労力がかかります。精神的な余裕がないとできません。
育児と家事と仕事と、毎日こなすことで精一杯で、気づけば自分自身のこともいつも後回し。自分のケアは優先順位が一番最後になりがちです。リストの最後にはとうてい行きつきません。自分のケアができていない状態で、冷静に対話し物事を整理し対処することはできません。

チームわが家1.0は「整理と共有」つまり、対話からスタートしていました。セルフレジリエンスの最初のセルフケアがすっぽり抜けて落ちていました。セルフケアがないまま「まずは対話しましょう!」と伝えていたことがチームわが家の重苦しさの一因だったと考えられます。

家族との対話が難しい、気が乗らないと感じたら、まずは一人の時間を作ったり、趣味に没頭したり、体を動かしたりとなんとなく、誰かに愚痴を言ったり、自身が抱えているストレスを解消することが必要で、自分のコンディションが整ってから整理し、その後に対話を始める。こうすることで少し冷静に話ができる。

確かにそうかもしれません。自分に心の余裕があれば、感情的にならずに冷静に話したり聞いたりできるかもしれません。ただ、それだけではまだちょっと足りない気がします。

家族としてのセルフケアとは?

一人の時間を持ってリフレッシュしてすっきりして、その瞬間はなんでもスムーズにできちゃう!気がするけれど、家族が帰ってきたらやっぱり「無理!」と感じてしまう。

一人でリフレッシュは必要ですが、家族の関係性がよくなければ、対話はうまくいきません。家族がチームであるならば、個人のセルフケアと同様、家族の関係性のケア、「家族としてのセルフケア」が必要なんだと思います。

家族看護学の分野では支援者が病気の家族を抱える家族のケアを行うことがあります。その家族がどのような状態かを把握し、家族の関係性がよくなるようなコミュニケーションのサポートをしたり、必要なスキルを教えたり。悩みを聞いたり、相談にのったり。第三者が介入し、家族をケアすることで、家族の困難を乗り越えるための方法と強さを家族が身につけるのです。

このように第三者の力を借りることもできますが、家族が自分たちで行える家族の「セルフケア」とはどのようなものがあるのか。少し考えてみました。

家族みんなで旅行する、一緒に美味しいものを食べる、パーティーをするなど、特別なことをするのもいいでしょう。けれど、きっと個人のセルフケアと同様、一緒に晩御飯を食べる、洗濯物をたたみながらおしゃべりをする、ごろごろしながら戯れ合うなど、日々の何気ない家族の営みの中にこそケアがあるのだと思います。

毎日毎日大変なことがてんこ盛りですが、家族との日常には楽しいことや面白いことも溢れています。けれど、時間的にも精神的にも余白がなくなってくると次第に頭と心が「大変!」に支配されてしまいます。そしていつしか、何気ない楽しさや面白さが「大変さ」に埋もれて、そこにあるのに見えなくなってしまいます。

でも、やっぱり「大変!」なんです。日常を楽しめと言われるとさらに楽しめない気がしてきます。家族との日常の面白さや楽しさを「大変!」から掘り起こすこと。ここに家族のセルフケアのヒントがあるようです。

続きはまた次回

参考文献:
Alliger, G.M., Cerasoli, C.P., Tannenbaum, S.I., & Vessey, W.B. (2015). Team resilience: How teams flourish under pressure. Organizational Dynamics, 44, 176-184.
池田めぐみ, 2022, 困難を学習資源に変える、チームレジリエンスの基本プロセス:連載「チームレジリエンスの科学」第5回 https://www.cultibase.jp/articles/10125
Hill, Reuben 1958 Social stresses on the family. Social Casework
鈴木和子・渡辺裕子・佐藤律子, 2019, 『家族看護学- 理論と実践 第5版』 日本看護協会出版会.
得津愼子, 2012, 家族の持つ回復する力を信じて 家族看護学研究. 第17巻 第2号 , 99-104
得津 愼子 2015,「全体としての家族」主体のソーシャルワーク実践に おける家族レジリエンス概念導入の有用性  総合福祉科学研究第6号, 1-11