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大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話⑤

自分の部屋でコタツに入りながらバイク雑誌を見ていた。すると携帯電話が震える。カチッと開けてみてみると、はぎからのメールだ。液晶モニターには「いいってよ」という文字が映し出されていた。

はぎは地元の友達で、小中高大と僕と同じ進路をだった。高校では別々のクラスで、廊下でたまにすれ違う程度で会うことは少なかったが、小学校中学校の時は良く同じクラスになっていた。はぎは警察官の息子で正義感が強く優しく明るい。イケてないグループでも、イケているグループでも、ヤンキーグループでも、分け隔てなく接するはぎがクラスの中心にいるのは必然だった。

そんなはぎからのメールだった。はぎから白田が400ccのバイクを買ったと聞いていた。白田も地元が同じで小学校、中学校が同じだった。特段仲が良いという関係性ではなく遊ぶ関係ではなかったが、全く話さないという関係でもなかった。会えば話すし、すれ違えば挨拶する。しかし連絡先は知らない。子どもなりのご近所付き合いの関係。そんな言葉が合う関係性だった。そんな関係の白田がバイクを買ったということを聞いたのだ。

白田がバイクを買ったことを聞いた僕は、はぎにお願いし、白田にバイクを見せてくれるように頼んでいたのだ。その返事が来たのだった。

地元が同じで知っている人が、バイクに乗っているというだけでワクワクしていた。買ったバイクもHONDAのcb400sfスーパーボルドール。50万前後の価格で僕たち学生にとっては良い値段だ。久しぶりに知り合いに会う緊張とバイクを見れるワクワクが重なり合っていた。

そんな気持ちを抑えながら、ポチポチと携帯電話のボタンを押し、はぎに返信をしたのだった。


翌日夜9時ごろ、僕は家の玄関の前に座ってた。

どこか遠くからバイクの音が聞こえる。音がしてくる方向をみてみると、バイクのヘッドライトの明かりが見えて近づいてきた。400ccのバイクと原付が玄関の前で座る僕の前で止まった。400ccのバイクに白田が、原付にはぎが乗ってきた様子だった。白田とはぎはヘルメットを外した。

「よー!久しぶりやね!」と僕が声をかけると

「オザ!久しぶりやね!」と白田言った。

懐小学校の時代のあだ名を呼ばれ、僕はなんだか懐かしい気持ちになった。

「はぎも結構久しぶりよね?はぎ原チャ乗ってんだ!」

「高校の時以来よね。原チャは通学用に買ったんよ!」

久しぶりに友達に会い、テンションが上がっていたが、ふと白田の顔をみるとどことなく暗かった。

「どうしたと?白田!テンション低いやん!」と言うと

「いやー、買ったばっかりなのに立ちゴケしてしまたんよ」とバイクの方をみた。

バイクを見てみると右のウィンカーが90度に曲がっていた。垂直に垂れ下がったウィンカーがまるで泣いているかのように見える。

「鳥部も今バイクの免許取ろうとしているから、今度みんなで集まろうよ」

白田は壊れたバイクを見せる恥ずかしさなのか少し難色を見せたが、バイクを自慢したいという欲求が勝ったのか承諾してくれたのだった。




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