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ダイバーシティの本質を肌で感じる職場体験、「バリアフルオフィス」へようこそ。

「ダイバーシティ」や「インクルージョン」といった言葉を、よく耳にするようになりました。
D&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)を経営戦略として打ち出している大企業も多く、「D&Iはビジネスに必要だ」というニュース記事も目にします。

直訳すると、ダイバーシティは多様性、インクルージョンは包摂を意味します。しかし、言葉としての意味はわかっても、その本質を理解することはなかなか難しく、学ぶ機会もあまり多くないのが現状です。

「多様性を包摂する」という言葉からは、「多数派が少数派を受け入れる」というニュアンスに感じる人もいるかもしれません。
多数派の価値観が基準となっている社会構造を見直さなければ、ほんとうのD&I推進にはつながりません。

少数派であるとは、どういうことなのでしょうか。

多数派と少数派を逆転させてみると

私たち「チーム誰とも」では、「バリアフルレストラン」という企画を2020年2月に開催しました。

バリアフルレストランは、「車いすユーザーであることが当たり前」「二足歩行する人が障害者」な社会を前提としたレストランです。
多数派と少数派を逆転させた仮想世界を通して、社会の仕組みから障害が作り出されていることを体験するプログラムです。

そして今回、バリアフルレストランの企画をもとに、より手軽に多くの人に体験していただける「バリアフルオフィス」を開発しました。

バリアフルオフィスでも設定は同じ。車いすユーザーが多数派の仮想世界のなかで、二足歩行の体験者は「障害者雇用の一環として」企業に入社します。障害者の初出社の日に、健常者たちはどのような受け入れ方をするのでしょうか。

実際にバリアフルオフィスを体験された方の声を交えながら、そのプログラムをご紹介します。

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「この扉を通り抜けると、そこは車いすユーザーが多数派の世界です。皆さん新入社員として頑張ってくださいね」という説明を受けて、プログラム参加者はバリアフルオフィスに通されます。

天井の低いフロアに入ると、車いすユーザーの先輩社員たちが、「障害者雇用枠で採用された新入社員」という設定の二足歩行者の体験者をあたたかく迎え入れてくれます。

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先輩たちは歓迎のことばをかけてくれるのですが、天井の低さが気になってあまり耳に入りません。車いすユーザーは特に気にならないのかもしれません。この世界の建物の天井は二足歩行者にとっては低すぎるようです。

かがんでいると膝がだんだんつらくなってきて、「ちょっと座らせてもらえませんか?」と言いたい気持ちになるのですが、新入社員の立場ではそんなことを言い出せません。

腰をかがめながら社員の自己紹介を聞かされていると、先輩社員のひとりがようやく気づいてくれました。

「そういえばヘルメットがありましたね。誰か使いますか?」
「椅子も準備してありますよ。誰か座りますか?」

二足歩行の新入社員(プログラム参加者)は3人いるのに対して、用意されたヘルメットと椅子はひとつずつ。もしかすると、法律で定められた最低限の数しか用意していないのかもしれません。

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続いて、新入社員の自己紹介です。

参加者のひとりが、就職する前にはコンビニでアルバイトをしていたと話すと、「すごいですね! 障害者の方がコンビニで働いているところなんて見たことがないです!」という反応が返ってきました。
別の参加者が、以前は広告会社で働いていたことを話すと、先輩社員からは「障害者ならではの視点を活かしていたんですね! この会社でもぜひ障害者の感性で活躍してください!」。

自分にとっては当たり前のことを話しているつもりなのに、相手からは「障害者」としてとらえられ、予想外の返答ばかり返ってきます。

かといって、”健常者”から悪気を感じるわけではないのです。入社してくれた二足歩行者に気持ちよく働いてもらいたいという熱意はとても伝わってきます。

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自己紹介のあいだも二足歩行者はかがみっぱなし、手荷物を持ちっぱなしでした。どこかに荷物を置きたくてオフィスを見回すのですが、机や棚が少ないようです。
車いすに乗っていると、膝の上に荷物を置けるので、荷物を置くという発想があまりないのかもしれません。
こうしたところからも、「想像力の限界」によってギャップが発生してしまうことを感じられます。

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気づいていなかった「偏見」に気づく

仮想世界のバリアフルオフィスから外に出て現実に戻ると、参加者同士で感想を話し合う時間が設けられています。

車いすユーザーの先輩社員たちの態度は、配慮はされているけれど、どこかずれている。ずれているけれど、よかれと思ってやってくれている。「善意が伝わってくるからこそ、指摘したり意見したりすることはプレッシャーを感じてできなかった」と、参加者のひとりは話してくれました。

こうした「もやもや」は、ふだん私たちが無意識に行っていることかもしれません。「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」という言葉がありますが、無意識だからこそ自覚しにくいものです。

「私は女性だから、男性の参加者ほどは気にならなかったかもしれない」と話してくれた参加者もいました。女性として働いてきた中で、こういう類の偏見にはたくさん遭遇してきた。だから、不愉快なことを言われはじめたら、耳を閉じてスルーする習慣が染み付いてしまったそうです。

しかし、そうやって我慢する人がいるうちは、ダイバーシティ&インクルージョンは実現しないのではないでしょうか。

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インクルーシブ・トランスフォーメーションに向かって

私たち「チーム誰とも」の最初のプロジェクトであるバリアフルレストランは、天井が低いとか、テーブルが低くて二足歩行者には食べにくいといった、物理的なバリアへの驚きを体験の柱として設計されていました。

それに対して、今回のバリアフルオフィスでは、偏見に基づいた「無意識の差別」を受けるという経験を通じて、「障害」は社会によって作り出されているのだと深く実感できる仕組みになっています。

自分の内にある無意識の偏見にどのように気付き、そこからどのように行動すればよいのか。それはひとりひとりが向き合っていかねばならない、困難な問題かもしれません。
私たちは、この難問に立ち向かうお手伝いをしていきたいと思っています。

これからの社会がさらに素晴らしいものになるように、これからの時代を生き抜くための「変革」を「インクルーシブ・トランスフォーメーション(略称:IX)」と名付け、その研究・実践する場として「IX LABO」を設立しました。

IX LABOでは、多様性を前提としたよりよい共生社会の実現について考えていきます。


バリアフルオフィスのプログラムは、企業や自治体のD&I推進・SDGs推進や、障害者雇用研修などに活用いただけるよう、パッケージ展開を行っています。資料もご用意していますので、是非お問い合わせください。



“誰もが誰かのために、共に生きる社会”の実現を目指す日本ケアフィット共育機構です! 理想の社会に近づけるために“ケアをフィットする”ことを日々模索しています。