
コロナ禍の「新しいバリア」と、共生社会のための私たちの「挑戦」
2021年1月30日、川崎市の二子玉川ライズで「共生社会ホストタウンサミットin多摩川」が開催されました。
私たち「チーム誰とも」では、このイベントで「バリアフルレストラン」を一般公開しました。
バリアフルレストランは、「車いすユーザーであることが当たり前」「二足歩行する人が障害者」な社会を前提としたレストランです。
多数派と少数派をひっくり返した仮想世界を通して、「障害は社会の仕組みから作り出されている」ことを体験し、当たり前ってなんだろう?と来店者に問いかける仕掛けになっています。
今回の開催は、世間は緊急事態宣言の真っただ中。
様々な方が大変な思いをしているなかで、私たちがこうした取り組みをすることに葛藤もありました。
ですが、コロナをきっかけに今まで意識もしていなかった「当たり前」、例えば通勤出社や対面コミュニケーションなどができなくなり、変えていかなくてはならない状況になりました。
障害のある人にとっては、「テレワークが推進されたことで働きやすくなった」という声もある一方で、新しい様々な問題が生まれました。
視覚に障害のある人はソーシャルディスタンスの表示が分かりづらい…
聴覚に障害のある人はマスクによって口話が読み取れない…
デジタル環境へうまく慣れることができず、コミュニケーションに苦労している…
その多くは、心身の障害の有無にかかわらず経験する困りごとや障害なのです。
社会が「障害」を生み出している。「社会が作り出す障害」や、これまで意識していなかった「当たり前」について、今まさに考える必要があるのではないか。
社会のあり方そのものを考え、変えていくことが、共生社会への第一歩だと考えてブースの出展を続行いたしました。
バリアフルレストランを東大で実施
コロナによって、全ての人の「当たり前」が大きく変わらざる得なかったこの一年。昨年2月に期間限定でバリアフルレストランをプレオープンしてから、川崎市での一般公開にいたるまでの1年間は、私たち「チーム誰とも」にとっても新型コロナウイルスとの戦いの年であり、挑戦の年でもありました。
2020年2月、東京大学で初めて公開したバリアフルレストランには、3日間で約50団体150名の方が訪れ、その様子は多数のメディアにも取り上げられました。
この時はまだ、2020年夏に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックに世の中の期待が集まり、私たちが考える共生社会の気運も高まりつつある時期で、バリアフルレストランの取り組みを通じて、一緒に共生社会づくりのムーブメントを起こす「チーム誰とも」の仲間を集めていくことを考えていました。
既に新型コロナウイルスによる危険は迫っていましたが、これほどまでに社会が大きく変わってしまうとは、当時の私たちは予想できませんでした。
新型コロナウイルスによって起きたこと
チーム誰ともは、公益財団法人日本ケアフィット共育機構が主体となって運営しています。
日本ケアフィットは、「サービス介助士」という資格の普及をおもな事業としています。
高齢者や障害のある人も安心して社会参加できる環境を整えるため「おもてなしの心」と「安全な介助技術」を持つのがサービス介助士です。
緊急事態宣言が初めて発令された2020年4月。私たちは、いっさいの講習や研修を自粛せざるを得なくなりました。事業にも大きな影響が出たことは言うまでもありません。
コロナ禍では「新しい生活様式」を求められます。健常者にとっては当たり前にできることであっても、配慮が必要な人にとっては不自由なこともたくさんあります。
車いすユーザーは、店頭など各所に設置されたアルコール消毒ポンプに手が届きません。足踏みレバーを押すことができません。
視覚障害者は、床などにソーシャルディスタンスの表示があっても判断できません。
聴覚障害者は、周囲の方がマスクを着用しているので口話が読み取りづらくなりました。
介助者との距離を取る必要も生じましたが、それは決して簡単なことではありません。
一方で、オンラインコミュニケーションが増え、多くの人がそれに慣れたこともあり、自宅にいながらできることが増えるなどの、いい変化も起こりました。
こうした要配慮者の実態を世の中に伝えるとともに、私たちが考える共生社会をあらためて発信していこうと考えました。
独自の接遇ガイドラインを策定
2020年11月、日本ケアフィットでは「サービス介助士における新型コロナウイルス感染症予防対策ガイドライン -感染しない・させない介助・接遇・施策-」を策定しました。
サービス介助士を導入している企業の方から、「コロナ禍でどのようなコミュニケーションをとればよいのか」「感染対策と介助をどう両立すればよいのか」といった質問の声をいただいたのがきっかけです。
各省庁や業界団体から感染対策のガイドラインは既にありましたが、要配慮者との介助をふくめた接遇や応対をどうすべきかを明文化した基準は、まだ世の中にありませんでした。
サービス介助士の資格保持者は、全国に約19万人。サービス介助士が安心して要配慮者と接することで、コロナ禍における要配慮者のバリアを少しでも取り除くことができればと考えています。
ガイドラインは、こちらから問い合わせていただければ、どなたでもご覧いただけます。多くの方に手に取っていただきたい内容ですので、是非ご覧ください。
絵本「みーのきもち」を出版
私たち「チーム誰とも」のコロナ禍でのひとつの挑戦。それが、オリジナル絵本の制作です。
絵本読み聞かせ動画チャンネル「きっずちゅーぶ」を運営する株式会社イースマイリー様と共同で、絵本『みーのきもち』を制作し、昨年12月に出版いたしました。
私たちは小学校向け出張授業「おも活」という取り組みも行っています。アイマスク装着などを通して視覚障害者の立場を経験し、「気づき、考え、行動する」循環を醸成することを目的にしています。
コロナ禍で対面型の活動が制限され、出張授業はできなくなりました。
しかし、テレワークやオンライン授業などの浸透で、家庭内での対話の時間はこれまでよりも増えているのかもしれません。
絵本という形で「寄り添うということ」を広く伝えられるかもしれないと考え、制作にのりだしました。
『みーのきもち』は、なおちゃんと、ペットの猫の「みー」の物語です。
なおちゃんの言うことをなかなか聞いてくれない「みー」。どうして言うことを聞いてくれないのかと悩んでいたある日、ふしぎな出来事が起こります……。
当然ですが、猫は言葉を話すことはできません。「みー」の気持ちはなおちゃんには伝わらないし、なおちゃんの気持ちも「みー」には伝わりません。
それでも、相手の立場になって、相手の気持ちを理解しようと寄り添うことが大切なのだと思います。
私たち「チーム誰とも」が目指すのは、あらゆる「ちがい」を超えて、誰もが他の人を支えながら、相互に作用しあう暮らしやすい社会(共生社会)を創っていくことです。
こうした絵本や「おも活」などの活動を通して、これからの社会を担う子どもたちが、他者との共生について考えるきっかけを届けたいと考えています。
共生社会ホストタウンサミットin多摩川
私たちは、2020年もこうした活動を通して「共生社会」の実現を目指してきました。
そして今年1月30日に開催された「共生社会ホストタウンサミットin多摩川」では、バリアフルレストランの一般公開となったのです。
東大でのプレオープン時とは違い、レストランといっても飲食は提供していません。一度に入店できる人数も制限し、感染対策を十分に行った上での開催となりましたが、30名ほどの地域の方々に体験いただきました。
車いすユーザーにとっての「当たり前」を前提に設計されたレストランの店内は、天井が低く、「二足歩行障害者」は入り口でヘルメットを被ることになります。消毒用アルコールは、車いすユーザーにちょうどいい高さにあるため、腰をかがめて手荷物を床に置かないとうまく使えません。
入店して席につくと……といっても、車いすが「当たり前」のレストランには固定の席がありません。かわりに床にはソーシャルディスタンスを示すアイコンが描かれていました。
この世界では「二足歩行障害者」の存在自体が珍しいため、相席になった車いすユーザーからは好奇の目が向けられ、「こういう店にはよく来るんですか?」などと質問をぶつけられたりもします。
店内には「障害者」用の椅子は1つしか準備がありません。体験中はずっと中腰だったり、椅子を使える人にとっても「自分だけ座れるのは、周りに申し訳なくて居心地が悪い」と感じたりします。
レストランから出るとあらためて企画趣旨と「共生社会」の説明を受けるという体験コースです。プレオープンの際のレポート記事もぜひご覧ください。
イベントに参加いただいた方からは「素晴らしい体験でした」「共生社会について考えさせられました」「当たり前を見直したいと思いました」「もっとたくさんの方に体験してほしい」といった感想をいただきました。
バリアフルレストランの周囲には、「気づきブース」を設置しました。
多数派の「当たり前」が優先されて少数派が不便を強いられている場面の写真から、どこに「偏り」があるかを見つけます。
たとえば次の写真から、どこに「多数派のために作られた世界」を感じられるでしょうか?
「緊急事態」だからこそ、止めない。止められない。
私たちチーム誰ともは共生社会の実現に向けて、「当たり前って何だろう?」を合言葉に、社会の少数派の声に耳を傾け、誰もがそれに寄り添えるようなきっかけづくりを行っています。
今回の川崎市でのイベントを通して、そんなきっかけづくりが出来たのではないかと思います。
しかし、障害者や高齢者といった配慮が必要な人たちは、コロナ禍でなくても常に「バリア」を感じながら生活しています。
さらに、コロナ禍による「新しいバリア」も生まれているのです。
誰もが、気が気でない大変な時代を生きている中、配慮が必要な人たちが抱えるバリアに配慮することは難しいのではないかと思います。
それでも私たちは、常にバリアを感じてる方に寄り添っていきたい。
今こそ、社会全体が「共生社会」を真剣に考えるべきだと考え、イベントへの出展を決めました。
私たちの社会は多数派にとっての「当たり前」で成り立っています。けれどもこの社会は、様々な”ちがい”を持った人たちによって構成されています。
相手に寄り添うことは言葉で言うほど簡単なことではないかもしれません。。
お互いの“ちがい”を認め、理解し、行動に起こすことは、誰にとっても簡単なことではありません。
だからこそ、チーム誰ともは率先して、行動を続けたいと思います。
「誰もが誰かのために共に生きる」
ちがっている私たちどうしが、お互いに支えあいながら、共に生きていく。
そんな社会を”当たり前”にするために、私たちはこれからも活動していきます。