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創作エッセイ:”思い込み” の怖さ

田崎と田島

俺たちは友達の友達で、高2まではよっ友ぐらいの仲だった。
高3になって、同じクラスになってからは急にめちゃくちゃ仲良くなった。

けど、ある事が原因で気まずくなって…

俺。どうしたら良かったんだろ。

寝違いバッドコミュニケーション

「うわっ。うちA組だけどみなB組やん。」
「まじ!?…やばい。B誰も友だちいないんだけど。」
「それは泣く。休み時間は廊下に集合しよ。」
「まじでそれ。つらーーー」

広場でのクラス発表を見て喜びの声や文句が飛び交う中、俺も盛大に泣き言をこぼしていた。

「俺C組に友達いねえんだけど!!!死んだ…」
「どんまい過ぎる(笑)まあまあ。お前ならすぐ友達出来るって。」
「そういうお前はC組で中川と神田と一緒だろ??絶対楽しいやん。」
「そんな落ち込むなって!!おっ…Cに田崎おるやん。」
「ああ、お前が同中の?」
「そう!いつも「うい」って話しかけて来るやん?あいつ!出席番号お前の前だから最初前後やに。良かったやん!」
「うーん。いやまあ、良い奴だろうけど…ちゃんと話したこと無いし…そもそもあんまガッツリ喋ってるとこ見たこと無いからちょいこえー。」
「そうなん!?うける(笑)」
「うけねえよ!!!」

高校卒業後は家族で経営しているパン屋を継ぐことが決まってたから、「高校最後の年はみんなで思い出を作ることに命を懸ける!」と意気込んでた春休み。それがまさか…仲良しグループのうち、俺だけ違うクラスなんて…

「はあ…まじ憂鬱。」
「田島…とりあえず休み時間まで耐えろ!ほんで、休み時間はみんなで喋ろうぜ!」
「おお…頑張るわ!」

頼りになる男、木村。やっぱこいつとクラスが離れたのは惜しい…!!
でもまあ、確かにまだ諦めるには早いか。まずは雰囲気をみてから…

エグい。流石に3年生となると仲良い奴がそれなりに出来るから、みんな1人は友達がいるっぽい。なんで俺は同じ奴とばっか遊んでたんだ…!!!楽しかったけど!!!ここに来てまさかの大誤算!!!

「はあ…」
この世の不条理を感じつつも自席に着く。するとすぐ、前の奴も席に着いた。田崎だ。俺は意を決して話しかけた。

「田崎…だよな?俺、木村とよく一緒にいた田島。」
「おお。はよ。」
うっ…やっぱり会話が続かねえ…とりあえずなんか話題振るか。
「お前このクラスで仲良い奴おる?」
「おらん。」
「まじ?俺もおらんくてさ~、まじ辛いよな。」
「でも俺、田島って名前見て安心した。」
こいつ…!!!なんて良い奴なんだ…!!!!!
「おっ、俺も田崎の名前見て結構心強いなって思ってた!」
「嘘つけ。さっき木村からLINE来た。『田島が引くほど萎えてるから救ってやってくれ』って。」
「あいつ…!!なんてタイミングの悪い…」
「いや、100お前のミスだろ。」
「何言ってんだよ。俺が優しいってこと理解してればこんなことになってねえ。」
「やってんな。」
「俺の個性だ、受け入れろ。」
「ジャイアンでもそんな事言わん。」
見た目に反してノリが良く、怖いなんて言って申し訳ないと思った。

休み時間になり、田崎がトイレ行ったタイミングで木村たちが様子を見に来てくれた。
「よっ。どんな感じ?」
「田崎の存在がまじでデカ過ぎる。やっていける気しかしねえ。」
「だから言ったやん。あいつまじ良い奴だから!」
「ほんまそれな。」
「とりま安心。じゃ、俺ら次移動だから。」
「おう!ありがとな!」

やっぱ持つべきは ”友達” だよ。なんてエモいこと考えてると、田崎が帰って来た。

「木村来てたん?」
「そう!俺の様子見に来てくれたらしい!」
「保護者かよ(笑)」

そんなこんなで過ごしているうちに、俺らの中でしょうもないノリが流行り始めた。それは、後ろの席の俺が任意のタイミングで「デュクシ」をして、田崎はそれを予測して避けるというもの。失敗したから何があるという訳でもないが、なんか楽しい。男子高校生らしいクソほどしょうもない遊び。

「デュクシ」
「いって。チッ」
「デュク…何…!」
「俺の勝ち。」

夏休みのある日、事件は起きた。

俺たちはとあるアクション映画を観に来ていた。ただ、1つ気になることがあった。それは、集合してから映画館に着くまでずっと、田崎が俺の方を全く見ずそっけなかったこと。何かあったのかと思い様子を見てみたが、機嫌が悪いようには見えない。普通に話しはするし、返ってくる言葉もいつも通り。ただ、何となくよそよそしさがあった。

気掛かりに思いつつも、とりあえず席に座った。本編が始まり30分ほどのところで、主人公の友人が同性愛者だとカミングアウトするシーンが出てきた。「このシーンいるか?」とボーッと観てると、その役の俳優が

「仲良くても言えない事なんていくらでもあるさ。例えば俺の好きな人が “男” とか。」

と言った。特に何の伏線でもないシーンなのに、映画が終わってからもその言葉が頭に残っていた。

いつもは映画終わりに適当に感想を言い合う時間があるが、その日はすぐに解散になった。というのも、田崎が「体調悪いから今日は帰る」と言ったからだ。なんだか不完全燃焼というか、消化不良というか…
「まあまた会った時に言い合えばいっか。」

ガチャッ
「ただいま~」
「あれ?おかえり~。今日早いね?」
「おん。一緒に遊んでた奴が体調悪いって帰ってった。」
「え、大丈夫?最近暑いし熱中症かな?」
「さあ。」
「さあって…薄情な友達やな〜。」
「別に、元々そんな喋んない奴なんだよ。本当にヤバかったら言うやろ。」
「あんたね〜…せっかく仲良くしてもらってるんだから、話ぐらい聞いてあげなさいよ。仲良くたって向こうからは言いづらいこともあるんだから。」
「なんだよそれ。」

…。
仲良くても言えない事。

まさかな。

でも本当にそうだとしたら?

確かに今日のあいつはよそよそしくて、何となく距離を感じた。
「でも…いやいや。いくらなんでも飛躍し過ぎか?うーん…」
俺には驚くほど恋愛経験が無く、ただでさえ女の子相手にどうしたら良いか分かってない。それなのに、”俺の友達がゲイかもしれない” なんて…。分からない。パニックだ。
「明日からどんな顔して会えば…」

今までのスキンシップも、もしかしてあいつにとっては特別なイベントだったのか?
嫌そうな顔は見たことない。じゃあ…嬉しいとかラッキーって思ってる…とか?それは…ちょっと無理かもしれない。いくら仲が良い田崎相手でも、思う所がある。それに、俺は女の子が好きだ。同性に対する恋心なんて1ミリも分からない。ってか、分かる気もない。

この出来事以降、2人で遊ぶのはなるべく避け続けた。ありがたいことに、高校3年生になるとみんな受験勉強や就職活動が始まり、1人で忙しそうにしてても違和感がない。このまま。このまま何事も無かったかのように…

「田島。お前最近忙しくね?」
「あー…うん。まあ。」
「なんで?お前自分家のパン屋だろ?」
「…色々あるんだよ。」
「は?歯切れ悪いな。何、女出来たん?」
「そんなんじゃねえよ。てか…お前に関係無くね?」
「別に聞いただけやん。なんなん?」
「いや…」
「まじお前最近おかしいって。なんでそんな感じなわけ?」
「俺はおかしくねえよ!おかしいのはお前だろ!」
「何?俺なんかした?」
「なんかするとか、そういう事じゃねえけど…俺、無理だからな。なるべく触んなよ。」
「あ?意味わかんねえ事言ってんなよ。」
ぐっ
「離せよ!!触んな!!」
「お前まじ意味わかんねえんだけど。なんでそんな事言われねえといけないわけ?」
「うるせえ!!」

周りで見てた生徒たちが俺たちの間に入り、取っ組み合いの喧嘩は幕を閉じた。

そして、それ以来田崎とは話すことなく高校を卒業した。

パン屋で働き始めて1年。今でもどうしたら良かったか、なんて言ってあげるのが正解だったかなんて分からない。それに、未だに木村たちから何があったか聞かれるが、人の性の話をベラベラ話すのは流石に気が引けるから、きちんと話せてない。

気持ち悪いなんてあんな良い奴に思いたくないのに、受け入れることも出来ない。極端過ぎる2択なんて俺にとっては八方塞がりでしか無く、逃げるという選択肢しか見つからなかった。そして、あいつがゲイという事実より、友達として受け入れられない自分自身のことをどんどん嫌いになっていった。

大人になったら…
色々な経験を積んだら…
あいつと楽しく過ごす方法が分かるのかな…
あいつのもっと深い部分を理解してあげられるのかな…

なんて。大人になって分かったとて、俺なんかにお前と仲良くする資格は無いよな。
ごめんな、田崎。

寝違いバッドコミュニケーション:後日譚

あの時のこと、今思い出しても腹が立つ。俺の人生の不幸がまるであの時期に凝縮されたようだった。

ガチャ
「将吾!はよ起きな!あんた今日友達と映画って言ってなかった?」
「…ああ。」
「も〜、お母さんが起こさなかったら間に合ってなかったよ!夏バテ怖いし、朝ご飯はちゃんと食べて行きなね。」
ガチャン
「無理。ねみい。ちょい寝る。」

「将吾!!起きなさい!!!」
ビクッ ピキッ
うっ…急にドアの方見たら…く、首が…
「流石に起きないと!間に合わないでしょ!」
「母さんがうるさいから寝違えた。死ぬ。」
「そんなことで死なないわよ!どうせ映画なら首動かさないし、さっさと準備しなさい!」

まあ映画なら確かに顔動かさねえか。それに、寝違えたってだけで中止にするのもな。とりあえず行って様子見るか。

…全然痛い。無理。
駄目だ。映画終わったら今日は帰るか。
でも、寝違いごときで早退は普通に恥ずいし、体調不良でええか。
「田島。悪いけど、俺体調悪いから帰るわ。」
「あ、まじ?OK!また連絡するわ!」
「おお。」

寝違いってどうしてら治るんだよ。まじで勘弁してくれ。もう一生なりたくねえ。もし明日明後日とか、治ってないまま田島から遊びに誘われたら、流石に理由言って断るか。

あいつ最近忙しいな。実家継ぐんじゃなかったっけ?…もしかして、家族大変とかか?まあ、あいつ隠し事が出来るタイプでもねえし、本当にヤバくなったら愚痴ってくるか。

流石にだな。まあたまには声掛けてみるか。
「田島。お前最近忙しくね?」
「あー…うん。まあ。」
「なんで?お前自分家のパン屋だろ?」
「…色々なんだよ。」
「は?歯切れ悪いな。何、女出来たん?」
「そんなんじゃねえよ。てか…お前に関係無くね?」
「別に聞いただけやん。なんなん?」
「いや…」
「まじお前最近おかしいって。なんでそんな感じなわけ?」
「俺はおかしくねえよ!おかしいのはお前だろ!」
「何?俺なんかした?」
「なんかするとか、そういう事じゃねえけど…俺、無理だからな。なるべく触んなよ。」
「あ?意味わかんねえ事言ってんなよ。」
ぐっ
「離せよ!!触んな!!」
「お前まじ意味わかんねえんだけど。なんでそんな事言われねえといけないわけ?」
「うるせえ!!」

あいつまじでなんなん?急にヒステリック起こしやがって。いくら家族が大変だからって、八つ当たりにも程があるだろ。だる。

もういいわ。またいつヒステリック起こすか分かんねえし、もうあんな奴とは関わりたくねえ。まじで何だったんだよ。

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