1.3.1. インフォーマントの選定に関して
先進国のホワイトカラー
グローバルな資本主義の進展の中で,「都市部や先進国で知的作業に従事するホワイトカラーも,ますます自らの内なる『創造性』を極限まで高めることが要請されている」〔倉数 2011: 9〕。
この文脈に登場するところの「ホワイトカラー」が,本稿の主要なインフォーマントである。
自営業や個人事業主へと移行した者も含め,ほぼ全員が会社員生活を経験していることが,インフォーマントを選定する上で非常に重要な条件であった。
なぜなら,冒頭の引用の通り,ホワイトカラーも創造性を要求されるという時代性が,彼らが「創造的」な「お茶」をする理由と分かち難く結びついている,という仮説を立てていたからである。
「創造的でなければならない」理由
一例としてネオリベラリズムは,これまでの福祉国家体制では一定の安定を保証されていた個人を,国家や企業等の組織の外部に括り出した。
不安定な市場に直接投げ出された個人は,伝統,慣習,固定した価値観に留まることは許されていない。
このとき,人々は「自由」であることと,芸術家のように創造的であることを求められる。
2008年の国際的な金融危機以来,労働や社会保障のあり方について,幾許か議論がなされるようになった。
しかし企業や家族といった個人を覆っていた組織という皮膜が剥ぎ取られる趨勢に変わりはない。
個人が裸形化していくことにより,個別の生を超える国家や宗教といった価値や,職場や家族等のコミュニティは以前よりリアリティを失った。
人々は自らの生の意味を,自分で探し出さなければならなくなる。
本稿が「現代」と呼ぶ時代の課題は,この流動する世界に裸で投げ出された生をどのように価値づけていくか,という問いで表される。
20代〜30代の若手社会人
各人の意志に従って開放的な社会関係を築くことは,古典的な近代では,追い求めるべき望ましいものであった。
しかし,戦後日本の生活空間を支えてきた会社,家族といったコミュニティの崩壊にさらされている若年層ほど,自分自身のスキルのみに頼って人間関係を作り出し,それを維持しなければ孤独に陥る状況に置かれている。
このような社会では,人は絶えず自分自身を覗き込み,自分の強み,欲望,将来像などを発見していかなければならない。
茶道修練者の中心人口と外れることは承知しつつ,インフォーマントを20代から30代といった「若手」社会人に限定した理由は,ここにもある。
茶道に関係ない仕事に従事している
また,インフォーマントの職業に関しても,茶道に直接関係のない仕事に従事している(いた)人ほど,本稿の趣旨に沿っているといえる。
茶道教室や茶道界に固執する(もしくは固執しなければならない)外部要因が少ないにも関わらず,茶道に取り組む理由があると考えられるからだ。
同様の理由で,茶道と家業が密接に結びついている人々や,将来茶道教室を継ぐような家柄の人は,異なるモチベーションで茶道に取り組んでいると考えられるため,主要なインフォーマントとしては設定していない。
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