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5.1.1.1. 仕事内容が「お茶」に活用できる場合(前編)

激務の中にある「お茶」(1)

自らの慌ただしい仕事生活の中の「お茶」を,千利休の時代の茶道に重ねたのは,「茶道団体」を主宰しつつ現在も大手企業に勤める智子さんである。


その根拠として引き合いに出されたのは,安土桃山時代に起こった「市中(市井)の山居」というムーブメントだ。
市中の山居とは,あえて大都会の中に,都会にいることを忘れるような田舎風の茶室である。

この茶室を造りブームの中心となったのは,手に職を持ちながらスキマ時間で茶会を楽しんでいた人々だった。
こうした働く人々が大都会で茶道を嗜んでいたことが粋であったと智子さんは語る。

その姿に大都会で生きる現代人を重ね,この忙しない現代で仕事をしながら「お茶」をする美点を説いた。


激務の中にある「お茶」(2)

例えば,第4章(4.1.1.参照)で登場した「給湯流茶道」の代表者である「家元(仮)」も,普段は納期の短い職場で仕事に追われている。

彼女は「普通のテンションでは生きていけない」労働環境には,「刹那的なお茶」が適していると解釈している。
ここでいう「刹那的なお茶」とは,明日をも知れぬ戦国武将が抹茶を嗜みつつ生きていた時代から連想されるワードだ。


例えば家元(仮)の勤める会社では,立ち上げた企画の幸先が悪いと,すぐ次の企画に移るようだ。
しかしこういった仕事上の儚さと,その仕事中や残業中に点てられる「お茶」は,上述の「刹那的なお茶」を連想させる。

単に殺伐と仕事をしているだけではない,ということだ。

のんびりお茶を飲むこと自体を愛でるよりは,どのような場面と心情でお茶を飲むかが重視されている例だろう。


抹茶を飲んで安らぐという「茶道」のイメージは,(少なくとも会社内においては)現実に即していない。

あるインフォーマントの言葉を借りて,抹茶を「エナジードリンク」と表現した方が正しいときもある。


「給湯流茶道」再掲

先に登場した「給湯流茶道」(4.1.1.参照)の具体例を掘り下げたい。

茶会冒頭の挨拶では,まず「上司」や「職場」といった単語を用いて「茶道団体」の活動が説明される。
出される茶菓子が「出張先で買った一期一会のお菓子」であることも,会社員であることをむしろ前面に出している。

出張土産の硬い瓦煎餅を,職場の組織や部長などを思い浮かべて割ってくださいと勧める。(2016年10月16日筆者撮影)


こうした例え話は,あるあるネタとして客の笑いを誘っている。

「給湯流茶道」の茶会は,それ以外の茶会に比べると年配の茶道修練者が少ないのが特徴だ。
茶会参加者の年齢層は,そのまま労働力人口と重なっていた。


主宰である家元(仮)によれば,会社生活で起こる喜劇や悲劇(主に悲劇)も,次の茶会のコンセプトへと昇華させられるようだ。

これ(職場での出来事)は茶会での笑い話にできると思うと,すごく気が楽になる。
ネタとして付き合えるようになる。

ここでいう「ネタとして付き合う」とは,現代の会社生活と,歴史上の人物や茶会の各要素を関連づけて考えることである。

むしろ「茶道団体」の活動があることで,茶会が捌け口となり,ネタとして受け取るマインドが醸成されているともいえる。

高度な処世術だ。



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この節には編があります。

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