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4.1.4. ケーススタディ(4) 「World Tea Gathering」と「世界茶会」

「World Tea Gathering」

「World Tea Gathering」は,主に海外で活動する茶道修練者や,日本以外の国籍の修練者によって構成される「茶道団体」である。

この「茶道団体」の主宰者である女性が,知人のアーティストの制作した茶室で茶会を催していた。

以下の写真にある鏡張りの茶室そのものが,「岡山芸術交流 Okayama Art Summit 2016」という芸術祭の出展作品の一つである。

写真 鏡張りだが,床が畳で床の間があり,茶室として設計された空間。写真右側が床の間だ。(2016年11月13年筆者撮影)


その茶室内では,3Dプリンタで出力された絶対に枯れない盆栽の隣で,熟しすぎた生柿が朽ちつつある。
両手で持っても重い溶岩のような茶碗でいただいた後,2服目の漆塗りの木製の茶碗が,異様に軽く感じた。

対比を際立たせた茶会だったようだ。

写真 これは岩に似せているが,土でできていると考えられる。むしろ岩よりも重かった茶碗(2016年11月13年筆者撮影)


現代アート的な茶会

インスタレーションを用いたり,目にも華やかな茶室で催されたりする茶会は,本稿で扱っていない範囲でも随分見受けられるようになった。
現代アートの文脈上にある茶会と言っていいだろう。


この鏡張り茶会に参加した40代の女性茶道修練者は,従来の茶会と比較して,目新しい発見が多々あったようだ。現代アートに触れた時の新鮮さで感想を語ってくれた。

一方で筆者は,畳の上に座っていたらきちんと点前通りにお茶が出てきたのは久々だ,という感想を持った。
アーティスティックな茶会でも多々参与観察をしてきたため,驚くタイミングを逸していたのだろうか。


茶道の「アナログ面」との対比

印象に残ったのは,茶菓子として出された,赤ワインとスパイスで煮詰められた手製の小豆
そしてその小豆を受け止める備前焼の器にも温かみがある。

従来の茶道に共通するスタイルを,鏡張りの茶室の中で感じていた。


天気の良さも手伝い,茶会後の会話も弾む。
古き良き茶会の定形のようなものを現代的な茶室で味わう。

3Dプリンタの枯れない盆栽熟れた生柿のように,ここでも「現代アート茶室」「アナログさ」という対比が光る。


「世界を『表現する』」

この茶会の亭主はアーティストとして活動しており,「自分を表現するときにお茶がしっくりきた」と語っていた。

もともとは彼女のようなアーティストの特権であった「表現」が,芸術家以外の人々にも開かれたことは,倉数〔2011〕も指摘していた通りである。

「創造はつねに『私』から始まる。
新しいもの,変化は私の深みからやってくる。
芸術家が行うのは,私が世界を『表現する』ということだが,これは世界の根拠を私におく態度であり,私が世界を主宰すると考えること」
〔倉数 2011: 25-26〕

この文章で,「世界」という語を「お茶」へと置き換えると,「茶道団体」の活動にも通じることは後に考察していく。


ただし「表現」と言った際に,人は目新しいアイデアに驚くのか,それとも単に奇抜だと驚くのかといった問いが湧き上がる。

筆者然り,鏡張りの茶室や3Dプリンタの盆栽にいつも驚くとも限らないのだ。


「世界茶会」

それから数ヶ月後,「世界茶会」と銘打った「茶道団体」を主宰し,『茶道美人』〔新人物往来社,2011〕の著者でもある岡田さん(30代,男性)の茶事に伺った。

「世界茶会」は,月に一度の初心者向け茶会ワークショップなど,広く茶会活動を行っている。
筆者の伺った茶事も含め,初心者や未経験者でも本格的な茶会や茶事に参加できるのも特徴だ。


「世界茶会」発足当初と比べると,「イベント的なお茶(大衆向けの茶会)」よりも,現在は茶室内での茶会や茶事に注力しているようだ。

おそらく他の「茶道団体」と比較した上で「僕はひっそりやってます」と岡田さんが語ったように,趣向は凝らすが,奇抜な方向性を目指していないように見受けられる。

茶事での趣向

岡田さんの茶事では,客が茶席で濃茶をいただいている間に,庭に竹が組まれ,釣り釜が用意されていた。

写真 濃茶席が始まるまではなかった空間である。(2017年4月29日岡田さん撮影)


折り方の異なる折り紙の兜を二つ重ね,兜の一つひとつに干菓子を包んだ懐紙が入っている。
お盆の上にずらりと並んだ兜の中から,客は1セットずつ選んでいく。

写真 最初折り紙の兜が二つ重なっており,それぞれの兜に一つずつ懐紙に包まれた干菓子が入っている。(2017年4月29日筆者撮影)


人を驚かせ,喜ばせるものは何か

筆者も含めて,客の感想は重なっており,その薄茶席の竹の設えと折り紙に関するものであった。

いくつか流派も混ざり,参加者は熟練の茶道修練者から茶事が初めての人まで様々であったが,あらゆる習熟度の人が,同じ点に驚き,喜んでいるのである。


このとき筆者は,「茶道修練者,もっと広く言って人は,釣り釜と折り紙の兜に驚くのだ」ということに,ハッと驚かされた。


奇抜な茶会,そして前衛的な茶道とは一体,なんであろうか。


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