【1話完結小説】財団メンバー松任谷
こちら、以前Twitterに載せた140字小説×4話をひとつにまとめたものです。実際に私に届くしつこい迷惑メールに着想を得て書きました。
____あなたにもこんな名前の人から迷惑メールが届くこと、ありませんか?
どうぞお読み下さい。
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数年前から迷惑メールが届き始めた。その中にたまに混ざる“財団メンバー 松任谷”の名前。数年間、いつも忘れた頃に届くその名に私は親近感すら覚え始めていた。松任谷がこの世界の何処かに実在するのではないかと夢想する。…松任谷に会いたい。会って、ぶん殴りたい。
その日、買い物帰りにふらりと寄った喫茶店で、ふと斜め前の席に目がとまった。スーツ姿の男がおもむろにノートPCのメール画面を開く。一瞬、件名に“財団”“松任谷”の文字が見えた気がした。動揺した私は思わず珈琲カップを倒す。慌てて拭いている間に男は消えていた。
急いで喫茶店を出るとあの男が駅と逆方向へ歩いていた。人気のない裏路地を暫く進む。私は思い切って声をかけた。
「あのっ…松任谷…さん!?」
男がゆっくり振り返る。その顔は不気味な程の笑顔だった。そしてニヤニヤ嬉しそうに言った。
「私が見えるんですか?」
それから___
どれほどの時が経っただろう。
私は裏路地雑居ビルの一室で、見知らぬアドレスに宛てた大量の迷惑mailを来る日も来る日も送信し続けている。
あの男は…松任谷だった男はもうここにいない。なぜなら今では私が“財団メンバー 松任谷”なのだから。
end
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