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具体と抽象を行き来する

元経済産業省商務情報政策局長で、現在は東京大学未来ビジョン研究センターの客員教授として活躍されている西山圭太氏著書の『DXの思考法』(文藝春秋)を読みました。

学校現場においても国が掲げる「GIGAスクール構想」の流れでICT環境が急速に整備されていますが、ICTを単なる道具として捉えるのではなく、教育の世界にDX(デジタル・トランスフォーメーション)をもたらすものと考えたときに、根っこのところで何が問われているのかを知りたくて本著を手に取りました。

DXに関する様々な視点を学ぶことができましたが、中でも問題解決の手法として「タテからヨコへ、ピラミッドからレイヤーへ」という視点は特に勉強になりました。
目の前に課題があると、その課題に対処するために新しく何かを始めるのが一般的な考え方だと思いますし、私自身もそういう思考でこれまで教師や教育行政の現場で仕事をしてきました。

けれど、DXの思考法によれば、タテではなくヨコの視点で、新たなユーザーエクスペリエンス(課題解決)に向けてレイヤー(プロレスの手順)を増やしていくという思考法で、既存の取組全体の変容を促していきます

ここからは、DX思考で教育を考えると、という私なりの整理になりますので、ご容赦ください。
例えば「児童生徒の理解度はそれぞれ違うので、理解度が低い層は授業についていけなくなる」という教育課題があったときに、学習の定着が十分でない児童生徒を対象に放課後に個別の補習を行うことで課題解決につなげることもできますが、これはタテに新しく「個別の補習」を加える、ピラミッド型の積み上げ方式の思考の形になります。
(この取組自体は否定されるものではなく効果的だと思っています。)
しかしながら、児童生徒の理解度の違いによって授業についていけなくなるという問題の構造的な背景には「授業で児童生徒に(同じ)学習課題を出す」という階層でのつまづきがあると考えて、その階層の間に「それぞれの理解度に応じた」というレイヤーを新たに加えることで、「授業で児童生徒『それぞれの理解度に応じた』学習課題を出す」ことになるため、理解度が低い層も授業で置いていかれる場面を減らすことができます
そして、人工知能を搭載したオンラインドリルを活用すれば、これまで実現困難だった「それぞれの理解度に応じた課題を出す」ことも可能になっています。
そう考えると、オンラインドリルなどのテクノロジーついて、単なる道具を超えて、ユーザーエクスペリエンス(生徒の学び)を変容させるための概念装置と捉えることができます。

そんなDXの思考法の中には「具体と抽象を行き来する」というものもあります。
これも私なりの理解になりますが、具体はタテ、抽象はヨコと捉えることができると考えています。具体的なタテの取組(学校で喩えるなら、各授業やホームルーム、部活動、補習など)に対して、ヨコの取組(教科の見方・考え方、主体的・対話的な深い学びなど)は抽象的になるからです。
具体がなければ、そもそも課題を見つけることができませんが、課題の背景にある構造的な問題を見つけるためには抽象的に考える必要があります。
このタテ(具体)とヨコ(抽象)のバランスがDXの思考には不可欠なのだとしたときに、私が感じたのは、具体(タテ・学校現場)と抽象(ヨコ・教育行政)の関係性の在り方でした。

現在、教育行政(教育委員会)の在り方について文部科学省で議論が始まっていますが、DX人材を育成する観点からも、学校現場と教育委員会を行き来するようなキャリアパスがあってもいいのではと強く感じています。

私自身も著者の全てを理解できたわけではありまんが、GIGAスクール構想の只中にある学校関係にオススメの本になります。


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