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先日、デジタル学習基盤に関するフォーラムで講演する機会があり、「デジタル教科書・教材」がメインテーマだったので、「教科書」を切り口に学びの在り方についてお話しをさせて頂きました。
私は冒頭で「教科書を使った授業と聞いてどんなイメージを持ちますか?」と質問をしました。
教科書の歴史は長く、戦前から使われていますが、その在り方は時代と共に変わっています。令和の日本型教育として「個別最適な学び」や「協働的な学び」の重要性が高まる中、教科書の在り方も変化が求められています。
冒頭の質問に対して、以下のイラストのような教師による一方通行のいわゆる「一斉指導」をイメージする人も少なくないと思います。

いわゆる「一斉指導」のイラスト

実は、つい最近まで私もその一人でした。
でも、このような一斉指導において、児童生徒は本当に教科書を使っていると言えるのでしょうか?
イラストを見ても分かるように、児童生徒は教科書ではなく教師や黒板を見ています。
私自身、中学校の教員だった頃は、教科書の内容をできるだけ分かりやすくまとめて、それを板書してノートに書いてもらっていました。生徒は分かりやすいと言ってくれていたので、その授業スタイルを続けていましたが、今振り返ると教員自身は教科書をしっかり使っているものの、生徒が教科書をじっくりと読み込む場面は限定的でした。

以下の写真は、昨年私が見学させて頂いた春日井市の小学校の授業風景です。

https://www.mext.go.jp/content/20220427_mxt_kyokasyo02_000022220_02.pdf

この学校では、数年前から個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に取り組んでいて、情報端末を児童が日常的に活用しています。
その授業スタイルにも驚かされましたが、私が着目したのは児童の教科書の使い方でした。
下記の写真にあるように、児童はそれぞれの情報端末を活用して、学習内容を整理するのですが、そのために何度も繰り返し教科書を読み込んては、キーワードに丸をつけたり、重要な文に下線をひいたりしていました。さらに、丸をつけたキーワードを矢印で結んで関係性を理解しようとしています。

春日井市立の小学校の授業風景

教師が教科書の内容を噛み砕いて分かりやすく教えるのではなく、児童が教科書を何度も繰り返し読み込んで、試行錯誤しながら内容を整理して理解を深めていく姿を目の当たりにして、これこそが「学力(学ぶ力)の育成」なのだと学ばせてもらいました。

話は変わりますが、私には1歳を過ぎた娘がいます。授乳期が終わると、おかゆやすりつぶした野菜などの柔らかい離乳食から始めて、徐々に硬いものも食べさせます。
食べ物が硬くなると、最初の頃は口から出してはまた入れてを繰り返していましたが、今は大人と同じものでも何度も咀嚼しながら食べることができています。
成長と共に顎の力が強くなっていく娘の姿が、春日井市で教科書を何度も読み返しながら理解してく児童の姿と重なります。
教員が教科書を「噛み砕いて」分かりやすく教えることも最初は必要なのでしょうが、いつまでも教員が手取り足取りで、離乳食のような柔らかい(簡単で分かりやすい)授業だけでは「学ぶ力」としての学力は身につかないのではないでしょうか。
そんなことを春日井市の視察や先日のフォーラムで学ばさせてもらいました。

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