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001「みつるとみちこ」みつる、家を出される

田中みつるは大正10年、田中家の4番目の子として生まれた。生誕の地は、しばらくして愛知県T市になった。

田中家は田舎の農家であった。自然の豊かな土地で、みつるは、幼い頃、近所の友達と、田んぼや畑、川などで遊んでいた。

兄弟仲は良く、特に一番上の姉であるみよは、いつでもみつるをかわいがってくれた。
しかし、みつるが9歳の頃、みよは田中家を出て遠いところへ行ってしまった。別れの日、みつるはただ泣きじゃくることしかできなかった。
その後、二番目の姉も同様に遠いところへ行ってしまった。
田中家は決して裕福ではなくて、4人の子供を成人まで育てることは金銭的に難しかった。
田中家は息子の源一が継ぐ。
ある程度成長したら娘は家を追い出されて遠いところへ行く。
いわゆる口減らし。それが既定路線、当たり前であった。

みつるが尋常小学校の高等科を卒業する15歳の春、みつるは父と母に呼ばれる。
どういうことか、みつるはもうわかっていた。

父の源二郎は言った。「もうわかっているな。達者で暮らせ。」
母はさめざめと泣いていた。

みつるは泣かなかった。
身の回りの荷物を持って、京都から来た男に連れられて、みつるは田中家を出て汽車に乗った。

もうふるさとにもどることはないのだろう。
みつるはぼんやりと考えていた。

(この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。)

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