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美味いメシとデータ分析の共通点

料理が美味しくなくなるメカニズム

突然ですが、料理が上手な人とそうでない人の差をわけるものは何でしょうか?「それはセンスと経験です」と片付けてしまえばそれまでですが、お皿に盛り付けてお客さんに提供するまでに発生するプロセスに分けて、料理が上手でない人が陥りがちな罠を洗い出してみると、様々な要因が組み合わさって巧拙を左右していることが分かります(単純化のためプロセスは4つにします)。

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料理が上手でない人が陥りがちな罠

1.食材の調達
・必要そうだと思ったものは、とりあえず何でも買ってしまう
・完成形のイメージがないために、目利きが悪かったり、割高な食材を選んだり、一部は結局使わずに廃棄してしまう

2.下ごしらえ
・食材や調理法によって適した手法があるのに、簡単な水洗いしかしない
・そのため食材を腐らせたり、不要な部分まで保存してしまう

3. 保存
・冷蔵庫/ 冷凍庫/ 野菜室の区別もなく、乱雑に無計画に放り込む
・そのため食材が最適な状態で保存されていない
・そのため何をどこに格納したかがわからず、探すのに余計な時間がかかる

4.調理〜盛り付け
・調理器具を使いこなせない
料理人の独りよがりになり、顧客が満足していない
・盛り付けに工夫がなく、美味しそうに見えない
下ごしらえや保存状態がおろそかなせいで、実際に美味しくない
アレルギーに配慮しないので、そもそも顧客が食べれない

以上のように罠はたくさんありますが、料理下手のメカニズムをまとめると「前準備がおろそかで、顧客目線も無視しているため、調理に時間がかかっているわりには、不味そう/ 実際に不味い/ そもそも食べれない」と言えそうです。なお私自身も料理はあまり得意ではないので、自分で書いていて非常に耳が痛いです。。

データ分析が上手くなくなるメカニズム

実はこれをそのまま「料理→データ」に置き換えても、ほぼ同じことが当てはまります。最終工程のお皿に盛り付ける部分は、データの文脈では「意思決定の判断材料に使う人にとって、わかりやすく意味があるグラフや表」だとしましょう。「たかがグラフ1つ作るのに何がそんなに大変なのか?」と、私自身もかつては過小評価していましたが、料理のアナロジーで比較することで、実はそれなりに大変なのだ(専門性がないと不味い飯になる)とイメージしやすくなると思います。

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データ分析が上手でない人が陥りがちな罠

1.データの取得(≒調達)
・必要そうだと思ったデータは、とりあえず何でもそろえてしまう
・ゴールイメージが曖昧なために、だらだらと時間をかけて不必要なデータまでそろえてしまう

2.データの統合/ クレンジング(≒下ごしらえ)
・データの状態によって適したクレンジング手法があるのに、いい加減に済ますか、最悪なにもしない。そのためデータ分析時に使い物にならない
・適したクレンジング方法を知らないために、何ヶ月もかかる

3.データの蓄積(≒保存)
・最適に整理されていないため、データの呼び出しに時間がかかる
(フィルターを1つ適用するだけで、何十秒も待たされることもある)

4.データの可視化・分析(≒調理〜盛り付け)
・BIツールが玄人向けすぎて、トレーニングを受けないと使いこなせない
・アナリストが良かれと思って作ったグラフや分析結果が、マネジメント陣の意思決定の役に立たない(難しすぎるか、現場のインサイトを捉えられていない)
・可視化したグラフが直感的でなく、わかりにくい
・クレンジングが不適切だったために、可視化された結果が間違っている
・閲覧権限の設定が難しく、必要としている現場マネジメント陣に渡せない

料理の例と同様にメカニズムをまとめると「前準備が不適切なせいで、データの反映もグラフの動作も遅く、そのうえ結果が間違っていたり、正しいとしても分かりにくい/ 役に立たない/ 渡せない」と言えます。たかがグラフ1つ作るのでも、①下準備を適切に行う専門性や、②現場のマネジメント陣にとってもわかりやすく役に立つという顧客目線(インサイト)が欠如していると、結果的に使い物にならないのです。また最後の閲覧権限設定に関して、給与・評価情報などを含む人事データを取り扱う際は、特に配慮しなければならないポイントでもあります。

美味い人事データ分析が増えない、 "料理人" 側の課題

上述のデータ分析の4つのプロセスを実行するのが、データエンジニア・データサイエンティストの主な役割です。そのうち1〜3のプロセスだけで、6割以上の時間を費やしている(CrowdFlower)とも言われます。セールスやマーケティングの領域では、高度なデータ人材がいない企業でも活用できるように、それぞれの領域に特化したBIツールがこれらのプロセスを賄えるようにもなっています。

人事領域におけるBIツールや機能は、実はそこそこ存在するのですが、上述の ①下準備を適切に行う専門性や、②現場のマネジメント陣にとってわかりやすく役に立つという顧客目線(インサイト)というケイパビリティを十分に兼ね備えているものは、(自戒もこめてですが)世界を見渡してもまだ多くはありません。

その結果、顧客企業側からは「BIツールは本質的にはあまり役に立たない」という烙印を押されることもあるのですが、実はサプライヤー側でも「プロダクトでは差別化できないから、結局はセールス・マーケティング力の勝負だ」と喝破する声も少なくないのです。こうしたケイパビリティの欠如や軽視も、人事データ活用への関心の高さ(85%)ほどには導入が進んでいない(14%)ことの、サプライヤー側の一因だと思います

※ 数値はPwC「ピープルアナリティクスサーベイ2019」より抜粋
※ 顧客企業側の要因は、別の note で考察します
※ ケイパビリティはあっても、人事の一部領域をカバーするのみで、従業員ライフサイクルの全体像を捉えきれていないケースもあります(料理の例だと "食材の調達ルートが限定されており、栄養価が偏っている"。もちろん偏食が必ずしも悪いわけではありません)

ちなみに ①下準備を適切に行う専門性や、②現場のマネジメント陣にとってわかりやすく役に立つという顧客目線(インサイト)というケイパビリティは、いみじくも『シン・ニホン』(安宅和人氏)でも「ビジネス力」「データサイエンス」「データエンジニアリング」の3つのスキルセットとして、ほぼ同じ要素が指摘されています。

これらのケイパビリティ・スキルセットを養うことは一朝一夕には行きませんが、企業の内外(教育機関も含む)での人材育成に投資を増やしたり、他の領域から人事領域への人材還流を促進することで、より "美味い人事データ分析" が増えるはずですし、パナリットもその一翼を担っていければと思います。

補論

1. 人事データにおける「①下準備を適切に行う専門性」は、下記で断片が要約されています。

2. データ分析が専業ではないサプライヤーが BI やアナリティクス市場に進出するのは、事業ケイパビリティや提供価値の違いから、人事に限らずあらゆる領域で苦労しており、結局は企業買収によってケイパビリティを獲得した事例が多くみられます。こちらの記事でもう少し詳しく紹介しています。


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