見出し画像

Lost Picture -アンナの光-

IDC川村記念美術館にはかつて「ニューマンルーム」と呼ばれる展示室があった。創立の1990年から所蔵していたバーネット・ニューマンの最大の作品である「アンナの光」(1968年)を単独展示していた部屋である。
過去形なのは2013年に海外の企業に売却し、公開が終了しているからだ。


出会い

この作品との出会いは僕のアートに対する概念をひっくり返した。

写真で見ると現代アートでよくある赤一色の塗りつぶし作品にも見えるが、ニューマンはZIP(ジップ)とよばれるラインをその中に入れるという作風をしていた。276x611cmの作品の両端に白いラインが入っている。サイズ(スケール)が桁違いに大きい。インテリアデザインのようにルームを訪れたものに圧倒的な印象を与える作品でありながら、キャンバス上に、作家自身が油絵具で描くという、タブロースタイルのファインアート。

作品の前に自分は在るという感覚。

ただ純粋にこの作品を眺めていたいと思った。

そして一日この前にいた。

バーネットニューマン(1905-1970)

抽象画を見る際に欠かせない軸である、カンディンスキーの熱い抽象とマレーヴィッチの冷たい抽象。そのマレーヴィッチを端緒とする構成派の到達点がアド・ラインハートとバーネットニューマンです。

が、こんな説明よりも何よりも、本物を見た衝撃が大きかった。

惜しむらくは、すでに売却済みで展示が終わっていることだ。この部屋は売却とともに現在はロスコ・ルームとなっている(もちろんロスコも抽象画家として比類なき天才だが)

自分の人生の一部の時間だが、この絵に巡り会えたことは僥倖だった。

もしかしたら、自分が生きている間には、もう世に出ることはないかもしれない。しかし一期一会ながら「生命の力強さを感じさせてくれる赤」との忘れがたい邂逅であった。


2021年の芸術の秋に寄せて








この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?