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法廷通訳のはなし [#2 最初の裁判]

こんにちは!

カナダはまだ日曜日です。もうおうち時間が長すぎて何曜日かさえもわからなくなってきています...

お勤めに行かれる方、医療従事者のみなさま、今週も応援しています。毎日ありがとうございます。

おうちにいる方々も外に出るのをぐっと堪えてお互い頑張りましょうね!

さてさて、前回の続きに入ります。人生最初の裁判通訳についてのお話しです。

裁判の仕事の案件が入ったのは試験に合格してすぐでした。私があの日合格していなかったら、もしかしたら裁判所も、もっと先の日程で裁判を組み直したのかもしれません。

最初の通訳業務はいきなり、5日間に渡る性的暴行についての裁判でした。

日本でいう高等裁判所での通訳のお仕事でした。

法廷通訳は被告人か被害者、または証人の通訳をしますが、この裁判では被害者側の通訳を任されました。カナダでは被害者の供述も、証人の供述として扱われます。目撃者でも、被害者とされる人でも、witnessという言葉が使われます。

判事が1人、判事から見て向かって左側に、州の検察官と事件に関与した警察官。

右側に被告人と弁護士。判事の左側に証人台があり、検察と弁護士に向かい合うように供述者、その隣に通訳。

イメージできますでしょうか。

裁判自体は初めてのことでしたのでもちろん戸惑うことが多かったのですが、私の戸惑いなどは、被害者のトラウマに比べるとちっぽけなものです。

一生懸命1日4-6時間にも及ぶ供述のお手伝いをするため、通訳しました。

裁判自体はスムーズにいきましたが、この経験で学んだのは、自分の語学のレベルでも、法制度の複雑さでもありませんでした(これらは自然と経験を積んでいくうちに嫌でも学ぶことです笑)。

この裁判で学んだのは:

- 自分の知らなかった世界に足を踏み入れるには相当な覚悟が必要なこと

- 通訳として働く上では、自分の意見を持たないように気をつけなくてはいけないこと、己を無にして業務に当たること

- 一つの事件をみて、世界は〜なんだ、社会は〜なんだ、と物事を決めつけないこと

- 業務中に聞く人の経験や、普通だったら聞くにも耐え難い話の内容に感情移入しないこと

でした。

法廷通訳は他の通訳と違い常に精神の強さが求められます。

自分自身の軸がグラグラし、動揺してしまっては、自分の通訳サービスを必要とし頼ってくれている人に不安を与えてしまいますし集中力も欠けてしまいます。自分をしっかり持たないと、プレッシャーに潰れて仕事がきちんとできないからです。


大抵の場合、被害者とされる人が供述している間は、被告人は自分の右側にいます。

それを考慮し、被害者が被告人を見ることがないよう、シールドを設ける裁判所もありますが、全てがそうではありません。被害者とされる人が被告人を見てしまい、供述中に動揺しても通訳者は動揺してはいけません。

供述者が泣いてしまっても、通訳はつられて泣かないようぐっと堪えます。

これが今までやった裁判の中でも、五本の指に入るであろう、長丁場の裁判でした。

その後同じような事件の通訳を何回もするとは思ってもいませんでした。

次は裁判以外の色々なことをシェアしたいと思います。



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