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総務のプロとして、これからのオフィス作りに必要なこと。電通デジタル 飯野 将志

おはようございます。アドベントカレンダーイベント TCP対談企画第5弾は、株式会社電通デジタル 総務部 事業部長の飯野将志さんをゲストに迎えます。
2018年から働き方の変革に取り組んでいた電通デジタルさんは、新型コロナウイルス感染症拡大にもスムーズかつ柔軟に対応し、それにつながる働く環境の変革についても、議論し、判断し、次なる一手に踏み出しました。この一連の変革プロジェクトをリードする飯野さんに、「ニューノーマルな働き方」についてお伺いしました。

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飯野 将志
株式会社電通デジタル コーポレート部門 総務部 事業部長


コロナ禍が変えたのは経営者の意識だった

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これまでの日本では、ABW(Activity Based Working)などの新しい働き方は一部の先進的な企業がやるものだ、という認識が根強かったと思います。しかし2020年、新型コロナウイルスという得体の知れない強力なパワーを持つものが現れ、有無を言わさず、大半がリモートワークをしないといけない状況になりました。この状況下で最も変わったと思うのは、経営者のリモートワークへの意識だったと思います。

従来、リモートワークは、自律している社員がよりパフォーマンスを向上させるための手段として活用するものであり、自律できていない社員にはその権利を与えずオフィスに出社させるべきである、という考えが多かったように思います。しかし、コロナ禍で各社が全社一律でリモートワークに取り組むこととなり、その効率性や有用性を経営陣自らが実感することになったと思います。一方で、若手の育成、中途入社者のオンボーディング、新規プロジェクトのチームビルディングといったものには、対面での濃厚なコミュニケーションが有効であることも再認識されたように思います。

当社においても同様で、リモートワークをさせる、させないでコントロールするのではなく、成果に対する評価できちんとフィードバックすべきである、という方針に大きく変わりました。そういった意識の変化を通して、当社では、目指す働き方を「Performance Based Working」と定め、社はパフォーマンスの最大化に資する働き方の選択肢を用意し、各組織はその采配の下で、やるべき事を、やるべき時に、やるべき人が、やるべき所で働く、こととしました。


瞬時の判断を求められる今日の働き方

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現在、当社では働き方の変化を受け、オフィスの在り方も大きく変えていくことを検討しています。コンセプトは、「Real empowers us.」 リアルですべきものはリアルですべきで、リアルでなくてよいことはリアルでなくてよい。というシンプルな考えが大前提にあります。その上で、リアルですべきことは何か。ということを半年間かけて議論し、まとめてきました。

当社では、機動力・プロフェッショナル・グループシナジー・信頼関係という4つの軸でワークプレイスにおけるエクスペリエンス(体験や経験)を整理。その中から、リアルな場で勢い、エネルギーを体感することに価値があるものを抽出し、オフィスに実装していくことにしました。

「働く」ということにおいて、今、何をすることが効率的か、効果的かということを判断できることは非常に重要だと考えています。成果のスピードとクオリティのバランスが肝心で、早ければ良いわけでもなく、質が高ければ良いわけでもない。その丁度いいバランスを瞬時に選択していくことが、今、働く人たちには求められています。

例えば、「議論やブレストは会ってした方が早い」という意見がよくありますが、その言葉の中には、判断が早い、伝わるスピードが速い、伝わる情報量が多い、などの様々な意味が内包されます。コミュニケーションの質や量を維持ないしは高めることが、議論やブレストには必要ということです。そう考えたときに、リアルが良いのであればリアルを選択すべきで、オンラインで質と量が担保できるのならオンラインを選択すればよい、アプリケーションや電話などツールを使って対処できるならばそれらを使えばよいと考えます。

社員がその判断をする際に、自社のオフィスが、家やシェアオフィスと同じように机と椅子を並べただけでは、その選択肢に入ってこないのです。そのようなオフィスの需要は今後減るでしょう。家やシェアオフィスでは体験、経験できないことが、自社のオフィスではできる、ということが大切な要素だと思います。


オフィスは企業経営における投資である

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工場を作ることを設備投資と言うように、オフィスを作ることも企業経営における投資と捉えるべきだと考えています。だからこそ、オフィスは投資判断できる人と共に作り上げていく必要があるのです。当社では、投資に対して責任を持つ役員が「さあ、働き方変えるぞ」と旗を揚げたことで、2018年にワークスタイルの変革プロジェクトが始動し、コロナ禍においては、やるべき事をやるべき所で、という方向性を経営陣が示し、それに向かってオフィス改革が進行しています。

私が新人の頃の話ですが、レイアウト変更を任され、週末に現場で調整をしていると、対象部署の部長も休日なのに出社していました。そして、その部長は自分の席からオフィスを眺めた後、「このデスクはもう少しこっち」と細かく指示を出してきました。その時に彼が言った「部長が着任して最初にやるべき仕事はレイアウト変更なんだよ」という言葉を今になって思い返すと、核心をついていたと思います。

また、とある企業経営のプロの方が「経営方針を分かりやすく伝える手段は、人事とオフィスだ」とおっしゃっていました。人事というのは、どういう人が登用されているか、どういう異動が起きているか、ということであり、会社がどういう人材を欲し、どういう事業に力を入れようとしているのかが伝わります。オフィスという従業員が働く空間からも、こういうコミュニケーションを取ってほしい、こういう風に動いてほしい、という経営のメッセージが伝わります。

だからこそ、経営者から「こういうコミュニケーションをとってほしいんだ」という意思が見えないとオフィスは設計できません。当社における経営方針は、「クライアントファースト」「圧倒的プロフェッショナル」「グループシナジー」です。これをオフィスで表現するとすれば、クライアントのことを考え抜くことが出来る環境。様々な専門性を持つプロフェッショナル達が使いこなせる環境。そして、その電通デジタルのプロフェッショナル達や電通グループのシナジーが起きる環境。これを実現するのが私のミッションです。

ぜひ、経営者の皆さんにはオフィスを経営戦略実現のための装置として最大限活用いただきたいですし、我々のような総務やファシリティに関わっている者たちが、それを進言できていないという課題だとも認識しています。


ユーザーのアクティビティを熟考したオフィスづくりとは

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今回、エクスペリエンスデザインという手法でオフィスに必要な要件やコンセプトを定義してきました。従来のように、会議室やコミュニケーションスペースといった場所による定義で要件整理をすると、機能を軸に会話がなされ、どのようなアクティビティを想定しているか、人によって捉え方にバラつきがでます。一方で、エクスペリエンスという軸でオフィスを語ることによって、設計士や従業員へ伝えていくときにそのギャップが出にくいことに気づきました。「ユーザーが交流する」というアクティビティをオフィスに置いたときに、それは結果的に、コミュニケーションスペースでもいいし、ラウンジでも、カフェでもいい。重要なことは、ユーザーがそのオフィスで必要とするアクティビティができる環境を整えることだと思います。

また、ユーザー自身で可変できるオフィスづくりも重要です。当社では、ビジネススピードも速く、他部署や他社とのコラボレーションも多く、プロジェクトワーク型の業務が中心となっています。大規模/小規模、長期/短期、様々なプロジェクトが社内で同時に進行することからも、可変性のあるオフィスが理想です。ミーティングスペースの間がカーテンで仕切られていて、カーテンを開閉することでスペースの拡大・縮小が可能になる。オフィス家具や電源やボード類も全て稼働できるようになっていて、4人から8人、16人と、チームの規模と数に合わせて、ユーザーが変えていける。これらもユーザーのアクティビティを考えることで発生するアイディアであり、家やシェアオフィスでは実現できない環境と言えます。

また、いかにチームの色を出していけるか、ということにも挑戦したいです。可変するが故に、造作で作りこむことなく、着飾っていける余白や仕掛けを考えたいです。オフィスに行けば、どのチームがどういうクライアントやプロジェクトに向き合っているか一目で分かる。社員がクライアントのことをいつも念頭に置けるような環境です。


総務としての挑戦は「行きたくなるオフィスづくり」と「デジタルマネジメントの推進」

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日本人の国民性として、ルール遵守ではなく大衆遵守という性質があると思います。「明日からABWをやりますよ」と言っても、周りが出社していたら、出社してしまうのが日本人だと思います。今は逆ですね。例えば出社してもいいですよ、と言っても、周りが出社しないため、出社を控える従業員も多い印象です。いかに行きたいと思わせるか、というのはオフィスづくりで重要です。

また最近、興味深い意見を聞きました。これからのオフィスは「行きたいから行く」という選択に変わるため、メンタルヘルスが減るはずである、というものです。従業員にとって、オフィスは選択肢の一つとなる、だからこそ「オフィスに行きたいよね」と思えるオフィスづくりをしないといけません。最近、コンセプトフェーズで作った将来のオフィスイメージを社員に見せたのですが、「こんなオフィスなら行きたい!」という声をもらえました。やはり、空間というものは人を動かすパワーを持っているし、そういうものを作らないといけないという使命感があります。

一方で、今回半年かけてまとめたエクスペリエンスデザインを「これってただの仮説でしょう?」と言われ、自分の中でグサッと刺さりましたが、「仮説だ」と思って作ることがこれからは大切なのだと気付かされました。これまでは、構築時に大金をかけ、作ったら5年、10年変えないというのが一般的なオフィスづくりでした。しかし、変化の早い今日は、まず半年、1年使ってみて、変えるべきなら変える、という意識にシフトしていくべきです。

さらに、総務やファシリティマネージャーがファクトという武器を持てるようになりました。センサーやIoT、ICTを上手く導入することで、データ収集が可能です。それを活かせる総務が今後生き残っていくのではないかと思います。利用状況を分析しながら3か月ごとに変えていく、というような総務のDXも推進されていくべきでしょう。だからこそ、軽く、フットワークのいいファシリティで構築されるべきです。

お金をかければ、もちろんいい空間はできるでしょう。しかし、それ以上に知恵と工夫を求められるのがオフィス構築です。それは運営先行でもなく、デザイナー先行でもなく、テクノロジー先行でもない。それら三位一体で、侃々諤々に議論しあい、形にしていくことがオフィスづくりの難しいところであり、楽しいところだと思っています。


多様性がニューノーマル

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これからのオフィスづくりは100社100様になっていくでしょう。オフィスの存在意義は、会社の経営方針、そして社員に求める働き方によって変わるからです。
ニューノーマルという言葉が流行っていますが、ダイバーシティやインクルージョンという現象を考えると、ノーマルという基準を作りたがることに違和感があります。そのノーマルという言葉には「人の生き方や働き方を固定しない」という多様性の意味合いが含まれるべきです。
100社100様のオフィスの時代であるからこそ、それぞれの企業が自分たちの働き方をしっかりと考え、選択し、判断していくことが必要だと感じます。それは、社員一人一人の多様性と同様に、一社一社の多様性も広がる、ということではないでしょうか。