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『ネクスト・ソサエティー』は、本当に、「もう古い」なのか?

人事部の小山です。

昨日の記事「ドラッカーのいうIT革命って、ITによる革命なんてものじゃなかった!」にも一部レビューを書きましたが、こちらが完全版です。

前回の『プロフェッショナルの条件』から考える「これからの時代の働き方」に続いて、ドラッカーを考えていくシリーズです。
(読んでいない方は、こちらも合わせてご覧ください。)

今回は、ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる』(2002年)を読んで、未来について考えていきましょう。

1.こんな人におすすめ

未来が気になる人。
未来ってどうなるのか?不安で、でも期待しちゃう人。

2.この本と他の本の関係

「社会の変化」について扱った『イノベーターの条件』と似通っているので、合わせて読むのがおすすめです。と、いいますか、合わせて読まないと、『ネクスト・ソサエティー』を理解しきれないかと思います。

第1部第7章「ネクスト・ソサエティに備えて」は、『イノベーションと起業家精神』と似通っているので、『イノベーションと起業家精神』も合わせて読むとよいです。

3.『ネクスト・ソサエティ』は古いという説について

『ネクスト・ソサエティ』は、2002年に出版された本であるが、ドラッカー92才の時の本です。

まず、この本は、「未来予想の本」だといわれることが非常に多いです。

ゆえに、次の2パターンで評価されがちです。

①「未来をあてた」という称賛
②ドラッカーの時代からすると、「もはや古い」という批判

『イノベーターの条件』の「はじめに」にあるとおり、決して、未来予測の本ではありません

社会的なイノベーションを起こすために、社会の変化を分析し、洞察する力をもってもらうための本です。

すなわち新しい現実、新しい問題と機会、新しい変化の要因こそ、本書が分析し論じているものである。つまり本書は、過ぎ去りつつ社会ではなく、これからのニューソサエティについて論じたものである。とはいえ、予測ではない。描写と分析の書である。その目的とするところは、社会的なイノベーションに必要な洞察、理解、ビジョンを読者各位にもたらすことである。
『イノベーターの条件』(はじめに)

4.「歴史が見たことのない未来」ではない。「すでに起こった未来」があるだけ。

日本語の本の副題が、「歴史が見たことのない未来がはじまる」という煽った感がありますが、未来予測本ではありません

『ネクスト・ソサエティー』は、第2部IT社会のゆくえで、「eコマース」の到来を予言したといわれています。

ただし、本当は、eコマースを予言した本ではありません。

ニューエコノミーが論じられはじめた90年代の半ば、私は、急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであることに気づいた。
IT革命はその要因の一つにすぎなかった。

IT革命は、社会の変化の一部でしかなく、大きな要因ではないと言っています。

ドラッカーは、未来に対してこういっています。

われわれは未来についてふたつのことしか知らない。ひとつは、未来は知りえない、もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違うということである『チェンジ・リーダーの条件』

では、この本で言っているのは、何でしょうか。

ネクスト・ソサエティはすでに到来した。もとには戻らない

何がすでに起こったのか?
 
1、人口動態の変化、少子高齢化、労働力の変化
2、産業構造の変化 (二次産業から三次産業への変化)
3、肉体労働者中心から知識労働者中心への変化
 (これは、『プロフェッショナルの条件』などの他の本でも述べていること)

5.IT革命は、ITによる革命ではない?!

(スピンオフした記事が、昨日の「ドラッカーのいうIT革命って、ITによる革命なんてものじゃなかった!」です)

ドラッカーは、IT革命の本質は、技術の革命ではないといっている。その例として、2つあげている。

1、印刷革命
2、産業革命

(1)、印刷革命は、メディアの流通革命ではなく、文化の革命だった

1455年のグーテンベルグ印刷機と活字の発明は、最初の50年間は、大したインパクトはなかった。印刷物は、宗教書や古文書といったすでに手書きされたものを、印刷したにすぎなかった。

つまり、与えたインパクトは、文献が入手しやすくなり、安くなったということでした。

印刷の発明が、社会を変えるのは、発明から60年後。
ルターのドイツ語訳聖書が大量に印刷され、破格の安さで売れらたことで、
プロテスタントをヨーロッパの半分にまで広めました。それによって、カトリックとの宗教戦争が起こります。

その後に、マキャベリの『君主論』が16世紀のベストセラーになり、さらに文学作品がでるようになり、文学作品から近代演劇が生まれました。

(2)、産業革命は、大量生産ではなく、新産業を生み出す革命だった
ワットが発明した蒸気機関によって、綿繊維の価格は、9割安くなり、生産量が150倍になった。しかし、産業革命は、最初の50年で起こったことは、すでにあった製品の、製造を機械化し、生産量を高め、生産コストを下げただったと、ドラッカーは指摘します。

産業革命によって、大きな社会変化が起きるのは、鉄道の登場だといいます。鉄道によって、移動の自由という交通革命を引き起こしました。また、鉄道によって、電報、写真、光学機器、農業機器、肥料産業、公衆衛生などの新技術の登場に影響を与えたといいます。
さらに、近代郵便、新聞、投資銀行、商業銀行などの社会制度が、鉄道によって生まれたといいます。

IT革命は、社会に何をもたらすのか。

給与計算や在庫管理、経理作業の時間を短縮するためのソフトは、IT革命ではない、とドラッカーはいいます。

これは、産業革命で、機械化で、生産量が増えて、生産コストを下げただけのことと同じで、それだけでは、昔からあったものの単なる時間の短縮にすぎず、社会に革命的な変化をもたらしたとはいえないという。

ドラッカーがいう、本当のIT革命とは、新産業が生まれることだといいます。そして、IT、コンピューター、データ処理、インターネット関連ではない新産業が生まれることこそが、IT革命なのだ、とドラッカーはいいます。

例えば、養殖がそれにあたるといいます。

私が思うものをいくつか挙げてみます。

①宅配業
(新産業ではないですが)それそのものがIT業界ではないですが、eコマースによって、変化が起きた業界だといえるでしょう。

②音楽LIVE
(新産業ではないですが)ネットで音楽を聴けるようになり、CDが売れなくなったからこそ、レコード会社は、収入減をCD売上ではなく、アーティストの音楽LIVEに軸を移すようになっていっていきました。ネット以外の新産業なのかと思います。CD売れなくなったつながりだと、握手券ビジネスもそうですね。

③タピオカブーム
ネットでタピオカを買うわけではなく、SNSが火付け役になって、タピオカ屋に行列ができるわけですから、これも、IT業界そのものではない、ITによる新産業(そもそもあって、一時のブーム感がありますが)のひとつかもしれませんね。

音楽LIVEなどの市場は、「8年間で2倍に成長」しているようです。

これは、レコード会社(という言葉がもはや古いですね)というアーティストの音源をCDというメディアに単に「レコード」することから、「アーティスト」と「ファン」の関係づくりをするということに、レコード会社の仕事を再定義したことによって、生まれたものかもしれません。

6.ネクスト・ソサエティとは?

「ネクスト・ソサエティ」とは、いったい何なのか?
ドラッカーは、次の3つの特性をもつといいます。

1.知識は資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界もない社会となる
2.万人に教育の機会が与えられるがゆえに、上方への移動が自由な社会となる。
3.万人が生産手段を手に入れ、しかも、万人が勝てるわけではないのがゆえに、成功と失敗の併存する社会

そして、3つの特性によって、高度に競争社会になる社会だといっています。

1.いかなる境界もない社会
例えば、「アラブの春」。2011年にチュニジア、エジプトなどアラブ各地に広がった反政府デモは、SNSによって拡散し、文字どおり、国境という境目を越えて波及していきました。

2.上方への移動が自由な社会
黒人のバラク・オバマ氏が、アメリカの大統領になって、アメリン・ドリームを実現したように、カーストの低いモディ氏が、インドの大統領になって、「インディアン・ドリーム」を実現したように、生い立ちに捉われない「〇〇ドリーム」が実現しやすい時代になってきている時代だということでしょう。

教育を重視して、成功者が多いといえば、ユダヤの方々が思い浮かびますね。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、マイクロソフトのスティーブ・バルマー。彼らの共通点は何か。それは、強力なサービスやビジネスモデルで世界を席巻した経営者であると同時に、ユダヤ系であるということだ。成功したユダヤ系経営者は、IT業界にとどまらない。スターバックスのハワード・シュルツ、GAPのドナルド・フィッシャー、ゴールドマン・サックスのマーカス・ゴールドマンもユダヤ人家庭に生まれている。(president online)

ドラッカーは、上方への移動が自由な社会では、こういうことが起きるといっています。

あらゆる人間が成功者たることを期待される

そして、今や、上方への移動に対して、邪魔をするものは、「差別」といわれるようになりました。

例えば、女性の管理職。

身分制度があった時代は、その身分を全うすれば、よかったわけです。

ドラッカーは、ネクスト・ソサエティは、高度の競争社会だといいますが、誰でも成功者になれる時代においては、成功者とそうでない者勝者と敗者)が分かれる、心理的なプレッシャーのかかる時代になってきたといえるでしょう。

3.成功と失敗の併存する社会

誰もが成功者になれる社会においては、過去の身分や地位に関係なく、敗者に変わることもあるわけです。

まさに中国・台湾・韓国のメーカに負けて、家電事業が衰退していった日本の家電メーカーがあてはまるでしょう。(参考。「2010年代 日本の家電メーカーの曲がり角」)

7.ネクスト・ソサエティに備えて

成功と失敗が分かれる時代において、組織が生き残るために、何をすればいいのでしょうか。

ドラッカーはこういいます。

「組織が生き残りかつ成功するには、自らがチェンジエージェントすなわち変革機関とならなければならない。変化をマネジメントする最善の方法が、自ら変化をつくりだすことである」

これは、以前書いた記事、リクルートの社是「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」に似ています。

ドラッカーは、組織自らがチェンジエージェントへと変身するための方策を4つ挙げています。

第1に、成功していないものはすべて組織的に廃棄しなければならない。 第2に、あらゆる製品、サービス、プロセスを組織的かつ継続的に改善していかなければならない。
第3に、あらゆる成功、特に予期せぬ成功、計画外の成功を追求していかなければならない。
第4に、体系的にイノベーションを行なっていかなければならない。

第1に、成功していないものはすべて組織的に廃棄しなければならない。

2010年代 日本の家電メーカーの曲がり角」でいえば、家電メーカーのテレビなどの事業などです。

第2に、あらゆる製品、サービス、プロセスを組織的かつ継続的に改善していかなければならない。

カスタマーサクセス10原則のうちの1つに、「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」ということがあります。

iPhoneも定期的に、新商品を発表したり、OSをアップデートしていっていますね。ソフトウェアだと、メジャーバージョンアップと、マイナーバージョンアップがあります。
メジャーアップグレードは、Windows XP→Windows Vistaなどの大幅な機能強化です。
それに対して、マイナーバージョンアップは、Windows 8→Windows 8.1などの、不具合や誤りの修正、小規模な機能追加です。

会社の利益は、商品・サービスの利益の集合体であり、組織は、プロセスによって動いているため、これは、商品別の利益をだしたり、サービスごとの顧客満足度を把握して、どこに手を打つのかを決めて改善いかないと、競合他社に負けてしまいます。

第3に、あらゆる成功、特に予期せぬ成功、計画外の成功を追求していかなければならない。

「イノベーションと起業家精神」でも、同じことをいっています。

成功・失敗を「成果」とした場合には、成果は、行動の結果です。

私が言うには、「行動」と「成果」の関係で、次の4パターンに分けられると思います。

①.予期した成功
②.予期せぬ成功
③.予期せぬ失敗
④.予期した失敗

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①.予期した成功
成果のための行動をとった。そして、成果が出た。
これは、ぜひ、横展開していきましょう。

②.予期せぬ成功
成果のための行動をとっていないのに、成果が出た。
これは、成果がでているからと、見逃しがちです。
これは、外部環境の変化が考えられます。お客様の方から、予想外の依頼があったとすれば、もっと他にもニーズがあって、取りこぼしている可能性があります。

③.予期せぬ失敗
これは3つあるかと思います。
「計画が甘かったのか」
「計画どおりなのに想定外に外部環境が変化したのか」(結果の話なので、結局、「計画が甘かった」「おまえは無能だ」と言われるしかないです)
「成果がでるまえに時間がかかっている」かです。

『イノベーションと起業家精神』では、予期せぬ失敗は、チャンスだし、イノベーションの機会だといっています。そもそも予期せぬ失敗を起こせる人は、緻密に計画をたて、設計し、実行した人なので、環境の変化に対応できれば、予期した成功を生み出すことができます。

この予期せぬ失敗を、予期した成功に変える力こそ、イノベーションというのだと私は思います。

予期せぬ失敗が要求することは、外へ出て、見、聞くことである。競争相手の予期せぬ失敗も意味をもつ。予期せぬ失敗は、イノベーションの機会の兆候として受け止めなければならない。分析するだけでは不十分である。調べるために出かけなければならない。たしかに、予期せぬ失敗の多くは、間違い、物真似、無能の結果である。しかし、緻密に計画し、設計し、実行したものが失敗したときには、失敗そのものが、環境の変化すなわち機会の存在を示すことが多い。
 予期せぬ失敗は、顧客の認識や価値観の変化を示す。製品、サービス、市場、戦略が前提としているものは、あっという間に陳腐化する。顧客が価値観を変える。同じものを異なる価値観で買うようになる。フォード社は、新型車エドセルの失敗によって、自動車市場がもはや所得によって細分化できなくなったことを知った。ユーザーは、所得ではなくライフスタイルに合った車を選ぶようになっていた。『イノベーションと起業家精神』

④.予期した失敗

これは、そもそも、行動変化を起こすことです。

第4に、体系的にイノベーションを行なっていかなければならない。

上記の1~3を行うことが結果的に、体系的なイノベーションになると思います。

8.未来に対して

ドラッカーがいう、「自ら変化を起こせ」というのは、以前に書いた「20年前。戦争はなくなるものだと思ってた。」での、未来に対する考え方と共通するものがあると思います。

未来を考えるとき、こういったことを考えるのではないかと思う。
① わからないから考えない
② 期待をする

おそらく、①でも、②でもない、考え方があるのだと思う。

それは、未来に対して、自分が今の問題を解決していき、理想の未来をつくりだす当事者になるということだろう。
つまり、これを志というのだ。

9.まとめ

・『ネクスト・ソサエティ』は、未来予測本ではない。
・社会的なイノベーションを起こすために、社会の変化を分析し、洞察する力をもってもらうための本
・「歴史が見たことのない未来」ではない。「すでに起こった未来」があるだけ。
・IT革命は、ITによる革命ではない。IT関連では、新産業が起こる。
・ネクスト・ソサエティとは、3つ。
①いかなる境界もない社会
②上方への移動が自由な社会
③成功と失敗の併存する社会
・ネクスト・ソサエティに備えるために、「変化をマネジメントする最善の方法が、自ら変化をつくりだすこと」である。

以上

ドラッカー研究でした。

人事部 小山

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