『プロフェッショナルの条件』から考える「これからの時代の働き方」
人事の小山です。
『プロフェッショナルの条件』を読んで考えたこれからの働き方について書いていきます。
『はじめて読むドラッカー【自己実現編】「プロフェッショナルの条件」 ― いかに成果をあげ、成長するのか』
1. こんな人におすすめ
激動の時代の中で、個人の働き方をどうしていくのかのヒントを知りたい人に勧める1冊である。
2. この本と他の本の関係
この本は、「はじめて読むドラッカー」三部作の一作目であるが、私は、三作目ではないかと考える。
順番に並べると、
一作目は、「個人」をテーマにした『プロフェショナルの条件』、二作目は、「マネジメント」をテーマにした『チェンジ・リーダーの条件』、そして、「社会」をテーマにした三作目『イノベーターの条件』である。(ともに、2000年に出版されている。)
いや、3部作は、個人をテーマに書いた本というと少し違う。
すでに書かれた書籍、論文をテーマに沿って編纂したものだ。
「はじめて読むドラッカー」3部作の関係図を書いてみる。
社会をベースとして、その上にマネジメント、つまり、企業、そして、個人の実現が積み重なる関係になるかと思う。
我々の働き方こそ、知識労働者として、どうこれからの時代を働いていくのかという『プロフェッショナルの条件』のテーマなのだ。
そういった意味では、マクロ⇒ミクロへの流れで言うと、
『イノベーターの条件』⇒『チェンジ・リーダーの条件』⇒『プロフェッショナルの条件』の順に読むのもいいのかもしれない。故に、私は、この本は、3部作の三冊目だと考える。
3. 本当は、『知識労働者の条件』?
日本語のタイトルとしては、『はじめて読むドラッカー【自己実現編】「プロフェッショナルの条件 -いかに成果をあげ、成長するのか』となっているが、原題は少し異なる。
原題は、THE ESSENTIAL DRUCKER ON INDIVIDUALS:TO PERFORM, TO CONTRIBUTE AND TO ACHIEVE である。
個人をテーマにした本であるが、日本語タイトルにしたら、『プロフェッショナルの条件』となっている。プロフェッショナルという言葉は、この本でほとんど出てこないキーワードだ。本のタイトル以外では、本文中に一回しか出てこない。
代わりに、頻繁に使う言葉は、「知識労働者」である。本文中に113回使われている。
4. 『プロフェッショナルの条件』のポイント
『プロフェッショナルの条件』という一冊の体系化だった本があるのではなく、個人を題材にして切り取ったいくつかのテーマが本書である。
そういう意味では、本全体として、何か言いたいわけではない。そのテーマに沿ってちりばめられた、いわばドラッカーの名言集なのだ。
いくつかポイントとなるところをまとめておこう。
① 「いつも失敗してきた。だから、もう一度挑戦する必要があった」
② 何によって憶えられたいか
③ 強みを知る
④ 時間を管理する
⑤ 貢献を重視する
今までの書物をまとめており、他の本と重なる部分も多い。マネジメントの役割について書いた
『マネジメント(上)』において、
「貢献」:93回、「生産性」:116回、「成果」:369回
マネジメントの方法について書いた
『マネジメント(中)』においても、
「生産性」5回だが、「貢献」:104回、「成果」:296回登場する。
本書『プロフェッショナルの条件』でも、
「生産性」:88回、「貢献」:90回、「成果」:322回登場する。
以下、ポイントごとに感想を述べる。
①「いつも失敗してきた。だから、もう一度挑戦する必要があった」
この本は、ドラッカーの一連の本に関しては、珍しく、ドラッカー自身の経験が書かれている。ドラッカーって、小難しそうという方には、読みやすいのではないかと思う。
ドラッカーが、18歳の頃感銘を受けた出来事がある。ウイーンで、大学生をしながら、商社の見習いとして働いていた頃にオペラを見にいった時に、衝撃を受けたのだという。さらに、衝撃だったのが、そのオペラは80歳になるヴェルディによってつくられたものであったということだった。
18歳のドラッカーに、80歳の人が、そんなに力強い作品をつくることに衝撃を受けたのだった。
どうして、ヴェルディがその年になっても精力的なのかを調べていたドラッカーは調べた。
そして、ヴェルディーのある言葉を見つけた。
「いつも失敗してきた。だから、もう一度挑戦する必要があった」
ドラッカーは、この言葉を胸に刻んでいるという。ドラッカーは、80歳を過ぎて、晩年になっても、著作を出し続けた。「マネジメントの父」として、十分な名声を得ていたのではないだろうか。
それなのに、80歳を過ぎても、なぜドラッカーは著作を続けていたのか。
そして、ドラッカーは、なぜ、「次に出す作品が自分の作品の中で一番いい作品」だといっていたのか。
そのヒントは、ドラッカーの18歳の頃の経験に隠されていたのだ。80歳になっても、オペラを続けたヴェルディーは、音楽史に残る偉人であることは間違いないが、ドラッカーもまた、マネジメントの歴史に残る偉人である。
ドラッカーも、ヴェルディーもこういっているように聞こえる。
「自分は、特別な才能があるわけではない。だからこそ、ずっと続けている。ずっと続けていれば、結果が出る。」
似たものを感じるのは、イチローだ。日米通算4000本安打をうったとき、「8000回は、悔しい思いをしてきた」ということを言っている。
幻冬舎の見城社長が、成功する人について、話をした次の言葉につながる。
「いろんな世界で頭角を現してくる人たちを見ていると、誰も自己顕示欲が強い。しかし、それだけではない。一方で、同じ分量の自己嫌悪が必要だ。魅力ある人間においては、必ず、自己顕示と自己嫌悪が、双子のようにつながっている。その2つを揺れ動くからこそ、人としての幅が生まれ、それが他人から見ると、魅力に映る。」
② 何によって憶えられたいか
「何によって憶えられたいか」を考えよ、とドラッカーは言っています。「何をしている人か?」の問いが、「GEで働いてる」、「シティバンクにいる」というどこで働いているのかから、「ソフトウェアの設計」です。
という風に、アメリカでは、1950年から働く理由がwhereからwhatに変わってきているという。
私が、さらに、言うには、「何をしている人か?」の最上位の答えは、どうありたいのか? というwhoが位置すると思う。
1つめのWHERE
Whereの所属する企業のステータスとは、過去のものである。過去に成果を出した有名な企業に対して、過去の学歴や職歴が認められて入社するのだから、過去の時点での評価にすぎない。何をするかはともかくとしても、入った時点からその所属にはなれるのである。
この間、OB訪問をしてきた学生に、「なんでその大学に入ったの?」と聞いたらこう答えていた。
-「学歴が良かったから。」
では、「将来、何したいの?」と聞けば、「特にやりたいことがあるわけではない」と答えていた。
「いい大学に入って、いい会社に入ること」= いい働き方 という神話は段々崩れつつあるように感じる。
企業の寿命が、20年くらいと言われる中で、働く期間は50年であり、企業に依存しない働き方をしていかないといけない時代になってきている。
2つめの、WHATについて
これは、今、現在の職種であり、業種であり、やっている仕事なのだ。
「どこで」ではなく、「何をする」重視の働き方。
これは、3人の石切職人で言えば、「2番目のキャリア志向」の人に近い。経験を身に着けてしまえば、続けている意味もなくなる。そして、その仕事が自動化されれば、価値がなくなる。
今、目の前の仕事の作業に依存する働き方をしていてはいけないということだ。
では、何を頼って働けばいいのか。
それがこの本のテーマとして、課されていることだ。
私がいうには、自らの使命感に頼って働く、
自分の心を燃やす想いに従って働く。
それがこれからの時代の働き方であると思う。
3つめのWHO
つまり、自分がどうありたいかを目指して働く。
自分がどう憶えられたいのかを目指して働く。これが、我々、コンサルタントの働き方なのだ。
自分がどう思われたいのか。これは、WHY、つまり自分がどんな想いをもって、顧客に貢献し、顧客を元気にし、社会に貢献するのかという使命感をもって働いていくことの結果が、自分を形づくっていくのである。
これは、未来に対するものであり、ずっと追い求め続けるものである。
先ほどのヴェルディやドラッカーは、ここの使命感の領域で仕事をしているのだ。
人生100年時代においての働き方は、社会変化の先の見えない時代において、自分がどうあるべきかを思い求めていくしかないのだと思う。つまりは、石切職人の3番目、みんながここで喜ぶ教会をたてる人である。
マズローの欲求5段階説と働く理由の図の関係
「自己実現」という言葉が、本のタイトルの中にある。
成果 = 貢献 ≒自己実現
という形で、自己実現は、成果をだし、貢献することと同じような意味で使われていると感じる。
自己実現というのは、心理学者マズローの言葉である。マズローの欲求5段階説と働く理由を重ねて考えてみる。
こうなるのではないだろうか。
会社に所属することは、「生存欲求」(食べたい、寝たい、お金が欲しい)、「安全欲求」(危険から身を守る)、社会的欲求を満たす。
欲求を満たしてくれる範囲が非常に広い。
だから、欲求をなるべく満たしてくれる会社を探し、依存したがるのだ。
何をするのかというする仕事は、「どれだけできるのかが能力評価であり、
「どれだけしたのか」が成果評価につながる。それはどう認められるのかであり、つまりは承認欲求につながる。この領域での仕事は、「どれだけする」のかというモチベーションの量の大きさになるので、承認されないと、行動量が減ってしまう。
「何をするのか」という働き方では、他者依存の働き方になってしまうのだ。
では、承認に依存せずに働くにはどうすればいいのか。
使命感(WHY)をもち、どうありたいか(WHO)が、自己実現を目指して働くことである。
幻冬舎の見城社長のいう魅力ある人間の「自己顕示欲+自己嫌悪」とは、使命感を追い求めていくことで、常に、自分の足りないものを他者を満たすために受け入れることができる人である。
そして、その働き方をする人を知識労働者と呼ぶし、これが、ヒトでしかできない働き方であるし、心の豊かな働き方である。
③ 強みを知る。
個人が成果を出すためには、強みをしることであり、マネジメントとして、人に成果を出させるには、強みを生かすこと
と言っているが、このことは、『マネジメント(上)』でも言っているし、それをマネジメントの役割だと言っている。
つまりは、個人の働き方=知識労働者≒マネジメントという構図である。
「職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられているか?」
強みの話でいうと、ギャラップ社のQ12の質問を思い出す。
「職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられているか?」という質問は、エンゲージメント測るための質問「Q12」の質問の項目のひとつだが、この項目は、だいたい低い。
「最も」、「毎日」という限定する言葉がくっついているので、「そうだ」と言い難くなってしまう。
でも、「何が最も得意かな?」と聞いてあるわけでもないのだ。
この質問については、私はこう思う。
1つめは、我々の仕事は何か。
私がいうには、我々の仕事は、期待に応えること。そもそも、アサインされている仕事である限り、「できる」と思われている仕事なのだ。
今は、苦手かもしれないが、できるようになることを期待されているのだし、それにこたえるのが、我々コンサルタントの仕事ではないだろうか。
2つめは、得意な仕事とは何か。
私がいうには、成果を出した仕事が得意なことである。ではどうすれば、得意になるのか?成果を出すことである。向き・不向きではなく、成果をだせば得意なことにすることができる。
成果がだせることを広げていけば、得意なことを増やしていける。得意なことを増やせばより期待される人になる。
アサインされた仕事が、得意かどうか悩んでいるより、どのようにすれば成果をだせるのかを考えて、行動をして成果をだしてしまうのが良いだろう。
・強みを知る方法 -フィードバック分析―
ドラッカーは、強みを知る方法について、「何が期待される成果」かを書き出し、「その進捗を振り返る」ことだと言っている(これのことをフィードバック分析と呼んでいる)が、これは、まさにTCFで言えば、人事評価面談である。
単に目標ができたかできないだけではなく、何かうまくいって、何の改善が必要で、何に注力すべきか、何が不足しており、何を勉強すべきかを明らかにしていくことで、強みを生かすマネジメントにつながっていく。
④ 時間を管理する
成果につながる、貢献につながる重要な仕事にフォーカスせよと言っている。(この本は、成果と、貢献について書かれた本である)
私は、仕事の時間をこう呼ぶ。
付加価値の高い時間:クリエイティブ・タイム
付加価値の低い時間:ワーク・タイム
それは、何をするかではない。
会議はどちらに入るかといえば、成果につながらない会議なら、ただの情報共有かおしゃべりと変わらない。
何をするのかではなく、なぜするのかが、2つを分けると考える。
⑤ 貢献を重視する
「エンゲージメント」という言葉がある。エンゲージメントは、従業員の貢献意欲であり、貢献という言葉が出てくる。
ドラッカーのいう貢献は、3つだという。
1つめは、直接の成果
2つめは、価値への取り組み
3つめは、人材の育成
私は、2と3は同じことにつながると考えるので、私が言うには、貢献は2つである。
1つめは、成果への貢献(目標)
2つめは、文化づくりへの貢献(目的)
成果への貢献は、成果目標の達成である。これは、過去から現在まで、やってきたことの積み重ね。数字があがっていないのが事実であれば、それはそれとして受け止めるしかない。
過去の数字をいじってはいけない。
できるのは、未来のために今、何をするのか。
ただ、成果を出すこと、つまり数字を動かすことは、目標の値であって、目的ではない。
成果は、行動(WHAT)の結果にすぎない。成果が目的化すれば、ギスギスした組織になり、結果として、エンゲージメントは下がってしまうかもしれない。
どうするのかというと、
企業文化づくりへの貢献を行うことである。
未来に対して、ビジョンに対して、
価値あることを伝え、発信して、
ヒトに影響を与えて、
企業文化づくりにどれだけ貢献できるか。
これは、先ほどの使命感(WHY)の話につながる。
顧客を成長させる、顧客に喜んでもらう。
だから、自分たちも成長し、自分たちの喜びにつながる。
これが、誇りにつながる。
この目的のために、行動があることを忘れてはいけない。
ーーーーーー
「あなたの働く理由は何ですか?」
これを考えるのが知識労働者としての働き方ですね。
以上
人事部 小山
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