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【東日本実業団陸上②女子3000m・廣中璃梨佳】

東京五輪10000m代表の廣中がトレーニングの一環で出場
「本命5000m」で2種目代表入りに挑戦

 東日本実業団陸上最終日が5月16日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技で行われた。女子3000mには、東京五輪10000m代表に内定している廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)が出場。1400m付近から独走し、8分56秒65の大会新で圧勝した。
 廣中は5月3日の日本選手権10000mで、優勝と五輪参加標準記録突破を果たして代表に内定したばかり。同9日のREADY STEADY TOKYO5000m、今大会3000mと3連戦し、6月の日本選手権で、「本命」と話す5000mでの代表入りを狙う。

●10000m、5000m、3000mの3連戦

 8分56秒65は廣中が昨年9月、全日本実業団陸上で出した8分52秒80の自己記録には約4秒届かなかった。高校2年時(17年)にも8分56秒29で走っている。ベストのパフォーマンスではなかったが、2週間で3連戦した最後の試合だったことを考えると、違った見方をする必要がある。
 5月3日の日本選手権は自身2度目の10000mだったが、31分11秒75の日本歴代7位で優勝した。6日後のREADY STEADY TOKYO5000mでは15分12秒86で4位。萩谷楓(エディオン)のスパートに対応できず、日本人間でも2位だった。
「(状態は)走ってみないとわかりませんでした。本命としている種目なので、連戦でももう一段階ギアを上げたかったのですが、自分に負けてしまいました。でもこういうことが五輪では普通になります。得るものがあったと思っています」
 そして3連戦目の東日本実業団陸上は「練習の一環」として3000mを走った。
「5000mの後は練習で距離を踏みながら、(スピードも要求される3000mを)どのくらいで走れるかを見る試合にしようと思いました。最初から自分のペースで行って、後半どのくらい粘れるかを試しましたが、疲れを感じたレースになりましたね。ふくらはぎが少し重い感じがありました」
 連戦の疲労の中で走ったことを考えれば、東日本実業団陸上の3000mはそれなりの好タイムだった。

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●激戦も予想される日本選手権5000m

 廣中が本命種目と位置づける5000mは、昨年12月の日本選手権で優勝した田中希実(豊田自動織機TC)が東京五輪代表に内定済み。廣中も標準記録(15分10秒00)を破っていたが、そのときは2位と敗れて内定しなかった。しかし来月後半の日本選手権では、2位以内なら代表に内定する。仮に3位でも、1・2位選手のどちらかが標準記録を破っていなければその選手は五輪出場資格がないため、廣中の代表が内定する。
 だが廣中が2位狙いで走ることはない。ケガや体調不良があれば別だが、「順位は考えずに全力を出し切ること」を信条としているからだ。
 廣中と優勝を争う力があるのは新谷仁美(積水化学)、田中、萩谷と見られている。
 田中は代表入りも狙っている1500m決勝が大会2日目で、5000mは4日目。1500mの代表入りに集中した練習を積む予定で、5000mへの出場は直前の状態を見て決めることになりそうだ。もしも出場すれば昨年の日本選手権の再戦となる。そのレースでは残り3000mを田中が8分50秒、廣中が8分52秒と、2人とも今回の東日本実業団以上のスピードで激戦を展開した。
 新谷も標準記録を破っているので、廣中と同じ条件のクリアで五輪代表に内定する。
 READY STEADY TOKYOでは萩谷と廣中に敗れたが、新谷の状態が明らかに良くなかった。それに対して絶好調だったのが10000m東京五輪代表を内定させた昨年12月の日本選手権だ。5000m通過が15分07秒でREADY STEADY TOKYOの5000mよりも速かった。新谷が出場したときには、14分53秒22の日本記録を更新するつもりで走るのは間違いない。
 そして代表を争う相手では、同学年の萩谷が最大のライバルとなる。萩谷はREADY STEADY TOKYOの5000mで廣中に1秒02先着した。五輪標準記録は未突破だが、適用期間外の昨年7月に15分05秒78で走っている。今年2月の日本選手権クロスカントリー(8km)では、不調だったとはいえ田中を引き離して独走優勝した。
 田中と新谷の出場は近くならないとわからないが、2人が出場するなら日本選手権は女子長距離最高レベルの激戦になる。

●いよいよ始まる世界への挑戦

 本命の5000mでの代表争いに全力で挑むことに変わりはないが、10000mで五輪代表を内定させたことで、廣中は世界との戦いをより具体的にイメージするようになった
「5000m(などの距離)に向けた練習というよりも、世界に向けた練習ができるかな、と思います」
 入社1年目の19年シーズンは、世界陸上ドーハ代表の鍋島莉奈(JP日本郵政グループ)らと海外合宿には行かず、同期入社の大西ひかりや菅田雅香らと、国内でじっくり練習に取り組んだ。
 それでも6月の日本選手権は世界陸上代表となる木村友香(資生堂)と鍋島に続いて3位に入った。夏には調子を落としたが10月の国体5000mで優勝、11月のクイーンズ駅伝1区区間賞、そして12月に5000mで15分05秒40と東京五輪参加標準記録を突破。
 昨年はコロナ禍で海外合宿には行けなかったが、練習を速い設定でも行うようになり、9月の全日本実業団陸上5000mで14分59秒37の日本歴代3位で走った。19歳ながら昨年の世界リスト19位にまで成長した。
 昨年までは自身の目標を、あまり具体的には話さなかった廣中だが、日本選手権10000mで代表を決めた後には世界への思いを次のように話していた。
「高校生で世界を経験(18年U20世界陸上1500m11位、19年世界クロスカントリー選手権U206km15位)したときに、私のなかで視野が広がりました。上には上がいて、全然歯が立たないと思い知らされましたが、そんな試合が楽しくも感じられました。自分を研いたら戦える、この舞台で勝負したいと思いました。(タイミング良く)日本でオリンピックが開催されます。必ず出場して、世界の選手としっかり勝負したいと思ったことが、オリンピックや世界大会を目指したきっかけです。まだまだ戦えないのはわかっていますが、日数はまだ少しあります。(世界で戦うための)精神面、身体面の強さをつけていきたい」
 東日本実業団陸上のレース後には、高いレベルの練習は行うものの、落ち着いて自身の状態を見極めていくことも強調した。
「しっかりケアをしながら継続第一でやっていけば、チャンスを逃さないと言いますか、ここで出したい、というときに出す力はあると思っています」
 世界で戦う高揚感と、自身を見つめる冷静さ。両者を上手くコントロールできれば、20歳の廣中が大舞台で大きなことをやってのけるかもしれない。

写真・TEXT by 寺田辰朗

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