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「福島県いわき市のローカルアクティビスト、小松理虔さんが考える、今ローカルで求められるクリエイティビティとは?」(前編)

ローカルアクティビストとは

柿次郎:
Dooo司会の徳谷柿次郎です。本日のゲスト、ローカルアクティビストの小松理虔さんです。よろしくお願いします。

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小松:
お願いします。

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Dooo!今日のゲストは福島県いわき市在住のローカルアクティビスト、小松理虔さんです。ローカルアクティビスト、聞き慣れない肩書きですがいったいどんなお仕事なんでしょうか。

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ローカルアクティビストになる前はテレビ局の報道記者、かまぼこメーカー広報も経験した小松さん。現在はいわき市の食や医療、福祉などの企画発案や情報発信をしながらその地域の課題と向き合っています。また2018年には震災後のいわき市の地域創生について自身の考えを綴った著書「新復興論」を上梓。大佛次郎論壇賞を受賞するなど高い評価を得ました。今日はそんななんだか頼もしい小松さんにローカルアクティビストに憧れるMC柿次郎さんが「ローカルあるある」話やローカルの未来について根掘り葉掘り聞いちゃいます!

柿次郎:
ローカルアクティビスト・・・。僕もちょっと言葉を聞いて「そうありたいな」と思ったんですけど、小松さんの中ではどういう定義というか?

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小松:
いや~、聞かれるとすごく困るんですよ。「ローカルアクティビスト」って自分で言っておいて、それって何ですか?って言われても定義がなくて。何らかの「ローカル」というのが、僕の中では、「地方」とか、いわゆる「田舎暮らし」だけの「ローカル」ではなくて・・・

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ということを説明するときに、何かいい言葉ないかなぁと思って、最初は、地域で何らかの活動をしているから「地域活動家」っていう日本語を名乗り始めて。でも、地域だからローカルだし、何かアクティビストっていうと、ちょっと行動的なイメージになるから「ローカルアクティビスト」として勝手に名乗った。

柿次郎:
まぁ僕もローカルで「編集者」という肩書なんですけど。編集者っていう肩書もしっくりこなくなってきたりしているんです。役割が広くなってきた時に「編集だけじゃないよな」とか。この仕事は編集者が本来やる仕事ではないと思うんですけど、こういうお仕事頂いていて。アクティビストって言われていて、この番組「Dooo」っていうんですけど「行動しよう」で。ほんとは最初、僕「やってこ!」って言葉が好きで「一緒にやっていこうよ」とか、借金してお店やっている友達が「やってこやってこ!」みたいな。「やるしかない!」みたいな。

小松:
わかるわかる。

柿次郎:
何かそこの「ローカルアクティビスト」っていうワードに行きつくのかな、と思って。

小松:
そうですね、僕も最初はローカルメディアみたいなところから行くんだけど、田舎って「別に写真撮れるなら写真も撮って、文章も書けるんだったら文章も書いてほしいし、広告も作って、何ならウェブサイトもできるでしょ?」みたいな。そこから「イベントの司会もできるよね?」みたいな話になって。

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柿次郎:
地元のおっちゃん、おばちゃんにライター編集って全然伝わらないですよね。

小松:
うん。「何それ」みたいな。僕の地元のいわきでは「ローカルアクティビスト」なんて全然名乗ってなくて、

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「何か一応本出しているらしいよ」とか。「書いているらしいよ」で全然いいと思っていて。田舎に行けば行くほど、僕の実感は「顔と名前」で憶えてもらっているので。


「地方=課題の領域」で求められていることとは

柿次郎:
僕、普段、長野なんですけど、もうちょっと顔とかやってること売らないと。

小松:
だからね、たぶん取材に行っちゃうと、メディアの名前とか、会社の名前では覚えてもらえるんだけど、その・・・僕も大学卒業してずっとテレビ局の記者をやっていて、その時に取材に行くと、俺は第三者であくまで取材にきているだけで「この取材が終わったらこの人とのかかわりも多分、ないだろうな」みたいな感じで行くと、やはり地元の人たちって距離を感じてしまうので。いいコンテンツを作ろうと思えば思うほど、やっぱりローカルに両足をぶっこんでいって、名前を憶えてもらって通ううちに、いいじいちゃん、ばあちゃんの顔がとれたりとか。本音が出てきたりとか。

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2009年に地元に帰った時に、その時は最初は「ライター」とか「編集者」っていう肩書でちょっと距離を持っていたんだけど、そうじゃなくて、震災以後は当事者としてある種関わっていく。というのをより強く意識した気はしますね。

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柿次郎:
小松さんのインタビューとか読ませていただいて、福島のこと、原発のこと、震災のことが・・・震災から今8年(インタビュー当時)・・・結構伝えづらい?特に日本全体で今、震災、災害が増えているプラス、世界全体での社会不安が高まっているので。東京の人はある種、過ぎ去ったことみたいに捉えて、前を向く力が強いのがある種人間のいいことなのかもしれないですけど「もうちょっとここ見てよ!」っていう。ちょっとそこのテーマを掘り下げていきたいなと思うんですけど。その一つが小松さんが書かれた本!「新復興論」についてちょっとお聞きしたいんですけど?

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著書「新復興論」について

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小松:
これは本当に、あの~・・・本を書くような人ではないわけ。たまたま「福島で起きていることを連載みたいな形で書いてほしい」と言われ始めて。50回も書いちゃったんで、たまたまこれ本ができるボリュームになっているなって。結果として出て「たくさんの人に読んでもらうには、何か賞とかが取れたらいいんだよ」って言われて「あ、そういうものなんですね、全然出版の世界とかわからないので、もう編集部のみなさんにお任せします」って言って、応募していただいて、賞をとってしまって。その賞の名前は知っているけど、自分が獲れるとも思ってないし、偶然の産物でしかなくて。

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柿次郎:
何か傍から見たら、そういう風に全然見てないような。書くべくして・・・

小松:
いやいやいやいや!めっちゃもう、何かそもそもこの本の中に書いたことも、確かにこう、地元に戻ってきたころに「何かローカルっておもしろそうだな」ぐらいなことは、感じていたけれども、別に「課題をこういう風に解決するんだ!」とか、原発事故がどうこうとか、そんなことは全然考えたことも・・・当初は。原発事故があって、震災があって、結婚したり家族が増えたりするうちに考えることが増えて、それを書き留めていって、結果的にできた本で。震災がなければ、普通にサラリーマンやってただろうし。自分で書くようなキャラでもないし。これを出てしまったせいで、あたかも一人の書き手みたいな感じで見られちゃって逆に嫌だ!みたいな。


今伝えたい復興のこと

柿次郎:
嫌なんですね。今、2019年のタイミングで、リアルタイムで連載されたものをベースにしていて。小松さんが今、伝えたい復興のこととか、スタンスとかってありますか?

小松:
そうですね。やっぱり、その、一番の僕が感じている問題っていうのは、僕たちが福島にいればいるほど、

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なんですよ。でも、他県の人からしたらある種、僕らの積み重ねにはなかなか及ばなかったりするじゃないですか。僕らは8年の積み重ねからみんなを見下ろしているから、そりゃ、

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そうじゃなくて、やっぱり、専門的なこととか、蓄積されたこととかっていうのも、もちろん大事なんだけれども、今の厚みを全てぶつけるんじゃなくて、外にいる人たちの目線に合わせて「何となく、こういうことを欲しているのかな」というのをかぎとりながら

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やっぱり他県の人の話を聞くと、これは震災に限らず、例えば「障害」とか。例えば、「地域づくり」とか。課題が進めば進むほど、すごく専門地とか議論は盛んなんだけど、

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あとは無関心がその外側に広がっていたりとか。結局、中でごちょごちょごちょごちょやっているだけでは、課題ってやっぱり解決しないし、外側の人たちの関心を読んだりとか。

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関わってくれる人が増えてこないといけないので、俺はこの何かの課題の中で何かを積み重ねるのではなくて、

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柿次郎:
専門家ではないというか。一人の兄ちゃんであると。人によってはおっちゃんである。話しかけやすい色々教えてくれる、その立ち位置の人ってどんどん減っていきますよね。出世魚みたいに詳しくなると、権威であったりとか。

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小松:
素人だし、あんまり関わっちゃいけないのかなとか、関わるの難しそうなだな、と思うことって、たぶん取材している人ほど、感じるじゃないですか。

柿次郎:
そうっすね。おこがましくなってくるんですよね。

小松:
でもその時にやっぱり、僕がもともとメディアにいた人間だった、という自意識もあって、やっぱりその関わりにくくなってしまったものこそ、やっぱりメディアたる自分が

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行けば行くほど、難しいことだらけ。結局誰かが切り込んでいかないと、議論は広がっていかないから。

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分かっている人と、わからない人だけだと、どうしても「上から教えてやる」とか、下の人が遠慮しちゃうけど、これからそういう課題に関わろうとか「ちょっと興味あるんですよね」みたいな人に、ある種寄り添いながら、同じ目線で「僕も最初は初心者だったし、こんな風に勉強していたら、すごく楽しく学べるからいっしょに行こうよ!」みたいな。そういうのが、震災当時ってやっぱり、まだなくて。メディアはメディアで「上から出てきた数字ってこうだよ」という風に伝えざるを得ないから、本当は現場の記者さんとかが、一緒に伴奏できるようなことが出来ればよかったんだろうと思うんだけど。その時にやっぱり俺は、テレビ局にいることによってできなかったことが、ようやく震災後に、ローカルアクティビストとして動いているときに、本来ローカルのテレビ局にいたときにやるべきことがようやくできるようになってきた。つなぎ役とか。専門性と一般の人たちをつないだり、課題の中と外をつないだりとか。「そういうことが出来るようになってきたなぁ」と。そうやって考えると、人とか出来事を編集しているって言えるんじゃないかなと思うんですよね。

柿次郎:
なるほど、そっか、そっか。ただ情報だけじゃなくて、流れみたいなものを。


「うみラボ」と「さかなのば」

小松さんが2013年から有志で行っている活動の一つ海洋調査チーム「うみラボ」。

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福島第一原発沖で海水や魚をとり放射線量を測るというものですがその活動のきっかけはかまぼこメーカーの広報をしていた時でした。

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小松さん:
「県外の方から福島の水産加工品大丈夫ですか」って聞かれるわけですよ。 その時に「僕はかまぼこ屋なので魚のこと知りません」とは言えないですよね。

小松さんはいわき市の水族館獣医、富原聖一さんの協力も得てこれまで様々な種類の魚の放射線量を測定してきました。

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調査を始めた最初の頃はセシウムが検出されていましたが、徐々に「N.D」検出されない物が目立つようになり、2017年頃からはほとんど検出されなくなりました。ここからは「うみラボ」のこと「うみラボ」をきっかけに広がったの活動「さかなのば」についても詳しくお聞きします。 


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柿次郎:
「うみラボ」っていうものであったりとか「さかなのば」っていう目の前のコツコツやっている活動についてちょっと教えてください。

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小松:
僕基本的に、そういうことって自分がやりたいからやることしかやりたくなくて。例えば「うみラボ」も誰かに測ってくださいと言われたわけではなくて、自分たちが知りたいと思ったからやったし。その結果、測っているうちに「これはもう放射性物質出ないな」となってくる。そうすると「この魚どうやって食べたらおいしいんだろう」とか「あ、この魚、こんなところにいたのか」とか。放射性物質を調べに行ったつもりが、魚に詳しくなって帰ってくるっていう感じで。魚に詳しくなって帰ってくると、魚にいきたくなって、魚屋に行き始めたら「小松君、今日も来たのか」って言って「今日、こんなのが入っているから、これ、オマケで入れておくよ」ってなって。「お前が情報発信しているんだから、お前が美味しいものわからなくてどうするんだ」って言って、その日の超おいしい刺身をつけてくれたりして「味の感想聞かせろ」とか言って、大将がすごく良くしてくれて。

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僕は震災後、いろいろ活動をしてきたけれども、別に復興のためとか、全然そんなこと考えてなくて、自分の生活を楽しくするっていう、自分の生活を面白くするっていうベースがあって「その中でどっかで課題にぶつかって、解決につながればいいや」くらいな感じなので。だんだんと放射性物質の汚染の状況に興味がなくなって、魚そのものに興味が出てきたので「さかなのば」っていうイベントも始まったっていう流れで。

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だから「さかなのば」も「自分が楽しくなくなったら、もう、やらないようにしようね」って仲間に言っていて。やらされて、やるものでもないし。なので「うみラボ」も「さかなのば」も僕は一銭も儲かってなくて。完全に自分の趣味みたいなものなんだけれども、そういうものだからこそ、いい場面に遭遇出来て・・・遭遇できるので、たくさんの方が参加してくれたりして。それがメディアを通じて出ていって・・・

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でも、地域で行われることって、その「そうなればいいかな」っていうのを、最初に目的にしちゃいがちなんだよね。「風評イメージを脱却するため、福島のポジティブな表情を発信するために、何が出来ますか?」ってところで予算をとるから。そうじゃなくて、

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そういうものだと、俺は思うんだけども。でも行政は「予算をとるためには、この目的があります。このためにやってください」となってしまうので、順番が逆になっちゃう。こういう活動をやっていると、例えば「さかなのば」も、メディアの人に取材されると「風評払しょくのためのイベント?ですよね!?」みたいな。そうともとれるんだけど、逆に言うと、そうともとれるし、自分のやりたいことでもある。だから、地域が求める要請「こんなことが出来たらいいね」っていうのと「俺はこれがしたい!」っていう自分の欲望をぶつけ合わせて重ね合わせた企画を出すっていうのが、今のところ俺はローカルで求められている、クリエイティビティってものなんだろうな、と。


地域の要請×自分のやりたい企画=ローカルで求められること

柿次郎:
半々ですか?

小松:
できるだけ、自分のやりたいことに近づけるんだけど、ちゃんと行政とかの人も「これは面白いですね」って言ってくれて、できるだけ予算をかけずに、多くの人がそういう喜べるような空間を作るというのは、すごく求められてると思うし。でも、それをテストできる場が意外となくて。意外ともう「こういう予算とったので、これやってください」となると、最初からガチガチだったりするから。自分の関心があったり「今、辛いな、今こういうことがちょっと大変なんだよね」ってことをやっぱり5人でも10人でも小さいイベントを自分でまず、主催してみて、それをメディアと一緒に連動させて。「考える場っていうのが、その場だけじゃなくて、読者の側にもどんどん移っていって」っていう風に、小さい、

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小さな企画から輪を広げていく

一方で、そういうUターンとか、地方のメディアで紹介されるのって、3000人集めたフェスの主催者、とか。何か、年商何億円をたたき出した経営者って人が来ちゃうから、もっとやるっていう。最初に問いが戻ってくるんだけど、5人でも10人でも3人でもいいから、やっちゃえばいいのに、みんなやらずに成功例だけを追いかけちゃって、スタートできないっていうのがすごくもったいないなって。福島との関わりもそう。「福島とはこういう風な関り方をしちゃだめなんじゃないか」とか。「こういう風にもうちょっと真面目に考えないといけないんじゃないか」ということではなくて、

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だって「さかなのば」とかって言ったって、あれ、魚屋さんで酒飲んでるだけですよ?

柿次郎:
ははははは!

小松:
めっちゃ誰でもできるんですよ!で、今、小名浜の商店街に「UDOK」ってスペースを借りていて。

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そこは家賃が6万円なので、一人5千円ずつ出せる人が12人集まったら、家賃はペイできるわけですよ。そんなの、超簡単なんだから、やればいいのに、みんな何か「町づくりのセミナー」とか行くと「こんなことやりたいんです!」「こんなことやろうと思っているんです!」って「やってください!」としか、俺言わないです(笑)どうぞ。明日、やってください!

柿次郎:
それ、すごく分かります。もう、とにかく悩み相談をしに来ているような。「やっぱりやった方がいいんだな」って。本当にやる人は1%以下ですよ。

小松:
そうなんですよね。みんなね、夢とかやりたいこととかいっぱいあるのに、やればいいのに!っていう。ほんとね、そういうセミナーとか行って「皆さん、俺よりすごいアイデアもっているんだから、明日からやってください!」って言っちゃって。だからその「さかなのば」も、魚屋さんで酒を飲むイベントなんだから、全国各地の居酒屋でやればいいんですよ。全国各地の魚屋でやったら、めっちゃ水産業盛り上がるはずなんですよ。全国の水産業、盛り上がるために何億って予算をとって、みんな有識者が考えているじゃないですか。そうじゃなくて、全国の魚屋さんから、魚愛好者みたいな人たちが月に1回、魚屋さんで飲む。10人でも、20人でも集まれる魚屋の飲み会やれば、

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課題みたいなものがほぐされていく気がするんですよね。

柿次郎:
小松理虔さんのお話まだまだ続くんですけども、一旦後編に続きます。
引き続きよろしくお願いします。

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