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「押収物」が語る、事件や社会の真相「こちら!押収ブツ係」をプロデュースして

はじめまして。TBS報道局の山崎直史です。普段は、夕方のニュース番組「Nスタ」(月~金曜15:49~19:00 ※一部地域除く)や、選挙当日の開票特番などを制作していますが、このたび、8月30日(日)14時から放送する(※一部地域除く)、「こちら!押収ブツ係」という、少し変わった(?)番組をプロデュースしたので、その番組制作の裏話などについて書かせて頂きます。

◆事件のある所に「押収ブツ」あり、「押収ブツ」から事件や社会が見える

もともと私は、警視庁捜査一課、東京地検特捜部、埼玉県警などを取材する、「事件記者」を10年弱担当してきました。その中で、“押収物”や“証拠品”というものが、事件捜査の中で、どれだけ大事なものかということを目の当たりにし、日々どんな“押収物”が出てくるかと、関心を持って取材していました。

私が取材していた、はるか昔ですが、「三億円事件」や「吉展ちゃん誘拐事件」などの捜査にあたり、昭和の名刑事と言われた、平塚八兵衛は、「ブツが物を言う」という言葉を残していたそうです。

事件の捜査は、目撃情報や参考人の証言など、さまざまなピースを集めておこなわれるものですが、平塚が最重要視したのは、ブツこと、証拠品=押収物。押収物を深く分析し、それが発する声に耳を傾けることが、犯人の逮捕、事件の全容解明の近道だと考えていたのです。

そんな押収物、普段のニュースの中で、整然と、あるいは雑然と陳列され、報道陣に公開されたものを、みなさんもご覧になったことがあると思います。実は、あの押収物たち、事件や社会の裏側を語る、というよりも、事件や社会そのものを語るブツなのです。

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(今はほとんど見ない“ガラケー”)

例えば、2000年ごろに犯行が明らかになり始めた、「振り込め詐欺(オレオレ詐欺)」。この事件を伝えるニュースを、TBS報道局のアーカイブ(過去映像)で時代を追って確認していくと、2000年当初の、押収物の映像に映っているものは、犯行グループが使っていた固定電話や、今では見かけなくなったハローページ。その後、年月が経っていくと、犯行道具として携帯電話が押収物として登場、プリペイド式のものなどを経て、スマートフォンとなっていきます。当初は頻繁に陳列されていた、銀行通帳などは今ではあまり陳列されていません。警察当局や金融機関などが講じたさまざまな防止策を犯行グループが、日々進歩する新技術を悪用して、すり抜けようとしてきた事件の背景が、押収物の変遷を見るだけで分かるのです。まさに、「押収物は社会を映す鑑(かがみ)」と言えるかもしれません。

振り込め詐欺

そんな押収物を切り口に、「さまざまな事件や社会の裏側に迫る番組を作ろう」と思ったのが、今年2月ころ。新型コロナウイルスの感染拡大により、取材などが難航する中、ようやく制作できた番組が、「こちら!押収ブツ係」です。

ちなみに、私は、警視庁担当記者だったときに窃盗事件に使われたとして陳列されていた“押収物のマスク”を被ってレポート(当然、警察の許可を得てます)。スタジオのアナウンサーが笑ってしまい、ニュースを読めなくなり、一部の上司から怒られたこともありました。私の「押収ブツ」へのこだわりはすでにこのときから始まっていた、と言えるかもしれません。

マスクかぶってリポート

(窃盗事件の“押収ブツ”であるマスクをかぶってリポート)

◆「押収ブツ係」の設定は元「事件記者」ならではの少しだけリアリティ

「こちら!押収ブツ係」の出演者は、ハライチの岩井勇気さんと澤部佑さん、SexyZoneの菊池風磨さん、“めるる”こと生見愛瑠さん、そして、「Nスタ」の井上貴博キャスターです。

みなさんには、どこかの警察署のすみっこにある、ひたすら押収ブツについて考察するちょっと変わった「押収ブツ係」のメンバーとして出演していただいたのですが、実は、それぞれの肩書などは、元「事件記者」の知識を生かして、少しリアリティさを持たせてあります。

押収ブツスタジオ風景

(どこかの警察署のようなセット)

警察の階級は低い方から順に・・・

巡査→(巡査長)→巡査部長→警部補→警部→警視・・・

などとなっていきます。それを「押収ブツ係」で設定した役割などからリアルにあてはめてみると・・・(県警の規模により異なる場合もあります)

まず、「押収ブツ係」の「係長」になって頂いた、ハライチの澤部さんの階級は「警部」。リアルな設定ですと、警察署の「係長」は「警部補」である場合が多いのですが、澤部さんは、醸し出す雰囲気が「警部」っぽいなと思い、「警部」に。個性豊かな「押収ブツ係」のメンバーを、見事な「警部」っぷりで、まとめあげていました。

続いて、係の「主任」となった岩井さんは「警部補」。「主任」は実際に捜査などの中で、係の中心的な存在となる役職です。岩井さんは、鑑識の制服に身をつつみ、持ち前の鋭い分析力と、その舌鋒でトークを盛り上げてくれました。

そして、もう1人の「警部補」は井上貴博キャスター。「押収ブツ」の解説をするなど、博識ないわゆる「キャリア」警察官の設定です。「踊る大捜査線」の室井管理官をイメージして、スーツもスリーピースにしてもらいました。

井上さん抜き

さらに、菊池さんは、仕事がデキそうな若手刑事ということで、若いながらも「巡査部長」。スーツ姿もとても素敵で、キレッキレのトークが際立っていました。

最後に、めるるさんは係の新人ということで「巡査」。新人女性警察官のような初々しい制服姿での「押収ブツ」への珍解答がスタジオの大爆笑を誘っていました。

ちなみに、収録中には岩井さんが、澤部さんの失態を「署長」にチクろうと電話するシーンも。次回以降の「こちら!押収ブツ係」に「署長」が登場することはあるのでしょうか…。

◆TBS報道局のアーカイブに眠る、大量の「押収ブツ」とハードな「秘蔵映像」

そんな「押収ブツ」にスポットをあて、事件や社会の裏側に迫った「こちら!押収ブツ係」

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(橋名板がズラリ)

まず、制作の初期段階で、「これまでにどんな「押収ブツ」があったのか」と、TBS報道局のアーカイブのリサーチを開始しました。すると、1年間で数百点は優にあり、「こんなにあるのか・・・」と絶句するほどの、大量の「押収ブツ」の数々。日々のニュースの中で膨大な量の「押収ブツ」が登場していることを再確認しました。

そして、「押収ブツ」の映像を引き続きリサーチしていると目についたのは、先輩記者・ディレクターたちによる、過去のギリギリ取材による、「なんじゃこりゃー!」というような、ハードな「秘蔵映像」。こうした映像も、かなりの量が眠っていることにも気がつきました。

そこで考えたのが、この大量の「押収ブツ」とハードな「秘蔵映像」の2つを使って、少年犯罪や薬物犯罪などが相次いだ、「渋谷」の歴史を紐解くことができないか、ということです。

凶暴なチーマーに果敢に取材したり、クラブなどで少女が巻き込まれた犯罪を積極的に取材したりした、記者たちの「秘蔵映像」。そして、その犯罪そのものを示す「押収ブツ」たち。不正薬物の“押収の瞬間”などの決定的瞬間も次々と登場します。大量の「押収ブツ」とハードな「秘蔵映像」で描いた、渋谷の激動史は、番組の見どころの1つですので、ぜひご覧ください。

また、番組では、ほかにも、2017年に起きた、「高校野球ボール大量盗難事件」の裏側を徹底取材。事件は、20以上の高校から、野球のボールなどの用具、約10000点が次々と盗まれ、犯行グループが逮捕されたものですが、その後、警察が見事に並べた、“押収ブツのピラミッド”が大きな反響を呼びました。今回、番組では、この事件を捜査した警察官たちのインタビューに成功。知られざるドラマが明らかになりました。

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(このピラミッドの裏話は番組で公開)

さらに、新型コロナウイルスによって、海外との、人の往来が制限されていても、国際郵便によって、違法薬物や偽ブランド品などを密輸しようという動きは続いています。番組のカメラは、こうした動きを取り締まる、“押収ブツの宝庫”とも言える税関にも潜入、密輸の実態に迫っています。

と、いろいろ書いてきてしまいましたが、TBS報道局のアーカイブと、元「事件記者」として培った知識や取材力と、「押収ブツ」への思い。これらを、バラエティ番組の演出で、肩肘張らずに見れることを目指した番組が、
「こちら!押収ブツ係」です。「押収ブツ」が語る、事件や社会の真相とは・・・。是非ご覧ください。

◆番組紹介

「こちら!押収ブツ係」
8月30日(日)午後2時から放送(※一部地域を除く)
MC:ハライチ
ゲスト:菊池風磨(Sexy Zone) 生見愛瑠
進行・解説:井上貴博(TBSアナウンサー)

【番組URL】


【番組twitter】


Nスタ山崎さん

山崎直史 プロデューサー

2004年入社。社会部で警視庁捜査一課、東京地検特捜部、埼玉県警などを担当。「Nスタ」デスクや「あさチャン!」総合演出などを経て、現在は「Nスタ」編集長。選挙特番のプロデューサーも務める。