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「打倒、トランプ大統領」のカギに?〜民主党副大統領候補選び大詰め〜

 アメリカ大統領選挙まで3か月を切りました。今月下旬には、民主党、共和党がそれぞれ党大会を開催し、民主党はバイデン前副大統領、共和党はトランプ大統領を、正式に「大統領候補」として指名します。

その党大会では「副大統領候補」も指名されるのですが、民主党バイデン氏を支える副大統領候補選びが大詰めを迎えています。各種世論調査ではバイデン氏がトランプ氏をリードする展開が続き、「バイデン大統領」の誕生も十分にあり得る状況だけに、最終的に誰を副大統領候補に選ぶのか、大きく注目されています。

バイデン1

▼バイデン氏は「女性」の起用を明言

バイデン氏は、民主党の候補者争いの真っ只中だった3月15日、テレビ討論会の中で「私が大統領に選ばれた場合、女性を副大統領に任命する」と語りました。早々に女性の登用を明言することにより、党内の支持を広げる狙いがあったものとみられます。
実際に女性を副大統領候補に選べば、2008年に共和党のマケイン候補が選んだ当時のアラスカ州知事サラ・ペイリン氏以来となる、2人目の女性候補となります。そして、バイデン氏が大統領選挙に勝利すれば「米国史上初の女性副大統領」が誕生します。
米メディアでは民主党内での「最終候補」に残っている人物として、十数人の名前が取りざたされていますが、バイデン氏自身はこれまでに「最終候補」のうち4人が、黒人女性だと明らかにしています。米国ではジョージ・フロイドさんの死亡事件以来、人種差別問題が大きな社会的関心として話題に上り続けているなか、副大統領候補選びの最終盤で、3人の黒人女性が有力視されています。

カレン・バス下院議員

カレン・バス

最終盤で急浮上
カレン・バス下院議員(66歳)

カリフォルニア州出身。サンディエゴ州立大学を卒業後、南カリフォルニア大学で医師助手プログラムを卒業し、ソーシャルワークの修士号を取得。1980年代に医師助手として勤務していた頃、薬物中毒を医療問題として対応する考えを主張し、地域の社会・経済的改革を求める団体を設立
2004年にカリフォルニア州議会下院議員に初当選し、4年後には下院議長に就任。2010年、連邦議会下院議員に当選し、2018年には黒人議員が所属する「ブラック・コーカス」の議長に。今年は、ジョージ・フロイドさんの死亡事件を受け警察改革の法案を提案し、下院での通過を主導しました。こうした実績を連邦議会下院で民主党トップであるペロシ議長が評価し、バス氏を支持しているといった報道が出るなどして、一気に有力候補として浮上したのです。
一方、副大統領候補として名前が挙がり始めた最近、キューバに対する過去の姿勢が批判の対象となっています。1970年代にはキューバ革命を支持する団体に所属し、キューバを複数回訪れたほか、2016年にフィデル・カストロ氏が死去した際に出した声明が「独裁者を称賛している」などと批判され、先日撤回しました。
本人は最近のインタビューで「私は過去の40年から50年間、民族間の橋渡しを続けてきた。いつでも誰とでも協力していきたい」と強調。トランプ政権の3年半を経た今、米国には「分断ではなく癒やし」が必要だとしたうえで、「バイデン氏はトランプ氏の反対で、癒やしを与える人物だ。私たちの国がいま必要としている人だ」と訴えています。

カマラ・ハリス上院議員

カマラ・ハリス2

大統領選にも名乗りを上げ知名度・人気も◎
カマラ・ハリス上院議員(55歳)

ジャマイカ人の父とタミル系インド人の母という移民の両親のもと、カリフォルニア州に生まれる。ワシントンDCにあり歴史的に黒人学生が多い名門・ハワード大学で政治学と経済学を専攻した後、カリフォルニア大学ヘイスティングス法科大学院で法務博士号を取得。サンフランシスコで地方検事を務め、金融犯罪の捜査や、地方検事のヘイトクライム・ユニットの設立、麻薬密売の犯罪者に高校卒業と就職の機会を与えるプログラムの開始、などの実績を残しています。
2010年にはカリフォルニア州の司法長官選挙に立候補し、「女性オバマ」とも呼ばれて知名度が広がり当選。2016年には連邦議会上院議員選挙で当選し、トランプ政権から移民を守ると誓約したことでメディアへの露出も増え、注目度の高い民主党議員となりました。
2019年には、大統領を目指して民主党候補者レースに名乗りを上げ、6月のテレビ討論会では人種問題をめぐってバイデン氏を厳しく追及し、支持率は一時2位に浮上。しかし、選挙戦が進むにつれて伸び悩み、12月に資金不足を理由に撤退を表明しました。
今年7月下旬には、バイデン氏が記者会見の際に持っていた手書きのメモにハリス氏の名前があったことから「意中の人物はハリス氏ではないか」といった観測が流れました。ただ、バイデン氏の周辺からは、ハリス氏が人種問題でバイデン氏を追及した経緯から忠誠を誓えるのか疑問視する声や、ハリス氏はあまりに野心的でいずれ自分が大統領になるための活動に専念するのではないかといった反対論が出ているという報道もあります。

スーザン・ライス 元国家安全保障担当 大統領補佐官

スーザン・ライス

オバマ政権でバイデン氏と仕事
スーザン・ライス元大統領補佐官(55歳)

アメリカの中央銀行FRB=連邦準備制度理事会の理事を務めた経済学者の父と、教育政策学者の母のもとで、ワシントンDCで生まれ育つ。西海岸屈指の名門・スタンフォード大学卒業後、全米の俊才が集うローズ奨学制度で英国オックスフォード大学の大学院に留学し、国際関係で博士号を取得しました。
1993年にクリントン政権に加わり、NSC(国家安全保障会議)で国際機関やアフリカなどを担当。1997年、古くからの知り合いであるオルブライト国務長官の推薦を受け、国務次官補(アフリカ担当)に就任。オバマ政権では2009年に黒人女性初の国連大使となり、国連安保理でイラン・北朝鮮に対する厳しい制裁をリードしました。
2012年にはクリントン国務長官の後任としての起用が検討されましたが、北アフリカのリビアでアメリカの領事館が襲撃された事件の調査をめぐり、共和党から「誤った情報を発言していた」と批判され、辞退。今回、副大統領候補に選ばれれば、再びこの問題で追及を受けると予想されています。
2013年から2017年まで、閣僚級の重要ポストである国家安全保障担当の大統領補佐官としてオバマ政権を支えました。オバマ氏、そしてバイデン氏と長期にわたって共に仕事をした仲だけに、有力視する声が多いのもうなずけます。

▼米国史上初の「女性大統領」にもつながる道に?

今回の民主党の副大統領候補選びが大きく注目されている理由の一つは、「77歳のバイデン氏が大統領選挙で当選した場合、4年後の再選は目指さず、1期のみで政権を譲るのではないか」「その時、民主党の大統領候補として最も有力になるのが、今回選ばれる副大統領候補になるのではないか」と見られているからです。
バイデン氏は、女性を選ぶと明言しているわけですが、今回選ばれるということは、その候補が「米国史上初の女性副大統領」になる可能性があることに加え、2024年の大統領選挙で、史上初の女性大統領誕生への道にもつながる可能性があります。

名前が取りざたされているのは、上記の3人だけではありません。ただ、いずれにしても、バイデン氏が副大統領候補を発表する時に、どのような理由でその人を選んだのか、明確なメッセージを出し、共感を呼ぶことが出来るかどうかが、選挙戦に弾みをつけられるかどうかの重要なポイントとなります。バイデン氏は、はたしてどんな狙いで、誰を選ぶのでしょうか?

■ほかに副大統領候補として取りざたされた人

エリザベス・ウォーレン

エリザベス・ウォーレン上院議員
(東部マサチューセッツ州選出・白人・71歳)

民主党の大統領候補選びに出馬し、一時支持率首位を争う。大企業解体や富裕層への課税 強化などのリベラル政策を掲げる元ハーバード大教授として知名度は抜群


タミー・ダックワース

タミー・ダックワース上院議員
(中西部イリノイ州選出・アジア系・52歳)

従軍中のイラクで、操縦していたヘリが撃墜され両脚を失い、車いすで議員活動中。2018年には現職上院議員として初めて出産し、生後10日の娘を抱いて上院で投票したことでも話題を呼んだ。タイ生まれのアジア系アメリカ人


バル・デミングス

バル・デミングス下院議員
(南部フロリダ州選出・黒人・63歳)

警察官出身でオーランド市の警察署長などを経て連邦議会へ。ウクライナ疑惑を巡るトランプ大統領の弾劾裁判で、検察官役となる民主党の6人の「弾劾管理人」の1人となり耳目を集める。


ボトムズ市長

キーシャ・ボトムズ市長
(南部ジョージア州アトランタ市・黒人・50歳)

黒人男性ジョージ・フロイドさんの死亡事件で南部屈指の大都市アトランタで抗議活動が拡大するなか、暴徒化したデモ参加者に帰宅を呼び掛けたスピーチで注目される。


グレイチェン・ホイットマー

グレッチェン・ホイットマー 知事
(中西部ミシガン州・白人・48歳)

2016年の大統領選挙でトランプ氏が僅差で制した中西部の票田・ミシガン州の知事。新型コロナ拡大のなか経済再開を急ぐトランプ大統領に強く反発し、全米での認知度が上昇。


タミー・ボールドウィン

タミー・ボールドウィン上院議員
(中西部ウィスコンシン州選出・白人・58歳)

2016年の大統領選挙でトランプ氏が僅差で制した中西部・ウィスコンシン州選出。地方議会からの「たたき上げ」で、同性愛を公表して連邦議会の下院および上院議員に選出された初めての人物でもある。


ミシェル・グリシャム

ミシェル・ルーハン・グリシャム 知事
(南西部ニューメキシコ州・ヒスパニック・60歳)

ニューメキシコ州で多くの政治家を輩出するヒスパニックのルーハン家の一員。連邦下院員を経て2019年から現職。下院議員時代には「ヒスパニック・コーカス」の議長も務めた。これまでヒスパニックの副大統領はいない


ステイシー・エイブラムス

ステイシー・エイブラムス 元州下院議員
(南部ジョージア州・黒人・46歳)

伝統的な保守地盤であるジョージア州において、2018年の知事選で共和党候補に肉薄し注目される。2019年、トランプ大統領の一般教書演説への反対演説に起用されて全米での知名度がさらに上昇。


マギー・ハッサン

マギー・ハッサン上院議員
(東部ニューハンプシャー州選出・白人・62歳)

州議会議員、知事を経て2017年から現職。


ジーナ・ライモンド

ジーナ・ライモンド知事
(東部 ロードアイランド州・白人・49歳)

2015年から現職。民主党知事協会の会長なども歴任。



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ワシントン支局長   岩田 夏弥 

小渕政権以来、主に政治取材を担当。「ニュースの森」「イブニング・ファイブ」など夕方の報道番組のディレクター、選挙特番当確判定デスク、政治部官邸キャップ、デスクなどを歴任。2018年5月から現職。