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中国で今「ゴミの分別」は進んでいるのか?

中国版Twitter “微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード “热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

今年7月から、上海では「史上最も厳しい」と言われるゴミの分別が突然始まりました。

■「ブタ」を基準にゴミの分別?

今回、上海市に導入されたのは4種類の分別で、湿垃圾(生ゴミ)干垃圾(乾燥ゴミ)可回収物(資源ゴミ)有害垃圾(有害ゴミ)と分けられました。かつて日本に比べてかなり緩かったゴミの分別が急に厳格になったため、市民たちはブタに例えて新政策を理解しようとしています。

ブタが食べられるのが湿垃圾(生ゴミ)、ブタが食べないのは干垃圾(乾燥ゴミ)、ブタが食べると死んでしまうのは有害垃圾(有害ゴミ)、売ればブタが買えるのが可回収物(資源ゴミ)。さすがブタ好きの中国らしい例えです。

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また、誰にでも分かり易くするために名付けた「湿垃圾」と「干垃圾」という分類名が、逆に混乱を招いている例も出てきています。例えば「湿ったおむつは干垃圾(乾燥ゴミ)」「乾いたフルーツの皮は湿垃圾(生ごみ)」といった感じです。


■「アメイジング日本」

ゴミの分別では中国の先輩になる日本。中国人が日本に旅行すると必ず言うのが、「日本の街は本当に綺麗、ゴミひとつ落ちていない。」と言うセリフ。今、中国全土で新たなゴミ分別が始まる中、中国メディアでは日本のゴミ分別政策を紹介したり、日本人専門家のインタビューを流したりしています。

一方で、中国人が日本旅行中に抱くのが「日本の街にはなぜゴミ箱が無いの?」と言う素朴な疑問。私も出張で日本に帰ると、ゴミ箱がなくて本当に困ります。中国では数十メートル間隔でゴミ箱が置いてあるのが当たり前だからです。ゴミ箱が無いのにゴミが落ちていない日本、それは中国人にとってカルチャーショックな光景なのです。

◼️世界に「NO」を突きつけた中国

1980年代以来、中国は再利用を目的に廃棄物を輸入してきました。埋立地が不足している日本も、近くて大きな中国に頼って「ゴミ輸出」として処理していたのです。しかし中国政府は、2019年末までに16種類のゴミの受け入れを禁止すると発表しました。

このまま輸入を続けると、2040年にはアメリカの3倍ものゴミを溜め込んでしまうとの研究もあるとのこと。その背景には、フードデリバリーやネットショッピングの普及により、それらの商品を包むプラスチックの排出量が急増している事実があります。うちの妻もよくネットで買い物をしますが、その度に大量の包装用プラスチックゴミが出るので、処理に困っています。

■ 大量ゴミ発生の悲惨な現場

処理しきれないプラゴミが増加し、中国はいま海洋ゴミ排出ワースト1位。

中国では、食べきれない量の食事で相手をもてなし、骨付きの肉や魚は最高のご馳走です。夏は器用にザリガニの殻を剥いて食べるなど、生ごみが簡単に発生しています。さらに基本的にマンションに住むため、コンポスト等での処理に慣れていません。2013年には、雨により地下に流れ込んだ浸透液で水の汚染が深刻になり、養殖魚が死んでしまったという報告がされるほどでした。

なんと現在の処理されていないゴミは、2/3の大都市の周りを囲うまでに増えているのです。

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(都市を囲むゴミ  中国新聞網より)

■ 新たな金儲けのチャンス

しかし、さすがは新しいものを取り入れるのが得意な中国。この数か月で新たなビジネスやサービスが登場しました。なんと分別開始から3週間後には、8,346件ものゴミに関する企業が創立されたのです。

フードデリバリーアプリは、出前だけでなくゴミ捨て代行サービスも始め、一つのアプリで食事や買い物、ゴミ出しが完了できるように。

ゴミの分別代行も急速に増え、月契約で低価格というサービスにユーザーからの電話が鳴りやまないとのこと。扱うゴミは小さなものから粗大ゴミといった、受け取るだけでも体力を使う内容ですが、作業員は収入が月に一万元(約15万円)を超え、前職よりも大幅にアップしたそうです。

ゴミ捨ての代行は以前からあり、ユーザーの80%は高齢者でした。新たなゴミの分別代行はユーザーの70%以上が若者。ネット予約という若者の生活に馴染みのある方法で多くのリピーター獲得に成功したのです。

そしてこれらのビジネスには多くの投資家が参与し、「この投資はとてもゆっくりだけど、とても大きなことをしている。価値は十分にある。」と。

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(ゴミ捨て代行:1・2階は30元/月、約450円)

9月には“2019ゴミ分別&AIサミットフォーラム”が上海で開催され、ゴミを自動で分別してくれるゴミ箱の発表がありました。

分別だけでなく、完全密封でゴミから発生される臭いや有害物から人への影響を無くす機能も備わり、赤外線センサーで処理状態を確認することができるというもの。手間・環境問題を解決してくれるスーパーBOX。中国人の分別への“慣れ”を越えて“解決”へと向かっています。

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(上海热线より)

AIロボットによるゴミ分別は世界でも開発が進んでいます。ロケット開発のようにAIゴミ箱の競争が始まりそうですね。

◼️大人になっても怖くない!分別が学べるおもちゃ

中国では生活のほとんどをネットショッピングで済ませられるのですが、買い物アプリにゴミ分別機能が加わりました。目の前にあるモノの写真を撮り、買い物時と同じく検索をすると、どの種類に当たるかを自動で分別してくれるのです。

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(写真を撮るとどの分別か教えてくれる新機能)

そしてそのアプリ上にはさっそく、子どものためのゴミ分別学習おもちゃが販売されています。“小さいうちに学べば大人になっても分別は怖くない”とのキャッチコピーで・・・分別ゲームも豊富で、教育機関からも競ってゲームが登場しています。

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◼️“分”就是“减”―分けることは減らすこと

これらの取り組みにより、資源ごみは2018年末の5倍回収されたそうです。
分別によってリサイクル率は確実に増えているのです。

一人当たりが出すゴミは一日平均約1.1キロ。分別によって今後2/3まで減らせるとの統計が出ています。

また、間違った分別に対する罰金が注目されていますが、国としては罰金を目的としているのではなく、“不分类,不收运”(分別によって得られる福利がある)の考えなのです。

■急ぐのは時間がないから

他の地域でも分別導入の準備が行われていて、導入へ反対する人は少数だといいます。環境のために既に時間がないことは承知で、「分別には大いに賛成。でも、いきなり導入へは反対」とのこと。やはり突然始まった分別で混乱する上海を見て慎重になっているようです。

アモイでは、臭いを出さないために市内の公共のゴミ箱を全て、一日二回洗うというボランティアの方もいます。地域のため、未来の中国人のためという思いでの行動は、全国へと広がっています。

一つの都市で始まった分別は、国を挙げてのテーマとなりつつあります。
人口14億人の中国で分別が進めば、大きな環境への変化が起こることは間違いないでしょう。

(記事作成 竹内亮 時沢清美)



竹内亮
ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー(株)ワノユメ代表

2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。

2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由(私がここに住む理由)」の放送を開始し、3年で総再生回数、5億回を突破。また中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で2017、2018年二年連続で「影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。

日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。