見出し画像

「不妊治療」助成拡大の方向性も残る課題

政府が目標とする「希望出生率1.8」の実現に向けた今後5年間の指針となる「少子化大綱」が5月29日に閣議決定されました。不妊治療への経済的な支援の方向性などが新たに盛り込まれましたが、「課題」も残されています。

画像1

不妊治療を行う人向けに「妊活ヨガ」のレッスンをする渡邉雅代さん

画像3

新型コロナウイルス対策のためいま、レッスンは、オンラインで行っています。受講者たちの話題にのぼっていたのは・・・。

画像5

渡邉雅代さん:
(体外受精などが)保険適用になるのではという話がいま出ている。

画像6

S子さん(42):
金銭的な負担が減ると(不妊治療を)継続するモチベーションになるのかなと思う。

画像5

みほこさん(41):
(治療費が)何百万という単位で出ていくので、子どもができた後のことも考えると厳しい。

不妊治療 ゆりなさん加工済み

友莉奈さん(47):
不妊治療にお金がかかってしまって諦めないといけない人もいる。保険適用の時期を早めて欲しい。

精神面だけでなく経済的な負担も重くのしかかる不妊治療。政府は5月29日、5年に1度見直される「少子化大綱」を閣議決定しました。その中では、政府が目標とする「希望出生率1. 8」の実現に向けて不妊治療に対する保険適用の拡大に向けた“方向性”が示されました。

いわゆる「妊活」の支援団体によると不妊治療を受けた結果、生まれてくる子どもの数は増加傾向にあるといいます。保険適用が拡大されれば不妊治療の経済的負担は緩和されることになりますが・・・。

画像6

画像7

こう話すのは子宮外妊娠で右の卵管を切除した酒井さん(29)

現在、3度目となる体外受精を行っていますが不妊治療を続けることの難しさを明かします。

画像8

酒井さん:
通院のスケジュールは生理を起点として決まるが、この日行ったら(病院から)2日後に来てと言われても・・・。同僚にも負担をかけると思うと気軽には休めない。

酒井さんは治療と仕事の両立に悩んでいるのです。

さらに、岡辺美子さん(38歳・仮名)の場合は。

不妊治療あべさん加工済み

岡辺美子さん(仮名):
うちの夫にも不妊の原因があった。結婚してから早く不妊の壁にぶつかって夫婦仲もギクシャクしてしまった。

岡辺さんは現在も治療を続けていて、「不妊は身近な問題で、特別なことではない」と話します。

岡辺美子さん(仮名):
待機児童の問題などは注目されるが、そこにたどり着く前に、子どもを得ることでつまずくというか、そういう人がたくさんいることを、もっと知って欲しい。

また、「妊活」の支援団体は、保険適用の拡大を歓迎しながらも課題は山積していると指摘します。

画像9

画像10

不妊治療には、国が定める明確な基準がなく治療の「質」の確保ができなければ、妊娠・出産には繋がらないと訴えます。

松本亜樹子理事長:
人間が1人この世に生まれるか生まれないかの大事な治療なので、そこは慎重に丁寧にやってもらいたい。

また最近は、新型コロナウイルスの影響で不妊治療を行う医療機関の中に診療を中断するところもあり、治療を続けたくても続けられないケースも出てきているということです。

「待ったなし」と言われ続ける少子化対策。不妊治療の重要性は増していきますが、経済的な負担軽減だけでなく治療水準の向上や治療を受けるための
環境整備
も急がれています。



「希望出生率1.8」とは?
「希望出生率1.8」とは、若い世代における、結婚、子供の数に関する希望がかなうとした場合に想定される出生率。(内閣府より)



長谷川記者顔

政治部 長谷川 亮 記者

【編集後記】

不妊治療はどうしても“女性にまつわる話”と思われがちです。そうした中で、なぜ男性の私が「不妊治療」について取材をしようと思ったのか。そのきっかけは、私の母親でした。母は私を出産した後、2人目を希望したもののなかなか自然妊娠には至らず、37歳のときに初めて体外受精を行ったそうです。今回の取材をきっかけに、改めて母親に当時の様子を聞いてみました。話を聞いている中で、母が体外受精を行った20数年前と比べ、不妊治療に対する理解はあまり進んでいないのではないかと感じました。“晩婚化”の影響で不妊治療を受ける人が増えていて(※)、“何か特別なこと”ではなくなりつつあるのに、いざ自分のこととなると他人には言いづらい、相談しづらいとどこか後ろめたさを感じてしまう人が多い現実。

※日本産科婦人科学会のデータ(2015年)などによると出生数全体のうち約20人に1人が体外受精などによって誕生
※国立社会保障・人口問題研究所の調査(2015年)によると5・5組に1組が不妊の検査や治療を受けた経験あり

精神的にも、経済的にも苦労してまで子どもを産むということが正解ではないという考え方もあるかもしれません。“養子縁組”や“里親制度”など多様な選択肢があって良いと思います。ただ、「子どもを産みたい」という自然な思いを抱く中で様々な“壁”にぶつかり、不妊治療という選択をすることでさらに苦しまないといけない状況は、とても理不尽だと感じます。今回、取材を受けてくれた酒井さんから送られてきたメールには、次のような文章が綴られていました。

「少子化対策を国が考えていく中で、既に生まれている子供、これから生まれてくる子供も、等しく支えていく社会になればいいなと思います」

私は現在、政治部の記者として自民党の政策全般の動向を担当しています。ふだんは永田町にある自民党の党本部の会合を取材したり、政治家本人に政策の意図や目的を直接聞いたりしています。こうした問題に政治は何ができるのか。「産みたいけど産めない」「こんな状況だったら産み控えるよね」と諦めてしまう人が一人でも減るような世の中が一日でも早く実現できるよう、今後の政府の取り組みに期待しています。

◆~追記~(6月4日現在)
5年に1度の少子化大綱の改訂にあたり内閣府が今回行ったパブリックコメントでは、寄せられた意見「3857件」のうち、45%(約1700件)が「不妊治療」に関するもので、その多くが保険適用の拡大や助成金の拡充など経済的な負担軽減を求める内容でした。

【関連する動画はこちら】