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読書記録【目の見えない白鳥さんとアートを見にいく(川内有緒著)】

こんにちは。
今回は「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」の読書録です。
本書は2022年Yahoo!ニュース本屋大賞のノンフィクション部門の大賞の本だということで、ミーハーかつノンフィクション好きの自分にピッタリだと思い、手に取りました。

本書は目の見えない美術鑑賞者の白鳥建二さんとの美術鑑賞を通じて、
筆者が考えたことや見えてきたものについて書かれています。
「目が見えないけど、美術を鑑賞する」
この不思議な感覚は一体どのようなものなのでしょうか?


①全盲の白鳥さんにとっての美術鑑賞

本書を読んでいない人にとって、
「目が見えないのに美術を鑑賞する」ってどういうこと?となると思います。

白鳥さんの鑑賞方法は、目の見える人と一緒に美術館に行き、見える人たちに何が書いてあるかを説明してもらう。
そして自分の中に概念としてのイメージを構築して、美術を鑑賞するようです。

しかし美術というのは複雑で何が書かれているかなんて、人によって解釈が異なることも多いです。僕も今年、岡本太郎展を見に行きましたが、奥さんとの解釈は合わないことの方が多かったと思います。

そんな食い違う解釈の説明を聞いて、全盲の方がアートを鑑賞できるのでしょうか?
しかし彼はこう答えます。
「わからないならわからないでいい。それが面白い。」と。
そう、彼が楽しんでいるのは、アート作品の鑑賞を通して意見をぶつけ合い、
解釈を進めていく過程
なのです。わかるかわからないか、ということは大事ではないのです。

②白鳥さんとの美術鑑賞で見えてくるものとは?

本書では白鳥さんとの刺激的な美術鑑賞の様子が豊かに記述されています。
白鳥さんと美術鑑賞をすると、より一層「見る」という行為に集中することになります。その結果、普段は見えていないものがより一層見えてくるのです。

「見えない」白鳥さんと見ることでより一層「見えてくる」。
それは美術の範疇にとどまりません。
歴史、差別、人間関係、記憶。
白鳥さんと関わることで筆者や周りの人々がさまざまなものをはっきりと「見て」いく過程が描かれています。

例えば、皆さんは街の中で目が見えない人がいたらどう思うでしょうか?
「大丈夫かな?」
「目的地までちゃんと辿り着けるかな?」
きっとそう思うのではないでしょうか?
しかし、白鳥さんは「助けて欲しいときは助けてほしい言うよ」
といいます。
僕らが今まで当たり前に信じてきた「困っている人を見たら助けよう」という何にも侵害されないような美徳。しかし、その人は本当に困っているのか。何も理解しないまま、「助けよう」とする発想には無意識の差別意識があるのではないか。

本書を読むことで周りの世界がきっとより一層はっきりと「見え」てくると思います。

③「わからないならわからないままでいい」

なぜ筆者や私のような読者は白鳥さんとの美術鑑賞を面白いと思うのでしょうか?
もちろん前述の通り、世界の解像度が上がると言うのはきっとあるでしょう。
しかしそれだけでは決してないと思います。

「わからないならわからないままでいい」

今の私たちは分かろうとし過ぎている風潮があるのかもしれません。
「なんであの人は言ったこともできないんだろう」
「普通わかるでしょ」
社会やインターネットで散々言われている言葉じゃないでしょうか?

人や出来事の背景を知り、理解しようとする。
しかしわからない。
ここで「なんでわからないんだ」となるのではなく、それを受け入れ、共に生きていく。
そんな姿勢もあってもいいんじゃないか。本書はそう感じさせてくれます。

昨今の全てが高速化した社会ではそのように立ち止まるのはきっと簡単じゃないと思います。
しかし、せっかく本書で出逢えた素敵な考え方の芽を自分の中で大切に育てていきたいな。私はそう思います。


最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
今年のノートの更新は今回で最後かなと思います。
来年もページをめくる喜びに巡り会えますように。

それでは皆様良いお年を。


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