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2022年9月の(音楽とかの)こと

2021年からオンラインで営業をスタートしていたレコードショップ『ciruelo records』が奈良に実店舗をオープン!!おめでとうございます!!末永く続きますように。

その開店セール品として9月中SNSにアップされていくレコードの数々をあなたは見たか!?

Steve Reich『Music For 18 Musicians』、Steve Hiett『渚にて』、Caetano VelosoのNonesuchからのS.T.、それからde LeeuwによるEric Satie集、あたりのオンライン時代からのショップイメージを代表するようなタイトルは意外なことにやや抑えめ。
その代わりに、開店を華々しく祝うような超定番タイトルの数々や、ショップそして店主さんのリスナーとしての幅広さに新鮮な驚きを覚えるようなラインナップに大興奮。大変楽しんだと同時に実店舗限定ということで、羨ましさに身悶えました。奈良近郊の方々のレコード棚はこの1ヶ月でさぞ充実したことでしょう。

具体的には前者で言えば、Steely Dan『Aja』、PrinceのS.T.、山下達郎『Spacy』、Cornelius『Point』といったところ。
後者ならばMogwai、Pavement、Teenage Fanclub、Stereolabといった私が全くと言っていい程通ってきていないラインもそうだし、何より大変に驚いたのが、Maher Shalal Hash Baz『From A Summer To Another Summer』の存在である。

商品紹介のコメントによると、店主さんは、Maher Shalal Hash Bazの工藤冬里にフェイバリット・アーティスト級の思い入れがあるらしい。ciruelo recordsの商品ラインアップを見たら、全くおかしな話ではないのだけれど、なんでだか異様に驚いたと同時に嬉しかった。思えばMaher Shalal Hash Bazって特別そういう気持ちにさせられる存在な気がするなー。

それにしてもマヘルのこの一枚は本当に欲しかったぞ…(cirueloさんならお値段もかなり優しめなような気がしている)


話を戻すと、前者と後者の両方を兼ね備えたところとしてEliott Smith『Either / Or』、Yo La Tengo『I Can Hear the Heart Beating As One』あたりをこのタイミングで入れてくるのもまた何ともツボを押さえられている感覚があります。ciruelo recordsでレコードを見ていて不意にEliott Smithのしかも『Either / Or』が出てきたらなんだかすごくうれしいもの。


そんな怒涛の開店セールを経て、再びオンラインにアップされるようになった新入荷作品もまさに勢いそのままというラインアップ。Everythig Play『POSH』もかなりのお手頃プライスできていましたね。World Standardとして知られる鈴木惣一朗が結成したユニットEverything Playによって88年に録音され、後の97年にようやくLP化された名作なのです。

私は去年手に入れていたので、行く末を見守っていましたが、一日後くらいに早々売れていましたね。どんな人の手に渡ったのだろう。
ちなみに私はこの機会に南正人『回帰線』を買いました。


ここまで例示した固有名詞だけではどうもそのセレクトの素晴らしさを語りきれている気がしないciruelo records。みなさんもまずはぜひオンラインから、覗いてみてくださいな。
私が奈良の店舗を伺うのはもう少し先になりそうだが、今月末に下北沢のBONUS TRUCKで開かれるレコードフェアには、今年春の開催に続いてcirueloさんも出店されるとのことで、今からとても楽しみにしております。



奈良には9月には脚を運ぶことはできなかったが、帰省の寄り道としてこちらも念願だった仙台の『喫茶ホルン』には脚を運ぶことができた。みなさまご存知の通り?喫茶ホルンは、yumboの澁谷浩次さんと、工藤夏海さん夫妻が営むお店。前々から伺いたいと思っていたところに、先月書いたyumboの映像作品集についての文章に澁谷さんからありがたいコメントを頂けたこともあってぜひご挨拶にという気持ちも加わっていた状況で、早速よきタイミングに恵まれたのでした。

少し緊張して入店し澁谷さんと顔を合わせ、チキンココナッツマサラとキャベツのクートゥの2種盛を頂く。

どちらもとてもやさしい味わいで日本米にも合わせやすくおいしかった。チキンココナッツマサラの方は大ぶりの玉ねぎがコロコロと入っていて、南インド料理ではあまりない不思議なテクスチャーのような気がしたのだけれど、オリジナルのアレンジなのだろうか。後述するように澁谷さんとは食後しっかりお話させてもらったのですが、薄っすらと色々聞いてみたいことを浮かべていたはずの南インド料理の話はそういえば全くしなかったなー。

食べ終わって、客足が落ち着いたタイミングで澁谷さんから嬉しいプレゼントを頂き、ひとしきり歓談する。主にレコードの話などをたくさんした。特に音楽としてもモノとしても自分にとって本当に特別なレコード『Lots of Birds』の製作にまつわる事柄をじっくりときけたのはうれしかった。

その他澁谷さんに対して私の音楽遍歴を話すシチュエーションは中々に緊張したけれども、澁谷さんから醸される不思議な雰囲気に落ち着けてもらったような気がしています。(澁谷さんの最近の胃腸炎のご様子がツラそうで心配だ。お大事にして頂きたい。)

澁谷さんと入れ替わって店番のシフトに入った工藤夏海さんからアンデルセンズが一昨年リリースしたドイツMorr Musicからのアンソロジー『There Is A Sound』を購入して退店。ずっと買おうかどうか迷っていた作品だったのですが、店内にずらりと並んだyumboや7e.p.関連の諸作の中から見つけたこれがあまりに破格だったので思わず手が伸びた。アンデルセンズ主宰のつびーさん直販プライスだったらしい。

それにしてもずらりと並んだyumboや7e.p.関連の諸作や古書もですが、随所に居心地のよさを感じる素敵なお店だったな。大きな窓から入る9月の仙台の太陽光と風の心地よさ、振り子時計とBen Watt『North Marine Drive』の響き。

これから先、特に帰省のタイミングでは時々寄らせてもらおうと思います。

ホルンを出て、仙台で行ってみたかったレコード店『STORE15NOV』にも寄る。

期待通りの素晴らしいセレクトを一通り眺めて、来店する前からここで買おうと目を付けていたONJOによるEric Dolphy『Out To Lunch』全曲カバー盤と、目についたJames Heatherというピアニストの作品を買う。

ONJOの『Out To Lunch』カバー盤、LP化されたこのタイミングで初めて聴きましたが、ものっすごくいいですね。買ってからすでに何回も聴いている。



その翌週には急に発表されて大変驚いたスペシャルなイベント『kikeru festival』に参加するために水戸に赴く。

テニスコーツが主催する音楽プラットホーム『みんなきける』については私が4月に書いた文章を見て頂きたいのですが 、このイベントがまさか水戸で開催されるなんて!!なんでもこの日イベントを主催したアンデルセンズのつびーさんが現在水戸在住なのだそう。

車がない場合のつくば - 水戸間の理不尽なほどのアクセスの悪さを久しぶりに実感しながら、水戸の手前の常磐線内原駅で降りて、30分近く歩いて会場に向かう。

普段はコミュニティスペース?のように使われている「ありが分校」という建物の中と、その隣のうどん屋のテラス席の2ステージ制で交互に演奏が行われる。

うどん屋のテラス席の方で飯田健二さんの弾き語り、ステージを移動してアンデルセンズの演奏をゆっくり見た後に、澁谷さんに中1週間で再会し、挨拶する。澁谷さんの出順を聞く。そう、この日は一切タイムテーブル的なものの公開がなかったのだ!隅っこのボードにA4のペラ一枚それらしきものが貼ってあるのは途中見つけたが、これはこれでありな気がしてあえて見に行かず、演奏中の出演者が終盤に「次はあっちで○○!!」と随時紹介してくれるのだけを頼りに楽しんだ。結果これが大正解で、不思議な開放感が終始心地よかった。

アンデルセンズからテニスコーツ、そして澁谷さんソロという怒涛のタイムテーブル。
初めて見たテニスコーツのライブがあまりに素晴らしくて衝撃を受ける。圧倒的なエナジー、貫禄。Bill Wellsのカバーに聴き入っていたら、客席にいた澁谷さんを急遽ステージに呼んで「しろいもの」のコラボレーション。澁谷さん作詞、テニスコーツ さやさん作曲の名曲をまさかこの日聴けるとは!これだけで来た価値があったと噛みしめながらラストの素晴らしいジャム演奏を見守る。

ラストは今年リリースされたアルバム『希望の光』のタイトルトラック「光光ランド」。待望していたあのリフを植野さんのギターで聴くだけで胸が高鳴りました。あまりに美しい。
『希望の光』今年のマイベストアルバムの一枚ですので、ぜひ多くの人に聴いてもらいたいところです。「みんなきける」からのストリーミング、もしくは最近出たばかりのLPでどうぞ。

観やすいところにゆっくり座り、素晴らしい流れで澁谷さんのソロステージ。「歌の終わり」で始まるのもとてもよかったし、個人的には何より「嘘の町」が聴けたのがよかった。今年年始に初めて澁谷さんのソロを見たときの「薬のように」、この日の「嘘の町」と、とても好きだけどライブであまり演らなそうだなーと薄っすら思って日々聴いていた曲が、ふいに演奏される事態が繰り返されていてうれしい。

「あれが今日のわたしだ 弱い手足の夜だ」というラインを特に強く気に入っている。主観と客観がない交ぜになる美しき感覚。
というようなことを澁谷さんに伝え忘れたな。
テニスコーツ植野さん、Peter Joseph Headが参加しての新曲「統一」も聴けて大変満足。次はyumboでのライブが観たいものです。

その後、齋藤有意さん、トリのPeter Joseph Headと順番にみる。
アンデルセンズにも参加していた齋藤有意さんは演奏のスタイルからして完全に気を抜いてボーッと聴いていたところ、急に京都のSSW 安藤明子さんの「あいのうた」のカバーを始めて驚いた。この曲の収録された『オレンジ色のスカート』というアルバム、ちょうど去年LP化されたところですが、本当に曲がよく素晴らしいのですよね。

終わってからひとしきり齋藤有意さんと安藤明子さんの繋がりを調べてみたりしたのですが特に何も見当たらず。ただ好きな曲だからカバーしているということなのかな。

ラストのPeter Joseph Headは客席とのコミュニケーションの取り方が巧みで、一体感が高まっていく会場をふいに見渡してみると、昼に比べてこの一日なんとなく見知った顔が相当に増えていることに気付き一人面白くなる。最初は澁谷さんとテニスコーツのさやさん、植野さんくらいしか認識している顔はなかったのが、さっきまでそこにいた人が気づけばステージに、という展開を繰り返して、主催のつびーさん始め、顔と名前が次々と一致していったのだった。別に会話したりしているわけではないのだけれどね。

終盤はテニスコーツの二人、澁谷さん、つびーさんが続々と加わり大団円。中でも思いがけず披露されたさやさんボーカルの澁谷さんソロ曲「Lots of Birds」は異彩を放っていて素晴らしかった。思えば、この日コラボレーションが起きる場には必ず澁谷さんとテニスコーツ植野さんの姿があったのが何とも印象的だ。

全体通して本当に素晴らしいイベントであったので、これからも「みんなきける」ゆかりの素晴らしい音楽家と共にぜひとも続けていって欲しいものです。次はテニスコーツ『希望の光』にも客演している京都のSSW 小川さくらさんがみたいなーと思って「みんなきける」を覗いたらなんと小川さくらさんの音源は配信されていなかった。仕方ないのでここは『希望の光』で一曲参加しているということで良しとしましょう。

というかこのSoundCloudの録音シリーズ初めて聴いたのだけど素晴らしすぎるな。

最後に主宰のつびーさんを始め、今回のイベントを中心となって支えた水戸周辺のみなさまへ、この場でなんですが感謝と労いを。アンデルセンズ・つびーさんを中心とした水戸周辺の動きはこれから注目していたいと思います。


もう一つライブの話。『the Odyssey』という素晴らしいアルバムをリリースしたばかりの牧野容也さんのアルバムツアー公演を晴れ豆まで観に行った。

とにかくどれもよすぎる曲を一つ一つ噛みしめるように見守った公演。

谷口雄、あだち麗三郎、カナミネケイタロウを招いたバンドセットもスペシャルであったが、中盤で「幻聴」、「薪」、「岸辺と帆船」と披露したギター弾き語りパートはもっとスペシャルで、そこから数週間は牧野さんのギターの幻影を追いかけながら、Caetano Velosoの諸作なんかを何回も聴くこととなった。やっぱり牧野さんにはいつかWorld Standardで弾いてほしいんだよなー (このパラグラフ、ひどく脈絡がないように見えるかもしれませんが、少なくとも自分の中ではむしろ整っている感覚なのだ。)

その他、私が一番好きな「家出」はまさかのギター4本のアンサンブル。谷口さんがエレキ、あだちさんがマンドリンぽいの、牧野さんエレアコ?でカナミネさんがアコギというそれぞれの細かい音色のズレが繊細な奥行きを生んでいた。牧野さんが曲紹介をしている途中からメンバーが弾き始めて、一瞬伴奏とリーディングみたいなニュアンスになっていたのもすごくよかった。

ときに、牧野容也の新作『the Odyssey』と七尾旅人の同じく新作『Long Voyage』はタイトルでほんの少し同じことを言っていると勝手に捉えて聴いているのだけれど、MCによるとOdysseyはなんと車種が由来 (響きがかっこいいから)だという!これは申し訳ないが聞かなかったことにして、これからも似ていないようで、どこか似ているような気がする『the Odyssey』と『Long Voyage』のコントラストを楽しむこととしよう。


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