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2022年4月の(音楽とかの)こと

今月は春のライブ・コンサート紀行ということで、よろしくどうぞ。

4/9 (土)

遅めの昼に錦糸町に出て、コシャリ専門 コシャリ屋コーピーでコシャリという料理を初めて食べる。

コシャリとは何ぞやというところはお店のHPに任せます。

エジプトの庶民に親しまれている国民食『コシャリ』
材料はお米・マカロニ・2種のスパゲッティにひよこ豆とレンズ豆、その上にトマトソースとフライドオニオンをトッピング。お好みでピリッとする辛味ソースとさっぱりした酸味ソースをトッピングして食べるソウルフードです。

https://kushari-kohpea.com/

米とパスタと豆を一気にかっ込んだその先には何か新しい世界が広がっているのでは!?と日々期待を膨らませ、日本唯一の専門店を訪れたわけですが、実食してみると材料全部を足し合わせたまんまの味がしました。もちろんおいしいはおいしいのですが。

ROTH BART BARONの『無限のHAKU』ツアーファイナル公演を観に国際フォーラムへ向かう。

2年前の目黒パーシモンホール公演に続いて、ホールで大編成を率いて行われる、バンドのマイルストーン的位置づけの公演とあってとても楽しみにしていたが、ロットのライブを観てきてこれまでにないレベルでピンと来ず少しショックを受ける。

具体的にどこというのはけっこう難しいのですが、アンサンブルの中でイマイチ個の見せ場が少ないように感じたのと、時折挿入される過去曲と比較すると、『無限のHAKU』曲の演奏には、どうにも肩に力が入っているような気がして、そこが私の好みからは少し離れるように思えたのです。

あと、これはもはやロットのパフォーマンスの問題でもないので書くのは少し憚られますが、過去曲と『無限のHAKU』曲の比較というところで、当然のように中心となって演奏される『無限のHAKU』曲を聴きながら、ATOMや氷河期、けもの等からの過去曲が早くプレイされないものかとずっと待ってしまった自分に戸惑う。けっこう気に入っていると思っていた『無限のHAKU』の楽曲たち、実は心のもう少し深いところではそこまで血肉となっていなかったのだと気づいた。

さらにもう一つ、時計の針を開演時まで戻して振り返ってみると、開演と同時に周りのお客さんがみんな立ち始めた時点で、この日は何か歯車が狂うようなそんな気配に襲われたものです。メディア露出も増えて客層も変わっているのかしら。私はロットのステージは座ってゆっくり静かに見たいぞ。

ネガティブなことを思わずけっこう書きましたが、バンドも私個人も平行して日々変化をしていることは当然であり、たまたま今がすれ違うタイミングだったというだけのこととそう捉えたい。この日も演奏された新曲「New Morning」は素晴らしい曲だ。またいつか、すぐにでも最新のROTH BART BARONが最高であると、迷いなく言い切れる日が来ると私は信じているのです。


4/14 (木)

木曜日。鈴木惣一朗主宰のWorld Standardの実に10年ぶりのライブ。万全を期すために有給をとる。昼に都内に出て、巣鴨のネパール料理店 プルジャダイニングでダルバート+グンドゥルック・コ・ジョル (乾燥させた発酵青菜のスープ)を頂く。

ダールがリッチかつ滋味深く至高。滑らかなポタージュ状に仕上げたベース、形を残した薄皮の具材用(煮加減が最高!)と2層の豆使いで、豆のポテンシャルをこれでもかと感じることができるのです。
他も丁寧な調理が光る料理ばかりでよかったのだが、この写真の中の3種類くらいはもっと塩味が抑えてあるとより好みだったな。インド亜大陸料理・スパイスカレーで名店とされるところ、他でも塩が強すぎることがままありますね。私なら混ぜる前提であんまり塩きめないものはきめないでバランス取りにいくけどな。

店を出てレコード店に脚を伸ばす。鈴木惣一朗に陶酔する身としては浮足立って仕方のない雨。雨の日はレコードを買いに行くのです。

 ぼくの個人的な意見では、レコードを買いに行くのは雨の日がいい。普通、レコード・コレクターは雨の日を嫌う。でも、ぼくはレコード・ジャンキーだけどコレクターじゃないからね。雨の日は心象的な気持ちになるんだ。だからこそ、良いレコードと出会えた日がどんな日だったか、買った時のことを思い出せるんだよ。
〔……〕
 そうして、その日が雨だったら雨の日の心象風景に合うものに出会うまでいくつも聴き続ける。でも、最初の10秒が勝負。10秒で音楽のすべては分かる。そういうレコードにその日、1枚出会えたら、それだけで精神的な余裕ができるものなんだよ。

鈴木惣一朗「ワールド・スタンダード・ロック」

教えに忠実に、内なる心象風景に耳を澄ませていった結果、シンセ奏者 K. Leimerの未発表音源集に出会うことができた。これが素晴らしいのです。World Standardとも共鳴するようなサウンドデザイン。(さらにJON HASSELLなんかとも。) このレコードを買った時のことはいつまでも覚えていることになりそうです。

これまでタイミングがことごとく合わなくてようやく訪ねることができたKankyo Recordsで手に入れました。期待通りの素晴らしいセレクトに加えて、最新プレスが数年前とかで他のレコード店では軒並み在庫なしとなっている作品が平然と店頭に並んでいて、在庫力という意味でもかなりおもしろく貴重なお店だった。

ライブまでまだ時間があったので、気に入っている古着屋にも脚を伸ばすと、この日はこれまで経験したことがないほどに自分のイメージと店頭に並んでいるアイテムが噛み合う日で、思わず数着買う。この春に今日以降で着れる日は来ないことを薄々感じながら、90-00sのフランス軍デッドストック品の薄いコートまで買ってしまった。

少し早めに会場のWWWに入場する。最前センターに座って、pianola records 國友さんのDJを聴きながら本を読んで待つ。少し後に来て私の隣に座った人もおもむろに文庫本を開いたときには、今日この空間が素晴らしいものになることを早くも確信したものだ。

メンバーがステージへ。私の正面には鈴木惣一朗その人。弾むリズムのアレンジが新鮮な「ルミア」からスタートして、アンコールまで、ほとんどが去年・そして今年に入ってからも特に夢中で聴いている近作『色彩音楽』と『EDEN』から演奏され、まさに感無量。

中でも「ひとしきりの哀しみ」の演奏には心が震えた。イントロのサックスからの松本従子さんによる入りのボーカルを目の前で聴く瞬間を数か月前まで想像できただろうか!?

アコースティックギター・ボーカルの鈴木惣一朗を囲んで、マンドリン(・バンジョー・ペダルスチール)、アコーディオン、チェロ、コントラバス、シンセサイザー、サックス(・フルート)という編成も抜群に素晴らしく、やわらかなアンサンブルが『色彩音楽』『EDEN』の楽曲をよく引き立てていた。(ドラムスがいないことはひとつ大きなポイントであろう。)

氏いわくまたすぐにライブをやりたいとのこと!!黄金期と言っても過言ではない近年の『色彩音楽』『EDEN』を中心とした氏の楽曲群が少しでも多くの人に生演奏という形でも届くことを私はただ祈るばかりなのです。

ひとりで会場に向かい、静かに楽しんで雨の中いそいそと帰路に就く、この日はそんな風に道中・帰路にまでWorld Standardの音世界が息づいているような感覚があって、忘れがたい一日となりました。

『ひとり』をよむことでひとりをとりもど☆せ

鈴木惣一朗『ひとり』


4/22 (金)

2週連続での有給を死守し、昼に高円寺まで出て久しぶりの友人と会う。待ち合わせた脚でサクッとエリックサウス 高円寺カレー&ビリヤニセンターに向かい昼食。マトンキーマビリヤニを食べる。

ビリヤニと言えば、ときにあなたの中で「ライタ」はどんな存在だろうか?ライタとはビリヤニや南インド料理でよくついてくるヨーグルトソースで生野菜を和えたあれの事です。知ってすぐの頃は、その存在意義が分からず持て余し気味だったものですが、今となっては特にビリヤニにはなくてはならない存在として、私の中で大いに再評価がなされたのでした。より日本人の食生活にはハードルが高いと思われるヨーグルトライスも今となってはありです。おいしいバスマティライスを炊いてプレーンのヨーグルトをしっかり混ぜて、さらにエッジ―な塩と酸味が効いた何らかのウルガ(南インドのオイル漬け)をこれまたしっかりと混ぜ込んで食べよう。その向こう側にはそれはもう痛快な味覚世界が広がっています。お試しあれ。

その後、高円寺の黒猫、ロスアプソンとレコード店を周わる。レーベルとしても、日本のインディーミュージックを扱うレコード店としても、個人的に今最注目している黒猫 (円盤)の存在。前から実店舗を見てみたいと思っていたのが、ようやく叶ってよかった。日々リリース情報をチェックしているおかげで、フリーボ『すきまから」のリイシューはもちろん(店内入って正面に大々的に展開されているのを実際見るとやはり興奮した)、畑下マユ『ちるちるみちる』、Izumi Hirakawa『mother water』等々愛聴している作品が随所に揃っていて、目に入る度に楽しい。最近になって触り出した「Minna Kikeru」というストリーミングサービスで名前を見る作品も数多くストックされていて、やはりこの辺が今興味あるなというのを再認識することとなりました。テニスコーツによる自主レーベルmajikick主宰のストリーミングサービス「 Minna Kikeru」本当に素晴らしいサービスですよ。知れば知るほどこの人たちが日本のインディー界最重要人物だという認識が強まるテニスコーツ。

Minna Kikeru は、majikick recordsと篠原敏蔵、モト、植野、仲間の協力により、2020年にスタートしました。
以前より計画は進めていましたが、奇遇にもこういった時期に巡り合わせました。
現状、手に入りにくい日本や関連したインディミュージシャンの音楽にそれぞれアクセスし、楽しむことが出来、また、マージンをできるだけ少なくし、様々なアーティストやインディレーベルの自立を助けることを指針としています。
楽しんで、良いインスピレーションを得られますよう願っております。

https://minnakikeru.com/

Minna Kikeruだけで配信されていたテニスコーツのニューアルバム『希望の光』は本当に素晴らしくて4月中ずっと聴いていた。

リード曲「光光ランド」の陽だまりそのもののような温かさ。心が弛む。京都のSSW 小川さくらをフィーチャーしたトラックなんかも素晴らしいのですが、先週なんの前触れもなくMinna Kikeruのラインナップから姿を消してしまい、現状聴く術がなくなってしまったのだ。問い合わせたところテニスコーツのさやさんに確認中であるとのこと。再配信が叶った暁には、このnoteやらで騒ぎ立てて少しでも多くの人に聴いてもらいたいものです。(そもそも私自身がまた早く聴きたくて仕方ないぞ。)

高円寺から飯田橋に移動し、BAR MEIJUへ。BAR MEIJUと言えば、敬愛するディスクガイド「Quiet Corner 2」でその存在を知り、一年間くらい訪れる機会を今か今かと伺っていたのです。

まだ日の高く暑いうちに入店して、ジンソーダを啜りながら聴くFabiano Do Nascimento『Ykytu』でチルアウト。(自分も友人も持っている一枚で開幕!!)

自宅で聴いているときもお気に入りだったんですが、MEIJUで聴くことで作品の持つまた新たな魅力に気づいた気がします。これは去年から言っているが、やはり家から徒歩10分とか15分くらいのところに自分のレコードを自由に聴ける空間が欲しくて仕方ない。

さらにCharlie Haden × Jan Garbarek × Egberto Gismontiの『Folk Songs』を経てからAlela Diane & Ryan Francesconi、Haley Heynderickx、Aldous HardingとクワイエットなSSWが続く素晴らしい選盤に耳を傾けつつ、その音楽について、はたまた近況なんかについてゆっくりと話していたらあっという間に3時間近く経っていたのでした。

優河のツアーファイナル公演を観に表参道へ移動。フロアに入るといきなり聞き覚えのあるフレーズが流れていて、Fleet Foxes『Crack-Up』収録の「On Another Ocean (January / June)」でサンプリングされているところまでは分かったのだが、元ネタが全く思い出せずシャザムする。

エチオピークスのvol.4に収録されているこれでした。

『Folk Roots, New Routes』という素晴らしいディスクガイドの中で、『Crack-Up』制作期間中のロビン・ペックノールドのお気に入りとしてこの作品がピックアップされていたことを瞬時に思い出した。(それなりに聴いていたことも。)

そして、この話に触れるからには、誌面のエチオピークス vol.4の隣には同じエチオピークスシリーズからvol.21、つまりTsegue-Maryam Guebrouの作品も名を連ねていたことを書かずにはいられないわけであります。私とTsegue-Maryam Guebrouの出会い。


『言葉のない夜に』という圧倒的なアルバムを引っ提げた優河 with 魔法バンドのライブがもうあまりにあまりに素晴らしく、夢中で楽しんだ。これはこの先も長く語り継がれるようなそんな夜となったに違いありません!!

まず優河 with 魔法バンドとしての演奏の仕上がりっぷりが圧倒的。新作を始めあれだけのいい曲を、あれだけバンドとして連携がとれた仕上がった状態で演奏するのはそれはもう最高に楽しいに違いない。特に「fifteen」なんかではバンドメンバーの表情からもそれがよく伺えて、彼らから滲み出るポジティブなフィーリングが会場中に充満していくダイナミズムである!!

中心にあるのは間違いなく優河の歌唱。彼女のボーカルの素晴らしさを私は例えば「ニュアンスと声量のアンバランス」という切り口でもって語りたい。囁くような歌い方をするときクワイエットなニュアンスはしっかり伝わってくるのに、普通の人が囁くように歌った時にはありえない声量も同時に届いてしまうのが彼女のボーカルであるのだ。はたまた声を張って歌う時はしっかり大きく聴こえるけど耳にうるさくない。つまりニュアンスのメリハリはしっかりと存在しているのに、声量としては常にハイレベルを維持しているように聴こえるというそんな稀有なバランスでもって優河というシンガーの歌は成り立っている。

そして、歌唱そのものだけでなく歌う時の顔の向きだったり、ステージ上での佇まいというところも、3年くらい前に見たときから大きく進化を遂げていたように見受けられ、とても印象に残っている。マイクから少し離れてハミングすることそれ自体がすごく画になるし、数曲で披露したハンドマイクスタイルもこの日の衣装も相まって実にサマになっており素敵でした。

『魔法』以後の曲だけで編まれたセットリストもバランスが完璧。ダイナミズムを湛えた『言葉のない夜に』の楽曲群を『魔法』からの楽曲群がうまく落ち着かせていたように思う。あまりに手の入れようのないバランス感覚に、これ以上楽曲数が増えた場合を想像して一瞬心配になってしまうほど。

あとこれは余談ですが、四半世紀のときを越え、デビューしたてのフリーボと対バンする優河 with 魔法バンドを私は見てみたかったぞ。フォーキーかつアーシーな演奏と魅力的なボーカル、ウェルメイドなソングライティング、どう考えても最高な夜になること請け合いでしょう。

開演前に合流して挨拶した友人の彼女と3人で私の終電時間まで飲み食べして帰った。素晴らしき夜。


4/24 (日)

中一日空けて再び同じ友人と合流し、下北沢BONUS TRACKで行われているレコードマーケットへ。

最近ciruelo recordsという (Mono Fontana !!) 奈良のオンラインレコード店がおもしろくてよくチェックしていたのですが、このレコード市に初出店するという情報を掴んで脚を運ぼうと思ったのでした。

普段のオンラインではかなり少数精鋭のラインナップとなっていますが、この日は段ボール6箱分ボリュームもしっかり。例えばECM作品や武満徹、高橋悠治あたりの普通のレコード店のジャンル分けされた中から探そうとすると意外と見つからない痒いところに手が届く絶妙なセレクトが本当に素晴らしいのです。

オンラインに上がっていたときから気になっていた高橋悠治『YUJI PLAYS YUJI』を発見しすかさず購入。私の中ではエリック・サティ弾きとしての印象が強い高橋悠治ですが、これは珍しく自身のオリジナル楽曲の録音作品。これからじっくり聴きます。

ciruelo records以外も全国から素晴らしいレコード店がたくさん出店していて、特にECM、実験音楽、アンビエントものあたりをたくさん見れて大満足。¥2,000~¥3,000くらいの価格帯がボリュームゾーンなのもとてもいい感じで、ホイホイと買ってしまった。

Jazzと喫茶 囃子で休憩して、青山に移動して、ayU tokiOの活動10周年、そしてLP『新たなる解』のリリースを記念したワンマンライブ "new solution 7" を観る。

中心に据えられた『新たなる解』の楽曲は、10人編成の豪華なアンサンブルで演奏されることによって、ますます楽曲本来のポテンシャルが引き出されていた。『新たなる解』とは常に更新され続けるものということ。

その一方で、この日は現時点の最新アルバム『遊撃手』からも思いの外たくさんプレイされ、嬉しい。

そのソングライティング、アンサンブルの洗練具合にすっかり喰らってしまい、なんなら個人的なハイライトとして印象深いのは『新たなる解』の楽曲以上に『遊撃手』収録のそれだったかもしれないなー。

「大ばか」「hi-beam」「あさがお」「一人暮らし」「あひる」とどの曲もリズムが驚くほどタイトで、その上に滑らかに絡まる比較的ミニマルな鍵盤、ギター、トランペットのフレージングが抜群なのです。

他特に印象に残った楽曲というと「米農家の娘だから」「air check」「夜を照らせ」「狐の嫁入り」あたりか。

この編成でしばらくライブしていく予定だそうなので、国内中のフェスティバルはすぐにでもayU tokiOにオファーを出すべきだと強く思います。例えばこのGWに開催されているものだったり。そういうところで頻繁に演奏するayU tokiOバンドの姿、素晴らしい景色が私には容易に思い浮かべられるのだけれど。



この4月は本当に偶然にマスト案件が重なって、去年一昨年の年単位を上回る数のライブ会場に赴いて、ライブ以外でもたまたま多くの久しぶりの人と会って話しました。素晴らしく楽しかったな。

中にはそういえばこの人とは何か合わないんだった!という肌感覚を取り戻すような決して楽しさだけではない時間もあり、それはそれで久しぶりの感覚で新鮮でしたが。(大学時代の後輩よ、無邪気に「陰キャ」という言葉を使ってしまうのはシンドイぜ。)

これからも、このような素晴らしく、やわらかな夜が訪れることを願いつつ。


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