チトチューで朝食を
チトチュー。
聞き慣れない言葉だろう。それもそのはずで、1歳10ヶ月になる我が家の次男坊イトはヨーグルトのことを「チトチュー」と呼ぶ。
幼児語とはいえさすがにオリジナルの音声からかけ離れすぎではないか、との声もあろうが、トマトを意味する言葉が「パチャポ」、イチゴが「キンコンコン」であることを考慮すると、「ト」という音素を共有してるだけ「チトチュー」はヨーグルトの痕跡を留めている。
なにせ幼児語は面白い。
英語の授業におけるリピートアフターミー形式のやりとりをしても、しっかりとその語に対応した幼児語が帰ってくる。「これはトマト」「パチャポ」「トマト」「パチャポ」「ト・マ・ト!」「パ・チャ・ポ!」といった具合である。発している音が違うだけで、本人の中では両者はしっかり一致している。
また幼児語はある日突然発現したかと思うと、ある日突然消失したりする。すでに消失した幼児語を大人が引きずって、使っていた当の本人から訝しげな顔をされる場合も多い。いやいやあんたが使ってた言葉だよ。
ところでうちは毎朝欠かさずチトチューだ。
看護師の嫁はんが家族の腸内環境を良好に保つため、どんなに時間がない朝もチトチューが食卓に並ぶ。
だが今回の企画の趣旨からは非常に申し上げにくいことだが、うちはチトチューをほとんど買わない。朝方残った少量のチトチューを新しい瓶に入れグニュ(牛乳)を注いで混ぜておけば、翌日にはチトチューができている。
気温の低い冬場は1日で仕上がらないこともあるので、瓶を増員して2サイクルにする場合もある。いつもチトチューに入れるハチミツ(これに当たる幼児語はまだ未発現)は冬になると固まるのに、チトチューは冬になるとむしろなかなか固まらない。不思議なものだ。
チトチューはイトの好物だ。
パンダ(パン)やガンモ(白飯)を残す時でも、必ずチトチューだけは完食する。チトチューを食べる時はウップン(スプーン)の動きがまるで違う。2割くらいはこぼれているけれど、とにかくすごい勢いでウップンがチトチューを口に運び込む。
「チトチュー」が「ヨーグルト」になる日はきっと近い。
チトチューがヨーグルトになった後も、私はしばらくチトチューを引きずってしまうだろう。
でもほどなくしてチトチューは記憶から消えてしまうだろう。
上書き保存の下に埋もれるであろうチトチューをなんとか、記憶の片隅に保ち続けられたらとふと思いつき、こんな文をしたためてみた。
さあ今朝も、チトチューで朝食を。
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