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「副業収入300万円以下は雑所得」大幅変更へ



夏頃から「副業収入300万円以下は雑所得に認定される」という所得税基本通達の変更が発表され世間を賑わせておりますね。

この度パブリックコメントという納税者への意見公募でこの改正案に批判殺到したため、国税庁は大幅に通達を変更する判断を公表しました。

具体的には、事業所得か雑所得の形式的判断基準は「収入金額」で画一的に行うことなく、「帳簿書類の保存があるかないか」で判断する、という風に見直しが入りました。

つまり、帳簿書類の備え付けさえすれば、収入だけで即座に雑所得として認定されることがなくなったため、ほっと一安心された方も少なくないかと思います。

ですが、これはあくまで形式的な判断基準の1つなので帳簿をつければなんでもOKということでもないため、本稿では本通達変更内容や、今後も注意しなくてはいけない点などをまとめお伝えしていきたいと思います。


そもそも副業が雑所得になるとどんなデメリットがあるのか


今回の通達改正で、従来は曖昧だった「事業所得」と「雑所得」の線引きが一部示された、という点で非常に注目度の高い改正となりました。

では、税金を計算する上で「事業所得」と「雑所得」どの程度取り扱いが変わってくるのか、簡単にみていきたいと思います。

○雑所得では受けられない 「事業所得で青色申告」の3大特典!

第1位
赤字がでた場合に、他の総合課税の所得(代表的なものは給与所得)と損益通算が可能

第2位
記帳+電子申告していれば青色申告控除として実際の経費に加えて65万円も余分に経費にできる

第3位
事業と家事が混在するような経費を経費計上できる
例えば、自宅兼事務所や自動車などを事業割合30%、といった形で経費計上できる

どれも所得を下げようと考えたときに効果の大きいものばかりです。

10万〜300万円くらいの売上規模の事業であれば、交際費や交通費、その他上記のメリットを活用していけば利益を非常に小さくすることができてしまいます。


さらにいえば赤字になってしまえば損益通算ができるので他の給与所得などで取られていた税金まで確定申告で返ってくる。


事業所得にはこれだけ特典があるのです。


それがもし「事業所得」でなくて「雑所得」と認定されてしまうと、上記の3つのメリットが全て使えなくなります。


こう考えると今回の通達改正はデメリットは非常に大きいものになるのです。

今回の当初通達案が出された背景は


今回の改正でなぜ事業の判断を「副業」に限定したのか?

ここに今回の改正の事情が見えてきます。


上で書きましたが、今回問題視されたのは、本業で高い給与をもらうサラリーマンが、節税のために副業を「事業」と称し、税額を圧縮する手法です。


少額の売上を計上する一方、売上に本当につながるか不明瞭な経費を計上して赤字の事業所得を作り、毎年高い給与所得と通算して税金の還付を受ける、こんな事例が世の中に横行していたことに対する歯止めという観点が大きかったと考えれらます。


私自身、知っている範囲でも、税務調査に入られ毎年赤字の「事業所得」として申告していたものを「雑所得」と認定されたケースがあります。


どの案件も会社役員や大学教授など給与の非常に高い方だったため、過去の申告で圧縮できていた税額も大きいので、損益通算が認められなくなったことで数百万円単位で追徴税額を課されました。


国税庁サイドもこういった担税力があるにも関わらず、不当に所得を圧縮する高所得者層を苦々しく思っていたことでしょう。

それを封じる方策として今回大鉈が振るわれることになったのです。


税務署がムッとしているのはこんな申告

では実際どんな申告に税務署は腹を立てているのか?

文章で見てもイメージも湧きにくいので事例という形で私が見てきた極端な赤字申告の一例をご覧いただきます。(数字は加工しているので実際とは異なります)


筆者作成:青色申告決算書(サンプル)

売上は年間通して5万円と3万円の案件と2件しかなく金額も8万円だけ。

それに対して

旅費交通費45万円
接待交際費112万円
消耗品35万円

・・・誰が見ても、実際には売上に対応した経費でないことは察していただけるかと思います。

おそらくは仕事上(事業所得のではなく、給与所得の)のお付き合いで使った飲み代やご家庭の家電、お洋服などが経費になっているんだろうなと。

そんな印象を受けるものが多くあります。

では、こんな216万円も赤字の決算を組んだ方が、仮に給与年収1,800万円だったらどのくらい税金の還付が受けられてしまうのか。

それがこちらになります。


筆者作成:確定申告書(サンプル)


52の欄に記載の「還付される税金」 728,408円

そうなんです、税金で72万円も還付受けられてしまうのです。(所得税の税率が33%なので、赤字額の33%が還付されるのです)

こんな無茶な申告をして税金を還付していたら、税務署サイドも取り締まりたくなりますよね・・・。

こういった極端な形の申告が毎年出てきてしまうと税務調査のリスクなども相当大きな申告と言えるかと思います。


当初国税庁が発表したの改正案


こういった不合理な還付を防ぐべく、当初国税庁はこんな改正案を発表しました。

当初案を国税庁HPから引用してみますと・・・

「(業務に係る雑所得の例示)
35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。
(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その 所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない 限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。」
国税庁HP 「所得税基本通達の一部改正(案)の修正について」より

なんだか小難しいですね。

平たくえいえば、(以下分かりやすさ重視でだいぶ荒い表現を使っていきますので語弊など生じる部分あったらご容赦ください)

「副業でやっているビジネスは300万円売上なければ、税務署サイドは雑所得と判断していいよ」「異議があれば、納税者が事業所得であると証明してね」という内容です。

売上金額が小さければ事業所得とは認めない、反証の方法も示していないので、実質的には一律税制上の特典を取り上げることになり、ただの増税になってしまうと感じるような乱暴な内容でした。

国税庁サイドも、本来はターゲットとしたいのは例に挙げたような「高所得者層の損益通算」だったはずですが、期せずしてそれ以外のサラリーマンでこれから事業をしようと考え、少しずつ副業を拡大していこうとするような人までを改正の対象としてしまったことで、納税者から大きな反発を買うことになってしまったのです。

パブコメで納税者から多くの批判が噴出



当初改正案に反発した多くの方が本件のパブリックコメントに投書し、実に7,000件以上と以上の意見が寄せられました。

他の注目度の低いパブコメであれば数件から数十件程度の投書であることを考えればその注目度、反発の高さが窺えます。

主な意見を抜粋すると・・・

☆ 本業か副業かで所得区分を判断すべきではない。

☆ フリーランスの場合は、契約形態によって所得区分が分かれる場合があるが、この場合、主たる所得はどうなるのか。

☆会社を辞めずに起業した者は、給与所得を得つつ、事業収入 が300万円を超えない場合が多いが、こうした者も業務に係る雑所得に区分されるのか。

☆ 反証の範囲や内容が不明確である。

☆ 令和4年分の確定申告からの適用は遡及適用ではないか。(令和4年の8月に発表)

どれをとってもご最もな指摘が多く、やはり今回の通達改正は範囲の絞り方が乱暴であったことや適用時期が拙速であったことがみて取れます。


パブリックコメントの詳細にご興味ある方はこちらをご覧ください。

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案) (雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について


意見公募を募った結果、これだけの反発が出たため国税庁としても無視するわけにもいかず、雑所得の判定基準を収入300万円で区切ることを事実上撤回せざるを得なくなりました。

納税者の声を受けた新たな改正案

「(業務に係る雑所得の例示)
35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。
(注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合 (その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得に該当することに留意する。」
国税庁HP 「所得税基本通達の一部改正(案)の修正について」より

上に習いこちらもなお書き以下を要約すると、


「帳簿書類の保存がない場合には税務署は雑所得と判断していいよ」

これだけになったのです。収入基準もなくなり、納税者の反証という文言も無くなりました。

帳簿がなければ雑所得、つまり帳簿さえつけておけば原則的には事業所得として認めるというお墨付きがつくことになったのです。

ですので事業か雑か所得判断に迷う方にとっては取り扱いも明確化され安心して申告できる環境が整ったと言えるでしょう。

帳簿をつければ全部事業所得か?



では、これからも帳簿をつければ全て事業所得!損益通算しても問題なし!

そうなるかというと・・・そんなに甘いわけもありませんでした。


やはり大前提としては

「(注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。」

という文言があるのでやはりあくまで社会通念上事業所得と呼べなければ結局は雑所得と言われてしまう恐れがあります。


ただ今回大きな進歩があり、国税庁はこの「社会通念」というなんともフワッとした表現について具体的に「こういう場合には雑所得と判断するからね」という判断目安を出してくれたのです。


1 その所得の収入金額が僅少と認められる場合

その所得の収入金額が、例年(おおむね3年程度)、300 万円以下で主たる収入に対する割合が10% 未満の場合は、「僅少と認められる場合」に該当する

 2 その所得を得る活動に営利性が認められない場合

 その所得が例年(おおむね3年程度)赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合(※)は、「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます。

(※)「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいいます」


まとめると、3年間程度継続して、全体の収入に占める事業所得の割合が主たる給与などに比べ10分の1程度だったり、赤字が続いていたりする場合には、帳簿があっても雑所得と認定されるリスクは引き続きあるよ。

と言うことになります。

それを表にまとめると下記のような感じになります。

国税庁HP 「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」より抜粋


3年継続して、収入に占める割合が10%もいかない、3年間継続して赤字、そんな状況であればやはり事業と称するよりは、その方の副収入と理解する方が自然なのかなと思いますね。

実務に取り組む立場として、不公平感や税務署に後出しジャンケンされるおそれもほぼ防げますし、改正後の通達は非常に良い形になったのかなと感じました。

国税庁が発表した「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」詳しくご覧になる方はこちらをどうぞ

まとめ

いかがでしたでしょうか、今回は国税庁の所得税通達改正についてお話しさせていただきました。

パブリックコメントの力でここまで内容が納税者に寄り添ったものに修正されるということはかなりのレアケースですが、意見を言っていくのは非常に大切なことだと思わされますね。(実は私もあまりに納得いかず投書したので7059件のうち1件・・・0.01%くらいは影響を及ぼせたかと思うと嬉しいです)

今後、読者の方で、事業所得か雑所得か判断に迷うようなラインにいそうだなと思う方は・・・

①まずは帳簿をつける(自分で難しければ税理士にお願いするなど)

②3年程度継続して、主たる収入の10%も事業売上がない場合、又は、赤字の場合には自ら所得区分の見直しを検討する

この辺りによく注意してみてもらえればと思います。

とはいえ、ぜひこんな指摘受けなくて済むようどんどんビジネスを成長させて行けるといいですね。

長文にお付き合いいただきありがとうございました!

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