もしも、村上春樹がプロレスラーだったら その1


 僕が憧れのプロレスラーになれたのは、偶然の産物、そう、偶然に偶然が重なっただけかもしれない。団体ができたばかりのSMW(ストロング・マーシャルアーツ・レスリング)は、西馬込のプロレスショップのマニアックスの地下に設置してあるリングを道場にしていて、漠然としたもやもや感というよりも、確定的な不安を抱えた船出をしたばかりだった。 

  代表の下仁田淳は営業活動でいつも不在、千葉県幕張在住の元プロレスラー、アポロン梶原が練習を見てくれていた。アポロン梶原は、「プロレスラーになりたい」という僕の目を見ながら、諭すように言った。「本気でプロレスラーになりたいのかい?厳しいよ。本当に」と。        

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