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教育機会確保法とはなんだったのか~変容する「多様な学び」と「不登校支援」/メンバーシップ・プログラム3.【こどもを取り巻く環境】

【メンバーシップ特典記事です】
 メンバーシップのページ運用はまだ手探りです。
 まずは情報整理としてnote記事を投稿しています。各note記事をとりあげた投稿をどのように扱うかについては検討しています。掲示板で投稿すると、新規投稿しか目にはいらなくなりそうなので、メンバーシップ運営の趣旨の投稿内容などを固定するためにはどうするのか、など、考え中です。
 気長におつきあいくださいますよう、よろしくお願いいたします。

ホームスクーリングを阻む学校信仰とは?


 先日、「ホームスクーリング」のワードで検索をしていたら、こんな記事が目に入りました。タイトルは『不登校の選択肢”ホームスクーリング”を阻む「学校信仰」』とあります。連載の第2回で「不登校の子どもたちの選択肢のひとつになりうる“ホームスクーリング”について。世界では認められているホームスクーリングが、なぜ日本では教育の場として認められないままなのか。」の題材とのことです。kokageでも取り上げてきているテーマなので興味深く読もうと思います。

 「不登校の選択肢”ホームスクーリング”」との前提条件が固定されていることや「不登校を出発点とするホームスクーリング」そして「教育の場として日本ではみとめられないまま」の3点にそれぞれ解説が必要ではありますが、ひとまず今回は「不登校に対する文科省の向き合い方の変化」のインタビューに登場するこの部分「だけど超党派で反発を食らった。これは本当にもう自民党から共産党まで反対者がいたんです。それでもう、この案は葬られちゃった。」とある「馳試案3.11」について、「反発」「反対」とはどのようなものであったのかを資料を通して確認していきます。
 

 教育機会確保法の成立の経緯はこのnoteで書いていますが、「家庭目線」から知りえるものとして書きました。次にあげる資料で述べられている内容とおおむね一致しています。
 
 どのような反対があったのか。
 過去の資料をふまえ今一度振り返ります。また、今回初めて読んだ論文を取り上げ、抜粋しながら読み進め、間に論を挟んで書き進めていきます。教育行政、政治アプローチの観点から読み解く教育機会確保法です。

市民からの反対意見

資料1)不登校の子どもが危ない!STOP!「多様な教育機会確保法」
2016年4月15日
「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」通称「不登校対策法案」に反対する「共同記者会見」(動画あり)

 フリースクールをはじめ、不登校の支援団体、当事者団体、教育の見識者らによる反対意見が述べられています。多くは世間の想像を超えた現状と感情を知ることができます。本当に知ってほしい声ともいうべき内容です。こちらが真実だとは言いませんが、メディアを通して広く肯定されている意見とは異なります。それらも含めて考えるべきものが「教育の機会の確保」ではないでしょうか。この社会課題は決して当事者だけのものではなく、社会全体の課題であり、市民ひとりひとりが担うものだと自覚することが大切だと考えます。

「能力主義的」「休養への行政介入の懸念」



資料2)公教育計画学会理事会
「義務教育における普通教育に相当する教育機会の確保等に関する法律案」 一旦、白紙撤回し、再検討を (2016年4月1日)

指摘する問題点
1.能力主義的な「普通教育」を補完し、特別支援教育を強化する
2.認定基準の在り方に問題あり
3.「普通教育」のあり方を再考せず、無批判に包摂させる論理は危険
4.「休養」への行政介入の懸念
5.既存の施策体系で対応可能
6.学校外の学習機会に対する「管理・統制」強化の危惧

「義務教育における普通教育に相当する教育機会の確保等に関する法律案」 一旦、白紙撤回し、再検討を

 文書(テキスト)として確認することができます。
 特に注目する点は「普通教育の在り方を再考」の部分です。この言説は確保法成立の過程では重視されませんでした。むしろ、その観点を論じることは封じられ、確保法は学校教育法の特例法に位置づけられることで初めて許容されたものといえます。
 「能力主義」と「休養」の観点は重要です。この観点は、不登校の子を持つ保護者らに二面性を見ることができます。「能力主義」を肯定し、「学校に行かなくても社会的地位が保障されること」を期待する一面と、「能力主義」から脱する一面。「休養」は文字通り、休養を責められることなくこどもの権利として法的(公的)に保障される期待をかける一面と、「学校を休んでもよい」と言い換える一面です。「学校を休んでもよい」の解釈は「能力主義」の肯定と地続きです。

『教育機会確保法の立法過程ーアイディアの政治からー』(2018年)論文から



資料3)政治の観点から

岐阜経済大学論集 52 巻 2 号(2018 年)
『教育機会確保法の立法過程ーアイディアの政治からー』

はじめに
 1.問題の所在
 2.目的
第 1 章 アイディアの政治
 1.アイディアの政治に係る基本的な認識
 2.教育機会確保法におけるアイディア
第 2 章 教育機会確保法の立法過程
 1.教育機会確保法に係るアクター
 2.立法過程におけるアイディア (1)構成的局面 (2)因果的局面
第 3 章 教育機会確保法におけるアイディア
 1.制度・利益
 2.アイディアの変容
 3.自民党のイデオロギー
 4.市民化のベクトル
最後に


『教育機会確保法の立法過程ーアイディアの政治からー』


 教育機会確保法の立法過程と、推進派・反対派の構造を、教育行政と政策の観点から知る内容です。(今回、初めて取り上げます。)
 注目する記述を抜粋して、教育機会確保法とはなんだったのか、その成立過程と問題点、そして現在、目にするさまざまな主張に見る課題について考えます。

憲法に規定された教育の権利であるが,なぜことさら行財政改革が進むこの時期に国や地方自治体に義務教育機会の保障という形で義務付けるのか。教育委員会を中心に独自性が高かった教育行政の主体を国に転化し統制を強める一方で,学校教育法の枠外で行われる教育を正規の教育とみなすことは,国による統制を緩める動きのようにも見える。安倍政権の教育改革の方向性全体を明らかにするというのは大胆にすぎるが,本稿は教育機会確保法の立法過程に見られたアイディアの変容を見るなかで,この時期に行われた教育改革が目指すものの一端を明らかにすることを試みる。

はじめに

 実際にはこの試案は通らなかったので「学校教育法の枠外で行われる教育を正規の教育とみなすことは,国による統制を緩める動き」には至らなかったし、逆に国による統制の印象を強める方向に向かっていると見ることができました。しかし一方では、とにもかくにも法律が成立したことで国による統制が緩んだと解釈するグループもいます。その各々の「見方の違い」がどのようなものかが論を読み進めることで見えてくるでしょう。

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