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嫌いなラッキーカラーの手帳ですごした年

二十代のとき、「来年の手帳はラッキーカラーにしよう」と決めたことがある。
長く付き合った彼との別れがあり、新しい出会いには恵まれたものの、元彼との関係を超えるものには育たず。アットホームだった職場も、統合して大きくなったら人間関係がおかしくなり、なんだか体の調子も良くないような……と、心身ともに変動があった時期だった。
そういう弱った心のときに、少しでも好転してほしいと願って占いに頼るのはありがちな流れである。

調べたところ、私にとっての来年のラッキーカラーはどうやら青。しかし青といってもいろいろある。水色寄りの青、紺寄りの青、緑寄り、赤寄り、薄い、濃い、明るい、暗い、くすんでいたり、発色が良かったり……。
手帳となれば、模様入りや、他の色と組み合わせたものもあるだろうし、手触りも気になる。

私好みの青い手帳が見つかるといいな、と探したが、これがなかなか見つからない。ようやく見つけたのは、どうしても好きになれない感じの青い手帳。しかも単色。なんのおもしろ味もない。
中の紙はクリーム色。これも嫌い。手帳やノートの紙は、真っ白が好き。

どうしてもこれしか見つからないし、どうしても好きになれない。いくらラッキーカラーと言えども、こんな嫌い尽くしの手帳に決めていいのだろうか。

でも例えば違う手帳を買ったとして、私の状況が好転しなかったら「やっぱりラッキーカラーにしとけば良かった……」と絶対後悔するだろう。

じゃあ……これにするか……。

かくして私は、あらゆることが好転することを願って、そのラッキーカラーだけど嫌いな色の手帳を買い、来年の手帳としたのである。

新年を迎え、真新しい青い手帳を使い始める。ただ嫌いな色がベタ塗りされただけの、四角いそれを。

仕事中、デスクに置いた青い手帳が視界に入る。……気が滅入る。
今後の予定を確認しようと、青い手帳を手に取る。……気が滅入る。
買い物の会計時にバッグをのぞくと、青い手帳がいる。……気が滅入る。

どうしても好きになれない。気が滅入る。そういう気持ちで一年近くすごしたらどうなったか。――なんだか良くないような、と思っていた体の調子が、著しく悪化した。体調が悪いと精神にも影響する。それらが青い手帳のせいだなんて言い切れるものではないが、当時の私はすっかり余裕がなくなり、青い手帳を使い続けた日々を恨んだ。

だったらすぐ買い替えたらいいのにと今なら思うが、頭のかたい私は律義にちゃんと一年使い倒す。でも次の年の手帳は、ラッキーカラーなんか度外視で、とにかくデザインが私好みであることを重視した。

時すでに遅し。悪化した体調は良くならず、退職、療養。だけど手元にある手帳は、心から好きなもの。目に入るたび、愛おしさで胸がキュンとなる。一年間、「気が滅入る」と思うより、「ああ、好き……」という気持ちでいる方が、心にも体にもいいに決まってる。

以来私は、手帳探しに妥協しなくなった。手帳に限らず、普段持ち歩く物は「ああ、好き……」と感じることに重きを置いた。
「牡牛座として生きる」と決意した後だったら、手帳の色で迷うこともなかったのに。

  *

私が今現在愛用している手帳は、MARK’SのEDiTスープル。同社のグローブも好きで何年か愛用。ほぼ日手帳など他社の手帳も試してみたが、EDiTが一番長く、深く使っている。相棒と言っても過言ではない。

中の紙の色は、私の好きな白。罫線なのも嬉しい(方眼は嫌い)。さらに嬉しいことには、その罫線、よく見るとドット。線を引くときのガイドとして大変助かっている。
カバーももちろん私の好きな色。だけどもしも私の好きな色たちの取り扱いがなくなったらどうしよう。それだけが毎年の不安である。


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