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雨後の筍がすごすぎる

うちには竹林が小さくひと山あって、周りの畑に向かって地下茎が伸びている。放っておくと侵略されてしまうから、毎年モグラ叩きのように筍を刈る。父がいた頃は重機で地下茎を掘り出すこともできたが、今年は母と私の二人で、せっせと筍を刈っている。

雨が二日、三日と続いたあとには竹林周りの筍が一斉に伸びまくる。前回刈り損ねたものなどは2〜3mくらいに成長し、数本の地下茎ブラザーズと山の斜面にそびえ立って私を見下ろしてくる。
それだけ伸びたらもう竹じゃないのかと思うが、茶色の皮をまとって、姿は筍のままである。

「こんなに成長が早いんだから、10分くらい見てたら伸びるのがわかるんじゃないだろうか」
母のその言葉を小学生の頃に聞いていたら、夏休みの自由研究は間違いなく「筍の観察」になっていた。

しかしこの2mの筍、根元を見たら地面近くの節からいきなり青竹に変わっていた。どうやら筍は急に大人になるらしい。一体その節で何があったのか。

青竹に変わる直前のやわらかい筍部分にカマを当て、侍口調で「御免」などと言いながら引く。一瞬で切ると、2mの筍が倒れて私の頭にポコンと当たった。

学習しない私は、その後何度も「御免」ポコン、「御免」ポコン、を繰り返し、己の滑稽さに笑った。今日も平和である。

  *

翌日、朝ごはんの後片付けをしていると、病院へ行ったはずの母から電話があった。何事かと電話をとると、声をひそめた母が、しかし興奮気味に語り始めた。

「あのね、今、待合室で話してて聞いたんだけど。筍、膝丈くらいに切ると、雨で腐って、地下茎も腐るんだって。そうやってっと二、三年くらいで枯れて、生えてこなくなんだって!」
「あら良かった。仕事が楽になるね」
「んだがらさ! こっちは何年も何年もなるべく深く掘っくり返してたのに! 膝丈でいいんだど!」

とりあえず母の体調に関係ない話で良かった。

早速二人で膝丈切りを試す。雑にカマを振ると、膝丈でスパッと切れずに根元から折れてしまう。だからカマの刃をよく研ぎ、精神統一してから一閃する。長身筍のポコン攻撃も片手で受け止めるようになった。拙者もなかなかやるでござる。

しかし筍にかまけている間に、今度は背後で草が伸び放題になっていた。まだまだ修行が足りないでござるというわけだ。


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