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父のこと/命のこと

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2021年、コロナ禍に脳梗塞で逝った父のこと。いくつもの重い決断を迫られた、私たち家族のこと。その後の、日々の暮らしのこと。/父に限らず、命のことをテーマにした内容です
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2021年4月の記事一覧

「一日中書いて暮らしたい」はどうやら卒業

前は「一日中書いていたい」と思っていた。「創作だけに没頭して暮らせたらどれだけ幸せだろうか」と。今は――実家で両親と暮らすようになってからだろうか、ちょっと変わった。 家族が真ん中。 家族とすごすこと、家族の一員として家の仕事をすることの方が大切になった。 じゃあ書くことはどうでも良くなったのか? そうではない。「書くことと暮すことは、同列ではない」と思うようになった。書くことは、暮らすことの上に移動した。――上位だということではなくて。例えるなら、小学生のときに書いた

鋭いくせに、答えにたどり着かない残念な嗅覚

「感覚の牡牛座」とも呼ばれる牡牛座は五感に優れ、私も例に漏れず、仲間内では感覚が敏感な方に分類される。視力がショボショボなので五感ではなく四感ではあるが、嗅覚に関しては自分でも時々竈門炭治郎かと思う。 子供の頃、家へと続く道の途中で作りかけの夕飯の匂いを察知した、なんてのはまだ序の口で。忘れっぽい元姑と同居していた頃は、二間向こうの台所の火つけっぱなしのにおい、お湯出しっぱなしのにおいがわかるほど進化していた。 私の嗅覚は職場でも役立った。二十代の頃勤めていた生協は、無農

楽園は小さくなり、そして広がる

父が救急搬送された翌日。付き添っていた母が疲れきった顔で帰ってきたのは、朝の6時すぎだった。父が病棟に入ったときにはすでに夜中の1時半で、コロナ禍のためタクシーは営業終了。母は守衛さんに相談して病院の待合室で仮眠し、タクシーが動き出す朝6時にようやく帰路に着いたのだった。 自宅に到着した母が畑の農業用ハウスに向かうと、すでに先客――畑と田んぼを越えた先に住む、ご近所さんがいた。 「ハウス開いてなかったから、まだ病院にいたんだと思って。今日暑いし、ハウス開けないと苗っこ焼ける

新月を待たずに父は逝く

入院していた家族――父が逝った。今まで「父」と言わず「家族」と濁していたのは、母の意志と父のプライドを尊重するため。 「お父さんはプライド高いから。自分が意識不明の寝たきりになったなんて絶対周りに知られたくないだろうから」 母は、父がもう助かる見込みがないことを伏せ、「コロナ予防で家族でも会えないから、様子がまったくわからない」「多分いつもみたいに軽いんじゃないの?」と周囲へ言い続けていた。父は過去2回、とてもとても軽い脳梗塞で入院していたが、3度目の今回は、極めて重いも

変化を嫌う牡牛座だから、いつもの歌を

家族の入院でパニック状態のときに、運転をしなければならない事態になった。何かやらかしそうで怖い。だけどこんなときこそ「牡牛座として生きる」だ。そう思ったら自然と、オマジナイを唱え始めていた。 「牡牛座さんは、変化が嫌い。だからいつものことを、いつもどおりに」 こんなことをブツブツ何度も繰り返しながら、出かける準備。牡牛座は変化が苦手らしいから、これはいつものことだよ〜、いつもどおりだよ〜、と自分に言い聞かせ、なるべくいつもやっている所作を踏襲する。 車に乗ってからも、オ

早く、コロナ禍を、終わらそう

入院した家族に会えない。コロナ禍だから。 だけどコロナではないから、危篤のときは家族のみ会えるという。 つまり次に会えるのは、退院時か、危篤時ということ。他県の者は、たとえ近親者でも、コロナ陰性でも、そもそも病院に入ることすらできない。 これがコロナ禍か、と愕然とする。 着替えなどは看護師さんに渡す。考えようによっては、家族が24時間つきっきりでいるよりは楽だとも言える。家の仕事にも手をつけることができる。――実際はパニック状態で挙動がおかしなことになっているが。 それ

心底迷ったとき、牡牛座であることを思い出して適切な判断を下す

家族が救急搬送された。私はこれまで入退院が多かったから慣れているつもりではいたが、家族が、となると別らしく。いつもの家事をしながらも 「いつもどおり……いつもどおりに……」 と終始自分に言い聞かせていたあたりは、やはり私もパニックに陥っていたと思う。 その日は疲労と不安で頭痛がひどく、食欲もなかった。noteへの投稿は朝に済ませていたから、その点だけはホッとした。 この時点で、完成している下書きのストックは、あと1つ。明日はもっと忙しくなるかもしれない。そしたら書けない。