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#14.5 「いいもの」ができる時

番組作りを始めて30年くらい。極意のようなものは掴めないけれど、「いいもの」が出来上がっていく時の感覚は、わかる。

例えばそれは「作り上げる」というよりは「おさまっていく」感覚。あるべきものが、あるべきところに「おさまっていく」感覚。

番組の流れや細かい編集。どうにもしっくりこなくて、でもその理由を言葉にできず、前のものを後ろにしたり、2つに割ってみたり、1つに合わせてみたり。

でも、ある時それが急にすっきりする瞬間がある。四苦八苦していた人たちが顔を見合わせて、「これだね」と言う瞬間。できあがってしまえば、それはあまりにも自然で苦労したようにも見えない。

「ああ、見つかった」

例えばぴったりの靴をはいた時のように。答は昔からそこに存在して、見つけ出されるのを待っていた気がする。深い森の奥にある泉のように。

そう思えば謙虚な気持ちになれる。最初に見つけた人が偉いとは思えない。ただそれは「見つけ出した」だけなのだから。

きっとどんな仕事でも、同じような感覚はあるのかもしれない。いい仕事は、新しさと共に昔からそこにあったような自然さを持つ。その時、大きなインパクトや違和感を与えたとしても、長い時間を経て振り返ってみると、必然のように思える。そしてその良さは、新たなものが出てきたとしても失われることはない。

いい仕事ができた時には、いつも顔を見合わせて笑った。時にハイタッチ、もしくは熱い握手。人付き合いが苦手な人でも、その瞬間だけはラグビーのチームのように。仕事を楽しいと思えることは幸せだ。

いい仕事を導くちょっとしたコツを身につけて、他人のいい仕事に出会ったら「おお、すごいじゃん」とほめる素直さを忘れずに。

そんな風に「いいこと」を広げていくことだって、きっとできるはず。

(過去の文章はこちらです)

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