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#13 「君の声 僕の声」#アスリートは黙らない

ギャラクシー賞の奨励賞もいただいた番組「スポーツ×ヒューマン #アスリートは黙らない」に寄せて書いた文章。かなり思い入れの強い作品です。

誰かの声を借りて、自分の思いを伝える。
テレビディレクターの仕事は、どうしてもそんな仕事。リスクを背負って前に出る人の勇気を伝えながら、自分はそこまでのリスクを背負ってない。その後ろめたさは、いつでも付きまとう。
ブルーハーツの「青空」をカラオケで歌ってるような気分。
本当は自分の声で、自分の歌を歌いたい。でもそれを仕事にできるのは選ばれた人の役割。それならば僕らの役割は何だろう。

体罰の記憶に苦しんできた益子直美さんの声。

「一応エースだったんですけど。トス上げてほしくないなってずっと思ってました。私のせいで負けたらどうしようっていうのがもう怖くて怖くて、しょうがない」

それでも、自らのトラウマと真正面から向き合う。

「子どもたちの未来のためには、声を上げていきたいなって思ってます。私ができることは、本当に今それしかないな」

差別に苦しんできた鈴木武蔵の声。

「怒りたい、言い返したい、主張したい場面でも、ことごとくリアクションを避けて逃げてきた。そうやって 殻に閉じこもることで、絶対に言われたくない暴言や暴力から身を守ってきた」

優しさから心を閉ざし、それでもその優しさを保ちながら声をあげる。

「否定を肯定に変える。これは僕の人生を通じて学んだことでもある。どこに行っても、何をしていても、僕は僕、鈴木武蔵であることに変わりはない。それをこれからの人生でも証明し続けていきたい。ありのままの自分に、誇りをもち続けて」

無月経に苦しんだ新谷仁美の声。

「自分も味方を作ろうとしなかった。仮に相手が「味方だよ」って言ってもそれを信用し切れていなかった。それだけやっぱり、もう精神的にも勝手に自分を追いこんでいた」

それでもグラウンドに戻ってきた。仲間を得て、少しだけタフになって。

「自然体でありのままの自分で戦う事もできるっていう手段は私を通して伝えていきたいなって思います」

大きな苦しみを乗り越えた彼らは、それまでより大きな存在になっている。苦しみなんてないほうがいい。それはもちろんそう。でも普通だったら潰れてしまう逆境を乗り越えたとき、彼らは「その先の世界」を導く役割を担うためにある、特別な存在にも見える。

それなら、僕らの役割は?

4人のディレクターと作った今回の番組。制作者にはそれぞれにテーマソングがあり、その力も借りた。ネット上のグループでインスパイアされた音楽を共有し、イメージを重ねた。

例えばそれは、こんな曲。

「さよならCOLOR」「帰ろう」「Fight Song」「Where is the Love」「Strip Me」「Message in a bottle」「Everybody hurts」「Whatever」「Fix You」「Pyramid Song」

そしてきっと、もっと。

デザインチームやカメラマンや編集マンの力も借りた。傷を傷として描くだけでなく、もっと尊いものとして描きたかった。

そして、きゃりーぱみゅぱみゅの声も借りた。

「わたし以外わたしじゃないし、わたしとして生きることが大事」

彼女が読むべき言葉を考える過程が、番組制作後半のエンジンとなった

そして何よりもメーガン・ラピノ。2019年W杯の彼女の気高く痛快なメッセージは、僕らの出発点であり、最後まで背中を押し続けた。

「あなたは、あなた以上の存在だ」

なんて素敵なメッセージ。自分が自分以上になる瞬間、それも誰かの力を借りて。それをより多くの人が味わうことができたら、世界はもっと優しくなれる。

そう。僕らはひとりだから、誰かの力を借りないと。あるいは誰かの力を借りるとき、僕らはひとりじゃなくなる。まずは「私」を大事にして、そうしたら誰かの「私」も大事にできて、それがつながって、本当の「私たち」ができたら。それはきっと素敵で、きっとかっこいい。

そして思い出す、もうひとつの声。
5月は忌野清志郎の月。

夢かもしれない
でも、その夢を見てるのは、君ひとりじゃない
仲間がいるのさ

かっこいい人を亡くなった後にほめるのは、ちょっとかっこ悪いこと。今。今の日本にこんなにかっこいい人がいると伝えたい。そんな思いも原動力となった。

そして、伝えたかった。
命がけの言葉、本当の言葉は、どんなに力強いか。
最後に伝えた声。

「言いたいことは自分の意思をしっかり持って、言ってほしいな。ひとりじゃないので」

僕らはテレビマン。
素敵な声を、電波の力で遠くに届ける仕事。


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