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アルバム

記憶のない
扉をたたいて
井戸の底から
あの日のベランダの
月明かりが立ち昇る
 
僕らの湯気が
重力に引かれて
井戸の底に流れていく
 
見えない
聞こえない
でも
なぞる指から
血が流れる
 
誰に対する
手紙だったのか
分からないまま
ペンは
ノートの上を走る
 
おばあちゃんが
ゆっくりと
階段を上がってくる
 
僕に何を
伝えたかったのか
 
湯気は
重力に引かれて
月明かりを
覆っていった
 
気がつけば
いない人ばかり
数えている
 
壁の向こうの
未来から
 
月明かりが
見えなくなるくらい
長くずっと
 
アルバムを
めくる手が止まる
 
お葬式の日に
流せなかった
涙が一滴落ちる
 
堰を切ったように
その後ずっと
泣いていた
 
愛なんて
そんなものさ
 
過ぎてから
しばらくしてやっと
届くのさ
分かるのさ
 
もういないのにね
 

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