ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドで紐解くゲームコンセプト

2016年にNintendo Switchで発売されたゼルダの伝説シリーズのオープンワールドを取り扱った作品として大ヒットしました。もう10年近く前ということに驚いています。オープンワールド観を塗り替えたと言っていいほど素晴らしい遊び方で多くのゲーム開発者を驚愕と嫉妬の渦に巻き込みました。

さて、ゲームの企画やゲームデザインを行うにあたってはコンセプトというものが大切になります。ゲーム制作を学習する学生の方も講師や先輩から同じように聞かされることも少なくないと思います。
では、ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(BotW)を通じてゲームコンセプトとは何かというものをこの記事で分析し、紹介していきたいと思います。

ゲームコンセプトとは?

様々な著名な方がコンセプトについてお話しされていますよね。みなさんニュアンスこそ異なれど、通底している部分は変わらないように思えます。

・「どんなゲームだから、どう面白い」を一言で表したもの ゲームクリエイターズCAMP
・全体を貫く基本的な観点・考え方 ゲームクリエイターズギルド 楽屋でまったり 篠崎さん
・ゲームを魅力を方向づける核 桜井政博さん

辞書を引いてみると

コンセプト【concept】 の解説
1 概念。観念。
2 創造された作品や商品の全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点。「—のある広告」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

とあります。
ゲームはどれにもコンセプトがあり、その元でゲームを設計していますよということですね。それぞれ若干ニュアンスが異なるのは、コンセプトの捉え方や解釈がそれぞれ微妙な差がある、くらいのものだと思います。

では早速BotWでコンセプトを考えてみましょう

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドのゲームコンセプトは?

先に言い訳させていただきます。やはりコンセプトは開発者でなければ考察しても正解というものはないのですが、一個人の考察としてお考えください。
また、本作BotWの概要やストーリーといった細かい説明はスキップさせていただきます。ストーリーの考察ではなく、ゲームコンセプトの考察となりますのでご注意ください。
ざっくり簡単に言えば、ゼルダ姫を救うべく、各地のハイラルの英傑と手を組んでガノンを倒すというものです。その舞台がハイラルであり、オープンワールドとなったというわけです。

早速いきますが、BotWのコンセプトは「登る」だと考えます。
主人公リンクは広大なハイラルを隅から隅まで行くことができます。もちろんマップには限度はあります。ただし許された限り文字通りどこへでも行くことができます。
さらに、ハイラルは異常な険しさです。町や村は整備されていますが、郊外では舗装されていない道が隣の町や村へ伸びているだけ。道中にはボコブリンやチュチュが平気で歩いており接触すればリンクに襲いかかってきます。さらに自然の脅威も一層増し、山や崖は自然に晒されとても人が行くような場所ではありません。そんな自然も、リンクは成長を重ねることで立ち向かうことができるのです。では、なぜ「登る」がゲームコンセプトとなるのでしょうか。

・がんばりゲージ

リンクにはHPがあり、攻撃を受けるとHPが減少します。もう一つHPとは別に、走ったり壁を登るとがんばりゲージを消費します。がんばりゲージは、コンセプトと深く関係しています。
ハイラルの険しい山を登る際、崖を登って山を目指します。山を登るルートを、限られたがんばりゲージからどの崖を登ろうかな?と登攀ルートの選択を迫られます。わざわざ険しい崖のルートから登ろうとは考えないはずです。がんばりゲージの消費とどこまで崖を登れるか?というある種のリソース管理の要素でもあると言えます。また、ハイラル各地に点在する祠というものがあり、祠に行けばダンジョンに突入する。祠のダンジョンをクリアすることでHPとがんばりゲージの上限を増やす「ハートの器」「がんばりの器」を獲得できます。

・塔

ハイラルの各エリアにとても高い塔が配置されています。塔に登り、頂上から展望することでマップが解放されてどこに何があるか確認できるようになります。(塔でマップを解放しないと未解放エリアに進めないということはありません)
塔に登ることでマップを解放できるだけではなく、地上からは確認できない高所からしかできない発見があります。例えば別の塔を見つけたり、敵の拠点を見つけたり、リンクのステータスアップができる祠を見つけたり。祠は高所から見つけやすいように目立っていますが、地上からは目立たず発見しにくいです

・パラセール

パラセールは、リンクが空中で展開し、そのまま滑空して移動できるものです。滑空中はがんばりゲージを消費し、がんばりゲージがなくなるとパラセールが維持できなくなり中断されてしまいます。高所から徐々に地面に近づく滑空、さらにがんばりゲージを消費してしまうという一見して「登る」と矛盾しているように思えます。 確かに、滑空は「下降」する動作であり、「登る」の反対のように見えます。しかし、以下の観点から「登る」コンセプトと調和していると解釈できます:
パラセールがあるから高所へのぼりたい!
パラセールを使うためには、まず高い場所に登る必要があります。つまり、滑空は「登る」行為の結果や報酬として機能しています。
空中から地上を探索したい!
滑空によって新しい高所を発見し、そこへ登ることへの意欲を刺激します。
では、がんばりゲージの消費はどう説明するか?
がんばりゲージの消費は、一見すると「登る」行為を制限しているように見えますが、私は下記の理由で「登る」コンセプトを強化していると考えられます。
がんばりゲージの管理という課題を設けることで、「登る」行為に戦略性と挑戦性を持たせています。あそこまでいきたい!という意欲を促進させています。また、スタミナを増やすことで、プレイヤーの「登る」能力の向上を明確に示しています。
これらの要素は、一見矛盾しているように見えても、実際には「登る」というコンセプトを多層的に強化していると解釈できます。
「下降」や「制限」があることで、「登る」行為の価値と重要性が際立ちます。 登る→滑空→再び登るというサイクルを作り出し、ハイラルの移動の利便性や探索を促進しています。

・シーカーアイテム

シーカーアイテムは、リンクが授かった特殊能力のことです。

・マップ機能

序盤はマップに何も確認できませんが、塔に登ることでマップは解放されます。

・シーカーセンサー

隠れたお宝やアイテムを検出して近づくと音で反応してくれます。これはパラセールで移動中いきなりセンサーが反応して、進路を変更する、なんてこともプレイ中よくありましたね

・マグネキャッチ

金属製の物体を動かすことができるスキルで、磁力で自由に操るというものです。金属板や、金属のブロックを動かして足場を作って登攀ルートの選択肢を増やすことができます。

・アイスメーカー

水面上に氷の柱を作り、足場を作ることができます

・爆弾

障害物を爆発で取り除けます。

・ビタロック

物体の時間を一時停止し、攻撃を加えることで攻撃のエネルギーが蓄積され、物体の時間が再開すると蓄積したエネルギーと共に吹き飛ばすというものです。説明が難しいので、youtubeのリンクをからご覧ください。
リンク準備中

・神獣

ハイラルの各エリアに存在するボスのダンジョンです。
神獣ダンジョンを攻略し、ボスを撃破することで「ハートの器」「がんばりの器」が獲得できます。神獣自体、巨大な構造物となっており構造物に登りダンジョンを探索し、ハートの器とがんばりの器という報酬を目指していきます。

・環境

先ほども説明しましたが、ハイラルはとても険しく、HP減少するほどのデスマウンテンの酷暑やヘブラ地方の厳寒が待ち受けています。環境に合わせた服装や、料理を食べることで克服していかなければなりません。ですが、やはり厳しい環境に備えて、祠を探したり、レアなアイテムを求めて火山や雪山にいきたくなるのです。火山や雪山の「あんなところに!?」というところに祠があるものなので、やはり火山や雪山に登って地上を見渡し、プレイヤーは探索に駆り出されるのです。環境に適した服装や料理が「登る」を支えており、好奇心を減少させないようになっているのですね。

まとめ
・BotWのコンセプトは「登る」
・フィールドとなるハイラルは険しく塔や山といったランドマークがあり、どんな場所もいけるし登れる
・崖など登るにはがんばりゲージが消費されるため、登攀ルートの選択とがんばりゲージのリソース管理が無意識的に行われる
・パラセールによって高所から滑空でハイラルを簡単に移動できる。滑空することで地上を見渡して祠やアイテムを見つけたり、シーカーセンサーの検知で探検を促進する
・↑この空中移動の利便性が、「登る」を促進させ高所にいくということ自体が報酬となる
・ボスが待ち受ける神獣自体が巨大な構造物となっており、神獣に登ってダンジョンを踏破しボスと戦闘する

BotWのコンセプトを支えている大きなゲームシステムはパラセールとがんばりゲージだと考え、高所に登ること自体が報酬になるというパラセールの滑空のゲームシステムは非常に優れていますよね。BotWに「がんばりゲージ」がなければ、きっと山頂にたどり着いた達成感はえられないでしょう。「パラセール」がなければ、きっと山を降りたり塔をちまちま降りることは面白くないはずです。

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