人の足を引っ張る幽霊　その名も『足引っぱりやー』

小学生の頃、家の近くの海で泳いだことがあった。家の近くには港があって、大きな橋がかかっていて、橋の下には灯台が建っていた。灯台の近くの砂浜で友人と遊んでいたところ、観光客らしき人達が海で泳いでいた。

｢君たちも一緒に泳ごうよ｣
大人達があまりにも楽しそうだったので僕達も一緒に泳いだ。
すると、遠く離れた所から
｢おい！危ないだろ、ここの海は危険だぞ！｣
と大きな声が聞こえた。僕のオジーだった。オジーは自転車を置いて、足早に近づいてきた。すると観光客の大人ではなく、僕に恐ろしい剣幕で怒りだした。
｢ここで、溺れて亡くなった人が、たくさんいるんだぞ！早く家に帰れ！｣
普段の優しいオジーからそういわれることは一度もなかったので僕は走って家に帰ると号泣した。

家で泣いていると、母がパートから帰ってきた。
｢どうしたの？何かあった？｣
｢もう、オジーの家には行かない。あんなに怒らなくてもいいのに｣
母に理由を話すと
｢あの橋の下は亡くなった人がいっぱいいるのよ。みんな『足ひっぱりやー』に海の中に引っ張られて溺れて亡くなるの｣

僕は言い返した。
｢幽霊いるわけないさ。『足ひっぱりやー』って作り話でしょ！｣
要するに、海には潮の流れが強い場所があり、その流れにのみ込まれると沖に流され溺れて死ぬことらしい。海には足を引っ張る幽霊がいると僕の地域ではそう言われている。

海の中には『足ひっぱりやー』がいる。
テレビを見ても、政権から引きずり落とそうとする政治家達がいる。
自分の権力のために人の足を引っ張る人間がいる。
海ではなく人間界の地獄へと足を引っ張る人が、陸にもいることは確かだ。

足引っぱりやーの幽霊は至るところにいる。間違いない！