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ワンちゃんとアコーディオンを弾く私

朝5時に目が覚めた。
いつもなら二度寝をするのだが、なんだか今日は寝付けなかった。


そこで、駅近のベンチのある公園でアコーディオンを弾きに行こうと思い立った。海風に当たりながら、自由気ままに練習できたら最高だと思った。駅は私の住んでいる町の主要駅で普段は人通りが多いが、日曜日の早朝なんて皆寝ているだろうと高を括ることにした。


総重量6kgあるアコーディオンを背負い、朝6時、目的地へ向かい家を出た。駅へ向かうバスに乗ろうとすると、バスの中には既に5人ほど乗っており、少し嫌な予感がしたが、ここまで来て引き返すのも面倒に思い、乗ることにした。


駅に着くと早速、ランニングをしている人、犬の散歩をしている人が目に留まった。さらに、(後に友人から聞いた話だが)前日に祭りが開かれていたらしくその片付けとして概ね20人ほどの一集団が公園近くに散見された。


この時点で私の「なるべく誰にも聞かれなさそうな場所でアコーディオンを練習する」という目的は果たせないことが確定した。そうは言うものの、片道30分かけて来た以上、何もせず引き返す訳にもいかなかった。


仕方なく、公園のなるべく人が少ない場所を探し(そうは言っても遊歩道に囲まれているのでそんな場所はないが)、小さな音で弾こうと決めた。しかし、朝の静かな公園において、最初の音を鳴らしてみた瞬間、それは不可能であることを悟った。


目の前を過ぎる人々の視線が、致命傷から大怪我くらいの痛さで済むようになり、人生のメリーゴーランドの演奏に集中していると、「ワンワン」と鳴き声が聞こえ、私は視線を上に上げた。するとそこには、けたたましく吠えるワンちゃんとそれをなだめようと申し訳無さそうにチラチラこちらを覗いてくる飼い主の女性がいた。


「○○ちゃん(ワンちゃんの名前)も演奏聞かせてもらったらいいのに」と飼い主の女性。

「ワンワンワンワン」吠え止まる様子の欠片もない○○ちゃん。

無言の私。

「いつもこの辺りで演奏されているんですか?」と飼い主の女性。

そんな訳なかろうと思いつつ、そんな訳ないですという主旨を大人が使う敬語でそれっぽく伝える私。

一向に鳴き止まない○○ちゃん。


私が恥ずかしくなり演奏を止めてしまったことを、迷惑をかけたと思われたのか、終始女性は申し訳なさそうに、最後も謝りながらその場を去っていった。



さて、今回人通りのある公園で始めて楽器を演奏するという試みを行ってみた訳だが、大多数の人に変な目で見られた(ような気がした)。そんなに、爆音で演奏していた訳でもなかったが、これを迷惑だと感じた人もいたのかなと勝手に想像したりもした。しかし、外で楽器を弾くのは私は楽しく、個々人にはそれぞれ楽しみがある訳で、それが人に迷惑になるかならないかで制限されるのは少し生きにくいとも思った。自分が迷惑かけないよりも人の迷惑を許せる人になろうとも思った。


とは言っても、だいぶ恥ずかしかったので、もうしばらくは、あんな場所で弾こうとは思わないのだが。

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