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ポスト・コロナ時代のスポーツ観戦・支援の在り方とは。「リモート・ボイス」の事例から考える【ファンエンゲージ】

※この記事は2020年4月17日執筆記事を再掲したものとなります

新型コロナウイルスの感染拡大により、全世界であらゆるスポーツイベントが活動自粛・延期を余儀なくされている。その中でも、各ジャンルのリーグ・チームは、スタジアム内での感染拡大の可能性を十分に排除した上でイベントを再開させる案に頭を捻らせている。例えば、日本のJリーグは、スタジアムの収容率を50%以下にした上で再開することを検討。単純計算で、ひとりひとりの観客の左右前後に他の観客が被らないような「ソーシャル・ディスタンス」を提案している。

ポスト・コロナ時代のスポーツ観戦の在り方として、もちろん、スタジアムの収容率を下げて観客同士の密接を防ぐのも一案であるし、海外のスポーツリーグが検討しているような「無観客試合」も有効な一案である。しかし、これらの施策では、スタジアムに押し寄せる観客は通常時の0-50%にしか至らない。満員のスタジアムでプレーすることに喜びを感じている選手たちには少々物足りない環境であろう。そのような中、カナダのスポーツテクノロジー企業が、ファンが離れた環境にいながらスタジアムに歓声を届けられるシステムの開発に着手。大手ビジネスメディア『Forbes』が紹介した。

同システムの開発を進めるのは、トロントに本拠地を置く「チャンプトラックス・テクノロジーズ(ChampTrax Technologies)」。2018年に設立され、主な事業として、野球、バスケットボール、ホッケーなどのチームパフォーマンスの分析を展開している。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、分析するデータがない中で、新商品「ヒアーミーチアー(HearMeCheer)」の開発・テストに着手した。

同社の創業者であるエリアス・アンダーセン(Elias Andersen)氏によると、サービスの概要は「ファンがお気に入りのチームの試合をソファで観戦し、ファンの音声を収集するために設計されたプラットフォーム」。ファンは自宅にいながら、スマートフォンで同社のウェブサイトにアクセスし、好きな試合を観戦する。同時にシステムのバックグラウンドでは、音声が自動的に録音・サーバーに送信され、参加するファン全員の音声を含むひとつの「オーディオストリーム」が作成される。まさに「リモート・ボイス」と言える仕組みだ。なお、ファンによる侮辱的な発言や、1人のファンによる大声のガヤ・叫び声はフィルタリングされ、生成されるオーディオストリーム上では聞こえないようだ。

さらに、同システムは参加者の音声を収集するだけでなく、チームのファンエンゲージメントにも役立てることが可能だという。ファンが同社のウェブサイトを訪問すると、デジタルの「カード」が配布され、そこにはチームに関する雑学クイズや広告が付与される。試合のない期間においても、ファンとの継続的なタッチポイントを形成できる優れ物だ。

すでに同社は本システムの利用について、「世界上位12のスポーツリーグのうち、8つと密接な交渉を行なって」おり、「スポーツイベントが再開する前にシステムの実証実験を済ませることが目標」であるという。

同システムが生成したオーディオストリームをスタジアムで流し、観客席にファンを形取ったボードやロボットを配置すれば、無観客であってもさながら満員のような環境を仮想的に作り出せよう。もしくは、収容が十分でないスタジアムにおいて、現地で声を上げるファンの声援にオーディオストリームを組み合わせ、声量を最大化することも考えられる。

スポーツを「する・観る・支える」とはよく言ったものだが、「観る」のデジタル化・リモート化が大いに進歩してきたのが直近の3-5年とすると、今後は、デジタル・リモートによる「観る」の多様化や、同様に「支える」のデジタル化・リモート化、および、その手法の多様化が進むことだろう。HearMeCheerによるデジタルカードの配布も「支える」行為であるし、例えば、サッカーJ2リーグの東京ヴェルディは、株式会社pringのサービスを活用して、ファンがクラブに対して応援やお布施ができる仕組みを形成している。これも、スポーツを「支える」行為のデジタル化・リモート化の一種だ。

今回ご紹介したHearMeCheerに筆頭するように、ポスト・コロナ時代のスポーツ観戦・支援の在り方に一石を投じる企業・サービスが、今後も登場しそうだ。スポーツ業界を苦境に追いやるこの新型ウイルスに人類が打ち勝ったとき、スポーツを取り巻く環境はドラスティックに変容することだろう。


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