【スペイン語学習】Netflixでスペイン語②

 コロナ禍も3年目に突入し、おうちでのんびり過ごすことが習慣になった人も多いのではないでしょうか。私の場合、おうち時間を支えてくれるNetflixはもはや生活必需品。それでも往生際の悪い私は、スペイン語の作品を選ぶことで「これも語学の勉強よ」と自分に言い聞かせて罪悪感を減らそうとしていますが、実際、ドラマや映画は語学の勉強だけでなく、舞台となった国や文化のことを知れるので一石二鳥ですよね。

前回はスペイン語のドラマを紹介しましたが、

今回と次回、二週にわたってご紹介するのは、歴史上の出来事や実在の人物を主人公にした映画2本。その国の歴史や習慣も知ることができるのでおすすめです。

 とはいえ、ご紹介する映画は2本とも南米(アルゼンチン、ウルグアイ)に関連しているのですが、どちらも独裁政権を経験した過去があり、拷問や虐殺といった過去の「負の記憶」が描かれていますので、重たいテーマでもあります。今年(2022年)のアカデミー賞短編アニメーション映画にノミネートされていた南米チリの映画 ”Bestia”(ケダモノの意)(Hugo Covarrubias監督)も、受賞は逃しましたが、ピノチェト政権下で行われた拷問が題材です。過去の独裁政権と対峙することは、南米を題材にするにあたり避けて通れないのかもしれません。

2人のローマ教皇(原題:The two popes)
 さて、一本目にご紹介するのは、ローマ・カトリック教会のトップ、教皇の交代劇を描いた映画。ベネディクト16世として教皇の座にあったドイツ出身のラッツィンガーをアンソニー・ホプキンスが演じたことでも注目されました。最近、彼が認知症の父親を演じた映画『ファーザー』を見てその演技に引き込まれましたが、この『2人のローマ教皇』でも驚くほどベネディクト16世に似せた役作りをしつつ、ホプキンスらしさそのままに演じていています。そのベネディクト16世は汚職疑惑やスキャンダル隠蔽疑惑が浮かび上がる中、存命のまま異例の退位を決意したわけですが、映画では彼の人間らしい側面を描き、退位を決断するにいたるまでどのような葛藤があったのか探ろうとしています。


 対して描かれるのは、現在の教皇フランシスコとなる、アルゼンチン出身のホルヘ・ベルゴリオ。こちらはブエノスアイレスのサッカークラブSan Lorenzohincha(インチャ。熱狂的なファン)を自認するサッカー好きの庶民派ですが、ラッツィンガーと対照的に、清貧とラテン系のノリの良さを絵にかいたような人物として描かれます。映画の冒頭、アルゼンチンで”Villa”と総称されるスラム街でミサを終えたベルゴリオが道端の女性からマテ茶をもらいますが、貧しい地区の人であることもいとわず同じカップでお茶を分かち合う場面は、彼の飾らない人柄をアルゼンチンのマテ茶文化の上に端的に描き出していると言えます。が、実はそんなベルゴリオも、1976年からアルゼンチンの政権を掌握した軍事独裁政権下、教会幹部として政権に反対の声を上げなかった自分の態度を深く悔いていることが明らかになります。「二人の教皇」が一緒に過ごすコミカルなシーンは残念ながらフィクションのようですが、そんな邂逅が本当にあったならば、お互いの孤独や葛藤、信仰について率直に語り合うような人間的なやりとりであってほしいという願いが現れているような映画です。

 さてこの映画を語学の点から見てみると、アルゼンチンが舞台となる場面では現地のスペイン語をじっくり聞くことができます。南米や中米の一部ではvoseo(親しい相手に対してtúではなくvosを使う用法)が用いられ、この映画のスペイン語も例外ではありません。Voseoの特徴の一つは、vosに対する命令形のアクセントが一番うしろに置かれる点で、映画のなかでもPasá.(入って)Escuchá.(聞いて)といった単語が簡単に聞き取れると思います。スペイン語学習者としては「これ以上動詞の活用を増やさないでくれー」と嘆きたくなるところですが、聞いているうちに独特の抑揚の虜になること間違いなし。ぜひベルゴリオの台詞のイントネーションを真似してみてください。

 また、カトリック教会が舞台となっているだけあって、教会や宗教に関連する用語が多く出てくるのも面白い点です。ベルゴリオは南米から選ばれた初の教皇ということでも話題になりましたが、日本のキリスト教の歴史とも関係の深いイエズス会(Compañía de Jesús)会士(jesuita)初の教皇でもあります。カトリック教徒の多いスペイン語圏では、宗教関連の表現が日常用語として普段の会話に織り込まれることも多く、文化を理解する一助として、教会やミサの様子を知っておくのも重要かもしれません。

 ところで、この映画で現在のベルゴリオを演じているのは、英国ウェールズ出身の役者、ジョナサン・プライスです。ベネディクト16世との対話の場面では外国訛りの英語を話し、アルゼンチンでの場面では巧みにスペイン語を操っているため、私ははじめ中南米出身の俳優さんだと思いこんでいました。教皇の容姿のみならず、その母語や話し方まで習得してしまう役者魂は本当に驚きです。彼はその昔、マドンナが主役を務めたミュージカル映画『エビータ』で、その夫(アルゼンチンのペロン大統領)も演じていますが、特にバイリンガルであるといった経歴も見当たらず、アルゼンチンに特別な縁があるわけでもないようです。ここまでアルゼンチン人を演じ切る姿を見ると、語学学習にも役者魂が必要かしら、なんて思ってしまいますね。

 なお、フランシスコ教皇は、先般、日本にいらした際に各地で母語のスペイン語でスピーチをされていますので、この機会に聞いてみるのもいいかもしれません。

 長くなってしまいましたので、二本目、ウルグアイを舞台にした映画は次回ご紹介します。お楽しみに~

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