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受験のいろは2:大学は恐怖と闘っている

「滑り止まらないー」。ここ数年、一般入試の指導をしてきた高校の進路指導現場の教諭からよく聞いた言葉です。
売り手市場が長く続いた大学受験市場も、3年前の定員厳格化政策から様相は一変しました。ここ数年は社会科学系の学部を中心に、一般入試が高倍率化して受験生は阿鼻叫喚。同じ地域の名門とされる国公立大学に合格する学生が、中堅クラスのそれまで滑り止め需要で生きてきた私大の一般入試に落ちることがザラ。完全にこれまでの常識が通じなくなりました。中には、入試改革を控えて絶対浪人を避けるつもりで動いたのに「滑り止まらない」人も続出。

そんな中で、大学には何が起きているのでしょう。入試の内情を理解していくと、入試にどう向き合うかは見えてきます。結果を求めて自分や行動を変えていくためのヒントをお届けします。

大学入試は平等か?

結論から言うと、

各論平等。総論不平等。  言い換えて言うと、
同じ入試内では平等。日程のちがう入試毎の比較をすると激しく不平等。

という状態です。
ニュースで某分野の大学が、男女に差をつけていたとかありましたが、そういった細かい事例の議論はここでは避けます。全体として、多くの大学がその不均衡の矛盾と闘っているということを知ると、自ずと動き方がわかります。

大学が置かれている状況の変化

ちょっと歴史の話です。
少子化により、大学の需給バランスは以前より売り手(受験生)優位の時代になりました。大学は、ベビーブーム世代の子どもがあふれていた春の時代から、苛烈な競争に突入したわけですが、一方で教育政策の転換もそれを助長しました。

全体の話からすると、教育政策は「答申」といって、専門家たちの会議を経て文科省から向こう何年間かの教育行政の大きな方針が示されます。その方針の示された後、その実現をするために、様々な施策やルールが増えていきます。ルールが決まってからでは遅いので、大学はその答申を理解しつつ、先読みして舵取りをしていくことが求められています。

最近のもので大きかった政策変更は「選択的資金配分」。
簡単に言うと「文科省の教育方針を実現する方向で頑張る大学は補助金を増やすよ。そうじゃない大学は補助金あげないよ」という一律平等の支援からの転換です。
その中に、「定員割れ学部学科への補助金減額」という大きな変換がありました。すなわち、「想定の学生数を集められない大学が潰れる」ことの加速を助長する方針です。そこに、学問的価値や、人気の浮き沈みの評価はありません。

なぜ、こんな変化が実施されたのでしょう。
いくつも理由はありますが、大きなものは「投資価値」と見ています。

長く、大学は自治を理由に多くのことが非公開でした。もちろん意味のある面もあったのでしょうが、中には不透明な資金流用や教育の堕落なども散見されました。

その間に、「大学はレジャーランド」などと揶揄されることも定番化し、入学時の偏差値がそのまま卒業生の付加価値の評価、というおかしなことが長く続いてきました。もちろん全ての大学がそうではないし、個々の教職員たちで必死に指導している人はたくさんいたのですが、総論として大学はそういう組織だと見なされていました。そうこうしているうちに、国際的に優秀な学生の獲得競争が始まり、大学ランキングなど某国や一部の大学にとって都合の良い指標化などが一般化し、日本の大学は遅れを取っていったのでした。(私は大学ランキング上位校が良い学校とは必ずしも思いません)

その状態や評判で、「もっと投資をしろ」といっても説得力がありません。
きっと、文科省の方が長期的なビジョンの中で、考えていたことはこんなことだったのかと思います。

限られた税収という財源から投資を引き出すには、文科省は国債で借金だらけの財務省に「大学を最高学府とした、教育の投資価値」を示さなくてはいけない。投入された税金より、大きな成果になって返ってくる可能性を示さなくてはいけない。

そのために、潰すところは潰して、価値のある大学に集中投資していきたい。目に見える成果を提示しなくてはいけない。無償化を控えた準備でもあったでしょう。

その流れからの「アメとムチ」と「見える化」の行政政策の結果が、補助金の配分変更と、情報公開の流れでした。

その結果です。
ただでさえ40%の大学が定員割れをしている中、補助金まで止められるとアナウンス。子どもはさらに減る。
「絶対定員割れできない」という恐怖に各大学は震えながら生きていくことになりました。一度でも階段を降りたら、上がるのは容易ではない片道切符です。

ホテルや飛行機と同じ

定員割れの恐怖の中で、大学が考えること。
簡単です。「定員をとにかく満たすこと」が最優先になります。

以前は定員ギリギリのラインでも「この学力の学生を引き受けたら、入学後の質に関わる」という判断がしやすかったのです。多少定員が割れても、その方が良い教育ができる。そういう判断が当たり前にできたのです。
ところが、定員割れへのシビアな対応が決まってからは「まずは定員達成ありき」という雰囲気が強くなりました。

結果、大学は「早く定員を満たす安心感」を欲するようになりました。なるべく早く定員を満たす安心感が欲しい。安心を手に入れてからの質、という発想です。その結果、比較的早期に入試を開催することが許されているAO入試や推薦は人数確保、学力試験中心の一般入試は質の担保、という流れが出来上がりました。推薦、AOのバーゲンセールです。最低限の質を担保すれば、まずは数が正義という雰囲気がもたらした風潮です。(ちなみに、入試の開催時期や種類も、文科省からコントロールされています。)

よく、高校の教育現場では「あの大学は推薦と一般入試の学力差がひどいから送らない」なんて声をよく聞きました。でも、そんな意見は感情論で、構造を考えれば致し方ない流れなのです。

航空券やホテルの予約は、「予約が早いほど安く、徐々に高くなる。直前に空きやキャンセルがあれば再度バーゲン」という流れが普通です。同じことが大学に起きているだけのこと。多分、大学も意識せずそうなってしまっているのです。

休みを確定しやすい旅行出発の2週間前ぐらいに予約をすると、最高値になりますよね。でも、そのことに対して旅行会社に文句を言う人はいません(言う人はクレーマー)。盆と正月が高いのも同じです。大学も一緒です。

みんなと同じペースでゆっくり自分のペースで決めたら、高い倍率。
みんなより早く動き出し、しっかり準備して望めば、低倍率や、やや甘めの判定が出る特典がある。

ただ、それだけのことなのです。
それが、近年の一般入試の高倍率化を生んだステップ1でした。

もちろん、高倍率の超人気大学など例外はありますが、総論はこんな感じです。
時期による不平等の入試構造。入試を考えるヒントにしてみるといいでしょう。
相手がわかれば動きが変わります。

次は、ステップ2として、定員の抑制という動きがあり、近年の一般入試の高倍率を生みました。それはまた次回に。

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